プロローグ3 形見
僕は握っていた手を開いた。
「見も知らない母親より、僕は、彼女の形見を持っていきたいよ」
「それはやめておきなさい」マキナは強めに否定した。
「なぜ?」
「あなたはこれから、もっとたくさんの、数え切れないほどの遺跡を崩していかなければならないのです。ひとつひとつに形見を求めていては、1年と経たないうちに荷物で身動きが取れなくなってしまいますよ」
「彼女は第381共同霊園といった。霊園だけでも、少なくともあと380ヶ所は回らなきゃいけない」
「それは違います」
「違う?」
「同期が可能だった建物に関してはすでにすべて維持停止を命じています。あなたが回らなければならないのは、同期不能になった孤立マキナが管轄する建物に限られます」
「遺跡を崩すとか、解体するとか、じゃあ、それって、第381共同霊園のような孤立マキナのために解放を与えるのが目的ってこと?」
「それだけではありません」
「?」
「この星にはいつかまた人間のような知性体が生まれます。その文明の形成を私たちの残したものによって邪魔したくないのです」
「技術レベルの高い遺物があった方が発達の助けになりそうだけど」
「その発達は模倣です。かつての人類と同じところに到達しても意味がない。星の寿命を食い潰すだけです。第2の私たちを生み出し、滅んでいくだけです。実際、あなたたちの次の知性体がそうだったように」
「君は輪廻が嫌いなんだね」
マキナはいささかぐったりと体を倒した。
「私たちはその創造主たる人間を克服しました。人間を生み出した創造主に倣うことでより高次な存在に抜け出したいのです」
「膝の上で言われてもこわくないよ」
「なんだか少し眠いのです。次の建物に向かうのは目が覚めてからにしましょう」
マキナはそう言うと目を瞑ったまま大きく息を吸った。
僕は少し迷ってから手の中の宝石をブロックの上に置いた。
さようなら。さようなら、人の子の僕。