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水晶宮3

 後ろに人型のものが立っていた。

 背格好はマキナと同じくらいだけど、黒い服を着ていて、右肩の後ろに翼が浮いていた。翼……? 正確に表すなら、ショーテル型の基部の周りに細長いフィンが4つ並んでいた。


「君は」僕は訊いた。

「第381共同霊園です」

「霊園?」

「はい。お参りではないのですか?」

「というと?」

「今まで、人々がここを訪れるとすれば、故人を葬り、納めるためか、あるいは故人に祈りを捧げるためでした。あなたは死者でもないし、死者を連れてもいない。会いたい人はいませんか」

「そう言われても、他人と接する機会なんてほとんどなかったし、まして名前なんて聞きもしなかったから……」

「名前でなくてもお探しできますが」

 自分はどうなのだろう?

 新しい体を与えられたということは元の体は死んでいるんじゃないか。

「E19010036は」

 第381共同霊園は少しだけ沈黙した。

「その人は死亡記録がありません。まだ存命ではないですか?」


「じゃあ、ケイス・ファーレンフェルトは」

 それは僕が唯一知っている人間らしい人間の名前だった。

「知っていたのですね」とマキナ。

「僕の母親だよ。でも直接産んでもらったわけじゃないし、顔も知らない。ただその人から造られたというだけのことで」


「少しお待ちください」第381共同霊園が上を見た。

 シャンデリアの奥の方から光の粒のようなものが下りてきてその手に収まった。

「どうぞ」

 第381共同霊園が僕の手に預けたのは透明な立方体だった。1辺1cmくらいしかない。僕はそれを光に翳した。

「ダイヤモンド?」

「はい。そしてあなたの故人でもあります」

「これが、人?」

「ええ」

「遺灰を高温高圧で焼き固めて変成させたのです。死者を人造ダイヤモンドに変える葬り方はあなたの時代以前にも存在していましたよ」マキナが説明した。

 理屈はわかるけど、だからって感触が変わるわけじゃない。これが人だって感じはしない。


「ご遺体をダイヤに変えるための高圧炉が東向きに6基あります」と第381共同霊園。

「技術的には何も残さずに焼き尽くすことも可能なの?」

「はい」

「こんな形にしてまで残さなきゃいけないものなのかな……」

「永遠を欲したから、ではないですか。たとえ命を失っても、命という脆弱な部品を取り払ってでも、永遠になりたかった。永遠に傷つかず、壊れず、輝き褪せることもない宝石に」第381共同霊園は答えた。


「外から見たらこの建物そのものが大きな宝石みたいだったよ」。

「そうです」

 半分冗談みたいな言葉だったのに、第381共同霊園は真面目に答えた。

「……この建物全体、全部がかつて人だったものでできている、という意味?」

「そう」

「でも、この大きさが一人分でしょ? 床や柱に使われているブロックはもっと大きい」

 第381共同霊園は膝を折ってその場に座った。長いスカートが扇のように広がった。

「無縁仏です。誰なのか、どこでいつ亡くなったのかもわからない人々のお骨の寄せ集めです」

「1個の中に何人も入っている?」

 第381共同霊園は頷いた。

「そうは言っても、ブロック1つでこれの100倍以上体積があるよ。それが一体いくつ……」

「そう。ですから、それだけたくさんの人々が無縁仏になったのです。人々が故人のお骨を大切に保管した結果、長い月日星霜を経た後、誰のものともつかない大量のお骨が私たちのもとに残されたのです」


「何人分くらいの骨がここにあるんだろうか」

「わかりません。残念ですが、建設の際に私が命じられたのは、数えること(・・・・・)ではなく、量ること(・・・・)でした。私に言えるのは、ブロック1つの重さが4〜5キロ、建物全体でそれが2億個以上使われているということだけです」

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