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第4話 難易度はヘルモード (後編)

裏切られたかった期待を鮮やかに裏切り、やはりアイツだった。


問題になってしまったあの入学式で隣だったやつだ。


「いやぁでも入学初日から季節外れのインフルエンザなんてツイてないな。アキは」


最後の一言の意味はよくわからないが、本当にツイてない。


ただそれはインフルに罹ったことだけでは無い。


むしろそれ以外の学校に関わること全てがそうであるかのように思う。


「確かにツイてないな…これからが不安だよ」


皮肉を込めて応えるが、案の定そんなもの意に介さないというか、理解してない様子だ。


「そうだよな!やっぱ遅れた分の勉強とか不安だよな!!でも安心しろ!心の友であるこの俺がしっかりフォローしてやるからな!」


「待て待て、いつから俺とお前は心の友になったんだ?知り合って2日目だぞ?」


「アキにとっては2日目かもしれないが、俺にとっては1週間目なのさ!まぁとにかく、色々教えてやっから!それじゃ放課後な!」


そう言うと反論の余地を残さず高倉は自分の席に戻って行った。


あまりにも鮮やかに一連の動作を終えるものなので、ボーッとヤツの言葉を反芻するしか無かった。


「随分と騒がしい"心の友"なのね」


後方からヒヤリとした突き刺すような声が聞こえた。


恐る恐る振り返ると斜め左後ろに座っている鴇田颯華の姿があった。こんなに近かったのかよ…


「いや、アイツが勝手に言ってるだけだからね?」


そんな弁明なんて露知らず、彼女は文庫本に目を落としたまま


「そうそう、言い忘れてたけど私にはあまり声をかけないでくれる?心の友だと思われたくないから」


「いや、今回は不可抗力だろ。君から話しかけてきたんだから」


パタンと文庫本を閉じ、視線がようやくぶつかると


「た、確かにそうね。じゃ、じゃあ今回の件は不問してあげるわ」


内心してやったりと思っていたが、思っていた反応と違い少々困惑した。


「まぁ、こっちとしても助かるよ。僕の目標は平穏無事に過ごすことだからね」


ピクっと彼女の眉が動いた。


「それはどういう意味かしら?まるで私と関わるとそうはならないって聞こえるんだけど」


みるみる眼光が痛いくらいに鋭くなっていく。


「い、いやだって教室での君を見ていると完全に浮いてるじゃないか」


そう、休み時間であるにも関わらず女子特有の群れに属している風でもなく。かといって彼女の机に人集りができている訳でもない。


少なくとも彼女はグループというものに所属していないのだ。


まぁグループに所属していないのは僕もそうなのだが…


「あなたにはわからないだろうけど、これはね浮いているんじゃないの」


急に立ち上がって目を泳がせながら演説をし始めた。


「ま、待て また後で聞くから…」

僕の必死の抵抗虚しく

聞こえていないのか彼女は演説を続けた。


「いい?ほら私って可愛いから、それに趣味の合う人がいないのよ。そ、それにあなたの席の近くだからって理由もあるわね。それに、ほら、あとは、」


「もういい!わかったから!一旦座ってくれ!」


そこまで大きな声での演説ではなかったが、近くにいた数人にはギリ届いていたっぽい。


涙目になりながらそんな演説をする女の子、そしてその前で必死に懇願し続ける入学してから初めて見る男子。


はい、やばい空間の一丁上がり。


言いたいことを言い終えたからか、彼女は大人しく座ってくれた。


ちょうどその時前方の扉が開いて先生が入ってきた。


危なかった、救われた。


「はいじゃあ授業始めるぞ。」


その一言で生徒たちは各々自席へと戻る。


後ろからは鼻をかむ音がかすかに聞こえるが、気にしないでおこう。


さて、確かに高倉の言う通り途中から授業を受けるのはやや不安だ。


はたしてついていけるのだろうか。

あと、このクラスで僕はこの先やっていけるのだろうか…

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