第1話 散る桜と薄まる思考(前編)
桜舞う4月上旬、己の新しい門出に沸き立つ入学式。これからの生活に胸を膨らませ、思いを馳せる。そんな周りの同級生を尻目に俺は1人この先を考えて苦悩する。
俺がこの学園生活に求めているものはただ1つ。平穏無事だけなのである。
しかし色々と問題が多いのだ。が、この話はまたの機会にしよう。
俺が通うこの「奉賀学園」は別段偏差値が高いわけでも低い訳でもない。早い話が【自称進学校】と呼ばれる様な学校だ。
壇上では校長先生が自称進学校らしく、受験は団体戦だの、自覚を持てだのと、宣っている。
俺はそんな話には目もくれず、どうせ暇だろうと準備しておいたお手製のナンプレを黙々と解いていく。しかし、中盤から一向に進まない。別に問題に不備があったとかそういう訳ではないのだ。
思考を妨げる原因が外部にあったに他ならない。
うっるさいなぁ。なんでこんな時に静かにできねぇんだよ。騒いだりしたら式が長引くだろーが。
仕方なくナンプレを解くことを放棄し、騒音の出処を目立たないように探すことにした。
しかし幸か不幸か、そのノイズ発生装置は探すまでもなかった。隣の席の奴だ…。と思った時には、伏し目がちに探していた俺の視線とそいつの視線が衝突した。というか向こうはずーーっとこっちを見てるんだけど…。気持ち悪っ!!
驚きと嫌悪感が同時に責めてくるという、なんとも言えない気持ちになりながら様子を伺っていると、結構な声量で話しかけられた。
「なぁなぁ、俺ずっと話しかけてるんだけど、なんで無視するんだよ。」
キョトンとしてしまった。誰コイツ…。と思うが早いか、
「何度も何度も初めましてって言ってるんだから、挨拶返せよな。人間として常識だぞ??」
思考と体がフリーズしてしまった。
自分のことを棚に上げてるなんてもんじゃない。
その発言以外の全てが非常識な奴だ。例えるなら、露出狂に赤信号は渡っちゃダメだよって言われるくらいのレベルだ。
ただ、俺は知っている。この手の輩は刺激してはいけないと。ぜっったいに反論はしてはならないと本能が告げている…悔しいけど話を合わせるしかない…目立たない為にも…仕方あるまい…
「ご、ごめん。他の事に集中してて…はじめまして…」
みたか、この無難な返しを。謝罪から入るのは鉄則なのだ。