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第一話 教え子との再会

新作です、よろしくお願いいたします!

初日は5話まで投稿予定です。

 日々、剣を振る。

 それが俺のやるべきことだと思ったから。

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。

 そうすることで、俺の心は鋭く研ぎ澄まされていった。


 エルゼガル王国の騎士団に入団したのが、確か十五の時。

 小さな村で生まれた俺は、一人で鍛え続けた剣術を買われ、騎士団の仲間たちと共に多くの戦場に飛び出した。

 数えきれないほど斬って、数えきれないほど斬られた。

 それでも俺は、剣が振れたらそれでよかった。


 ただがむしゃらに剣を振り、気づけば二十五歳で騎士団長になっていた。

 最初は実感がわかなかったが、部下ができたことで徐々に自分の立場を自覚していったのを覚えている。

 

 結婚したのは、三十歳の時。

 たまたま遠征の際に寄った村にいた女性に恋をして、求婚した。

 

 しかし三十二歳の年のこと。

 災厄の魔王が地の底から復活を遂げ、世界は平和ではなくなった。

 騎士団を辞め、村で妻と安らかな生活を送ろうと思っていた俺は、ここで王国へと呼び戻される。

 王が直々に下した命は、〝勇者〟という存在の育成。

 才能に溢れる十人の勇者の卵たちを、魔王に勝てるレベルまで育て上げることだった。

 教えることは苦手じゃなかったし、自らの使命を受け入れていた彼らは、貪欲に俺の教えを吸収してくれた。

 やがて死地に送らねばならないことに心を痛めていたが、それでも、彼らとの日々は楽しかった。


 三十五歳の時――――結局〝勇者〟に至らなかった子たちもいたが、最終的に三人の〝勇者〟が生まれた。

 彼らを送り出した俺の役目は、ここでようやく終わる。

 それから魔王の作り出した軍勢による攻撃を警戒し、一年ほど王都に残った。

 勇者の活躍によって魔王軍の力が弱まっていると知り、妻の元へ戻ることが許されたのが、三十六歳。

 

「メイリー! 今帰っ……た……ぞ?」


 馬車に揺られること丸一日。

 自分と妻であるメイリーの住む家の扉を開けた俺は、言葉を失った。

 そこに、メイリーの姿がない。

 それどころか、家具や騎士団時代に使っていた大事な剣まで、家の中には何一つ残されていなかった。


「メイリー……?」


 部屋の中には、一枚の羊皮紙が落ちていた。

 そこにはローグさんへ――――と、俺へ向けられたメッセージが書いてある。

 俺はそれを拾い上げ、目を通してみた。


『私はあなたと別れ、旅の人と一緒になることにしました。あなたのような真面目さだけが取り柄の男よりも、旅の人は勇敢で、ユーモアがあり、なによりもワイルドで、とても魅力的です。この人と出会ってから、あなたとの結婚を後悔しない日はありませんでした。もう二度と会うことはないでしょう。どうでもいいことではありますが、お元気で。家の物は、私に結婚を後悔させた慰謝料ということでもらっておきます』


 読み切ると同時に、俺は膝から崩れ落ちた。

 涙がとめどなく溢れだしてくる。

 悲しみ、怒り、悔しさ。

 あらゆる感情で、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。

 

 騎士団を辞めるはずが無理やり王都に呼び戻され、責任重大な任務を終えてようやく辞められたと思えば、いつの間にか妻も財産も奪われていた。

 俺の人生はきっと、最悪の部類に入ることだろう。


 つーかなんだよ、慰謝料って。

 こんな薄情な女に惚れていた自分が、無性に許せなくなった。

 ざわつく心を静めるため、浴びるように酒を飲む。

 飲んで、飲んで、また次の日も飲んで。


 ――――それから、さらに三年の月日が経過した。



「ん……?」


 その日俺は、扉がノックされる音で目を覚ました。

 メイリーと長く住むはずだったこの家には、最低限の家具だけが並んでいる。

 そんな殺風景な部屋の床には、大量の酒樽が転がっていた。


「うっ……頭いてぇ」


 今日も二日酔いか。

 そんな風に思っていると、再び扉がノックされる。

 来客なんて、本当に珍しい。

 俺のことを気の毒がっているのか、それとも不気味に思っているだけなのか分からないが、村の人間はほとんどここを訪ねない。

 何かよほどの用があるのかと思い、俺は扉を開けることにした。


「はいはい……どちらさんでしょうか」


 扉を開けた先にいたのは、一人の女性だった。

 とてつもなく整った容姿を持つ彼女は、俺を見た途端に安堵したような笑みを浮かべる。


「……久しぶりだね、ローグ師匠」


「へ?」


 久しぶりと言われて、俺は固まる。

 こんな美少女、自分の知り合いにいただろうか?

 まずい、このままじゃだいぶ失礼な奴になってしまう。


「もしかして……ボクのこと忘れちゃった? それはちょっと寂しいかも」


「ボク……あ!」


 目の前に立っている美女の顔を、よくよく見てみる。

 すると記憶の中のとある少女と、目の前の女性の顔が徐々に重なっていった。

 今よりも背が低くて、顔も幼いけれど、確かに面影がある。


「もしかして……エヴァか?」


「っ! 覚えていてくれて嬉しいよ、師匠……!」


 そう言いながら、エヴァは感極まった様子で俺に抱き着いてくる。

 

 王都を出発してからわずか二年(・・)で災厄の魔王を倒した〝勇者〟の一人、エヴァ=レクシオン。

 完成した〝勇者〟の中でも最強と言われるほどの実力者であり、ついた異名は、持ち前の金髪を絡めて〝金色の流星〟と呼ばれている。

 さらに驚くべきことに、魔王を倒した時の彼女の年齢は、十五歳。

 最年少ながら世界を救った英雄であり、俺の自慢の教え子だった。

 そんなすでに住む世界が違うはずの存在が、目の前にいる。

 というか、腕の中にいる。


「って、離れろ離れろ……四十手前のおっさんに抱き着いたって、なんもいいことないぞ」


「せっかくこうして再会できたんだから、これくらいはいいでしょ?――――あ、いや、ごめん。そういえば奥さんがいるんだよね」


 エヴァは突然テンションを落とし、俺から離れる。

 しかし俺の背後にある惨状を見て、彼女は首を傾げた。


「あれ……奥さんは?」


「……三年前に旅の男と駆け落ちしたよ。家具も財産も、全部持ってね」


「え……」


「あはは、おかげで無職バツイチ独身貯金なし男の完成さ」


 信じられないという顔をするエヴァ。

 分かるよ、俺もいまだに信じられないから。


「……ここで話すのもあれだし、とりあえず中に入るか? 汚いところはすぐに片付けるよ」


「――――師匠を裏切るなんて、その女、いい度胸してるね」


「あ、あれ、どうした? エヴァ」


「――――でも駆け落ちしたってことは、今の師匠は独り身? それならアタックしても誰も文句は言わないよね?」


「……エヴァさーん?」


「――――誰かに取られちゃうくらいなら、無理やりにでも……」


 彼女の口から、何か恐ろしい言葉が聞こえた気がする。

 このまま家に招き入れていいものか怪しくなってきたが、こうしていると自分の愛弟子が村の人たちからぶつぶつ言っている変人だと思われてしまう。

 俺はしばらく葛藤した後、エヴァの肩を軽く叩いた。

 

「……はっ! ごめん、トリップしてたよ」


「いや……うん、戻ってきてくれてよかった。ほら、一旦中に入ってくれ」


「家に招かれて二人きり……つまり結婚⁉」


「本当に大丈夫?」


 ここ数年で、俺の愛弟子はどこかおかしくなってしまったのだろうか。


(……いや、今更か)


 俺の経験上、強い奴は常にどこか頭のねじが外れている。

 今思えば、エヴァも昔から何故か俺にべったりだった。

 二十以上も歳の差があるというのに、俺に向けて熱っぽい視線を――――。


 うーん……この話はやめておこう。


 俺は情報を無理やり頭から追い出し、部屋の片づけを始めた。


一章が終わるまで、今後は毎日8時に投稿させていただきます。



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