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幼馴染を迎えに行く話  作者: たなたか
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凱旋

 やっとこの時が来た。

 生まれ育った町から飛び出してはや六年、俺は貴族となりカレンに求婚をする権利を手に入れた。

 この国では貴族と婚姻を結ぶことができるのは貴族だけだと決められている。

 領主の娘であるカレンと婚姻を結ぶためには俺が貴族になるしかなかった。

 平民が貴族になる方法は大きく分けて二つ。

 功績を立てるか金を積むかだ。

 貴族になるには現貴族からの推薦状が三枚必要になる。

 そのうちの一枚は伯爵以上の爵位のものでなければならない。

 自分の実力を国に認めさせるのが功績を立てる方法。

 金で推薦状を貴族から買い取るのが金を積む方法となる。

 そのうち俺は金を積むほうを選んだ。

 いまがとても平和で武功を立てるのは難しく、研究で成果を上げるのは非才な自分にはとてつもない時間がかかる。その上、達成することそのものができるかも怪しい。

 それをするよりもどうにかしてお金をかき集めるほうが簡単なように俺には思えた。

 金で買うといってもただ一定額集めればいいというほどあまくはない。

 貴族になるということは多かれ少なかれ国政に影響力を持つことを意味する。

 その判断は生易しいものではなく、信頼が必要となる。

 二枚の推薦状は困窮している零細貴族から買い取ることができるが、伯爵以上は金に困ってるということはほとんどない。

 国有数の大商会であれば無視できないほどの金を積めるかもしれないがそれは現実的とは言い難い。

 俺の目的がカレンへの求婚である以上、時間をあまりかけてはいられない。

 領主様は俺の意気込みをかってくれてカレンの結婚を待たせてくれると言ってくれたが、貴族としての務めがある以上、適齢期の娘を遊ばせておくわけにもいかないのだろう。

 期限はカレンが十九歳になるまで。

 普通の貴族が十七歳には結婚することを考慮すると相当待ってくれているほうだ。

 とはいえ、カレンは俺より二歳年下とはいえ当時十三歳の平民のガキだった俺が期限までに貴族になるのは無理難題に等しかった。

 だが、俺はやり遂げた。

 これで大手を振ってカレンに会いに行ける。

 今まではお忍びという形で俺の家が経営していた料理店に来ることでしか会えなかったけれど、もう俺は貴族として領主様の家へ訪ねることができる。

 すでに爵位を与える儀式は王都ですみ、貴族名簿には新しく俺の名前が刻まれてある。

 爵位は一番低い男爵ではあるけれど、カレンも貴族ではあるから問題なし。

 カレンには兄二人と姉が一人いるから跡取りとなる必要もなく、二人で生活することも夢じゃないだろう。

 今は王都から生まれ故郷に凱旋しているところだ。

 そしてカレンに正式にプロポーズする日でもある。

 目的地に近づくたびにいろんな思い出がよみがえってくる。

 そう、元はと言えば一目ぼれだったのだ。

 お忍びとして平民らしい格好をしていたけれどそんなことが意味をなさないほど美しいブロンドの髪に美しい所作。

 料理を口に入れておいしそうに目を細める姿は幼い俺の心を焼き尽くすには十分すぎるか力をもっていた。

 カレンはうちの料理を気に入ってくれたのか定期的に足を運んでくれるようになり、俺はカレンが来るたびに夢中になっていった。

 カレンを見つめるだけの日が変わったのはいつだったか。

 俺から新作のメニューがあると自分から話しかけたのだ。

 緊張でかまないように細心の注意を払ったことを今でも覚えている。

 そのころの俺はカレンに自分が作った料理を食べてもらいたくて料理の練習に精を出していた。

 この新作メニューは他のと違い、俺が発案したメニューだった。

 もちろん、当時の俺はまだ厨房には立たせてもらえず、給仕や仕込みくらいしかさせてもらえていなかったから作ったのは親父だけど。

 それでも、カレンがおいしいと言ってくれた時はそれはもう嬉しかった。

 それから俺はカレンが来るたびに話しかけるようになった。

 お忍びとして来てるからだろう、カレンが来るのは決まって人が少ない時間帯だったため仕事片手間に話すのは難しいことじゃなかった。

 カレンの隣には護衛としてなのかいかつい執事がいるけれど、俺がカレンに近づきすぎなければ気にする必要はなかった。

 きっとこの執事は俺がカレンに夢中だったことも、それをあきらめていたことにも気づいていたんだろう。

 貴族に恋をするなんて無謀もいいところだ。

 お忍びできているからこそ気軽に話すことができる。けれどそうでもなければ会うことすらままならない。

 カレンも俺と同じ想いを抱いてくれていたことに気づいていた。

 だとしても、俺にできることは身の程をわきまえてこの幸運を思い出にすることだけだった。

 実際、俺はそのつもりだったしそれはカレンも同じだと思っていた。

 あくまで客と店員という関係が崩れたのは意外なところからだった。

 その日いつもの執事にエスコートされて入ってきたのはカレンではなく領主様だった。

 この日から俺の人生が一変することになった。

 領主様が持ち掛けてきた話は突拍子もないことだった。

 カレンは俺が思っていた以上に俺のことを想ってくれていたのだと領主様は言った。

 領主様が持ってきた縁談相手と会うことすらせずに全て断るほどには。

 無理に婚約させるとどんな風にこじれるかわからない。もし婚姻相手と不仲になり、その原因が自分の娘となるなど、領主としても父親としてもしたくないのだそうだ。

 解決すさせるには俺への恋心をあきらめさせる必要がある。

 だから、カレンを説得するために領主様は俺を説得しに来たのだった。

 正直、チャンスだと思った。

 領主様に直訴ができるのは今しかない。

 貴族の娘が平民に熱を上げていることは醜聞になる。

 強硬手段に手を出して大事にはしたくないからこそ俺を説得することにしたんだろう。

 ただ予想外だったのは領主様がだした条件が俺にとって都合がよすぎるものだったことだ。

 その条件が俺に貴族になるための活動をすること。

 カレンの恋心は屋敷では広まっていて一部の噂好きの貴族にも知られてしまったそうだ。

 ただ、これが何のとりえのない平民に対する無謀な恋だったとするよりもカレンのために貴族になろうとする有望な人だった場合社会的ダメージはかなり抑えられるらしい。

 さらにもし貴族になることができたら実際に結婚も認めるともおっしゃった。

 それまで婚約者をあてがうこともしないでおくとも。

 貴族に新しくなった平民は優秀であることが確約されている。そのため血筋にこだわる貴族以外にとってはかなりの優良物件になるらしい。

 当たり前だけど貴族になれなかった場合は俺は二度とカレンの前に姿を出さないことを約束された。

 領主様からは軍資金と監視役として一人の執事を与えられた。

 執事は俺が金を持ち逃げしたり犯罪や浮気をしたりしないようにしながら俺の手伝いをしてくれる役割だ。

 領主様と話し終わると俺はすぐに行動にうつした。

 幸いなことにお金の管理や店の経営などは応援してくれた両親や与えられた執事のマイルがしてくれるので、闇雲に勉強するところから始めなくてよかったのが救いだった。

 もちろん俺が実績を出し貴族として認められなければならないため、勉強は欠かすことができない。

 特に礼儀作法なんかは覚えなければ貴族の屋敷にすら上がらせてもらえないのだから死に物狂いで勉強をした。

 元々俺にできることは料理くらいしかなかったから俺がお金を集める方法も当然それになった。

 貴族にふるまうような高級料理店は費用も技術も足りていないから立ち上げるのは大衆料理店しかない。

 そのうえで大きく稼がなきゃいけないというのは困難を極めた。

 いろいろと悩んだ末に出した結論は料理の簡潔化だった。

 より少ない工程で十分な味と量を提供することを第一に考えた料理方法だ。

 最初は一番おいしいものを提供するのが料理人としての誇りと言って難色を示した両親をどうにか説得して、仕込みも調理も最低限の味はそこそこだけど素早くできて安くて腹にたまる大衆向けの料理店が出来上がった。

 料理の単価こそやすいものの多く提供することによって利益はかなり伸びた。

 これを足掛かりに別の町でも似たような店を立ち上げ、これもまた上手くいった。

 簡潔な料理なため特別料理に理解のある人でなくても作ることができたというのが大きいのだろう。

 二月もすれ料理は新しく雇った人だけで回せるようになっていた。

 そのあとは他の店舗がうちのやり方をまねたり人員の引き抜きをしかけられたり多少の障害はあったけれどおおむね順調に俺の店は拡大していった。

 当然、料理の勉強も手を抜くことはしなかった。

 お金を稼ぐためにこんな手段をとったけれど俺にだって一端の料理人としての誇りはあるのだ。

 理想を言えば俺が貴族となって信頼を得た後は、大衆料理店の経営権は他の人に売ってその資金を使って貴族街で高級料理店をやりたいと考えている。

 もちろん最初の客はカレンしかいない。

 貴族となった今、その夢の実現はすぐそばまで来ている。

 平民上がりの貴族ということでやっかみやしがらみはあるだろうけれど、今となっては時間も資金も潤沢にある。多少の厄介ごとはどうにでもできる。

 そう言えるだけの努力と経験をこの六年で積み上げた自信が俺にはある。

 まぁ、一番の難関はこれからなんだけれどね。

 昔のことを振り返っている間に屋敷にたどりついてしまった。

 俺はもう平民ではないので客人として歓迎されている。

 障害になるような物はなく、あとは俺に度胸があるだけでいいんだが……正直緊張で足が震えている。

 胸ポケットにしまった婚約指輪を確かめて落ち着こうとするけれど逆効果にしかならない。

 この告白が失敗することはありえないはずだ。

 頻繁に手紙でやり取りしあっていたしたまにお忍びで会って話したりもしていた。

 俺が貴族になった報告をしたらそれはもう喜んでいたと領主様からの手紙でも言っていた。

 肉体的なつながりは皆無だけれど想いは、憧れでしかなかった最初のころよりもよっぽど強く大きくなっている。

 少なくとも俺はそうだ。

 俺がカレンを幸せにしたいと本気で思っているしカレン以外を愛せるとは思えない。

 けれどカレンはどうだ?

 もともと可愛らしいといった感じだった。しかし今は成人し、大人の女性としての魅力も持った美しい貴婦人になっている。

 最後に直接会ったのは二か月前だけれどそれはもう輝かしいほどに美しかった。

 さらに勉強にも熱心で、すでに領主様の仕事の一部を任されているとか。

 時には領主様でも気づかなかった問題を発見するなど才女として領民にも人気だ。

 カレンを引手は数多といるに違いない。

 その中にはきっと絵にかいたような眉目秀麗で優秀な身分の高い貴族もいるかもしれない。

 領主様は義理堅いから俺との約束を守ってくれたけれど、あくまで領主様の約束は期限までカレンの婚約者を作らないことと結婚を認めるということだけだ。

 カレンが俺を拒絶した場合、俺は途方に暮れるしかなくなってしまう。

 つまりカレンに好きな人ができてしまった場合俺は引き下がるしかないのだ。

 最後にあった日にはもう貴族になる間近だったということで『あと少しの辛抱、待っています』と言ってはくれていた。

 けれどカレンも貴族として腹芸は苦手ではないだろう。

 もしも……もしもあれらが嘘で本音が別にあるとしたら……。

 さすがに貴族としてのメンツがあるから無下にはされないだろうけれど可能性がないわけじゃないんだ。

「アレン様、いかがなさいましたか?」

 目的地に着いたのになかなか降りてこない俺を心配して執事のマイルが声をかけてくれる。

「いや、どうも踏ん切りがつかなくてな。もうちょっとまってくれるか」

 そういって心を落ち着けようとする俺をマイルは強引に外から引っ張る。

「何言ってるんですか。ここまできて怖気づかないでください。アレン様はもう貴族としてカレン様とも対等な関係になったのですよ?」

 冷静な言葉とは裏腹に俺を引っ張る手はかなりの力が込められていた。

「わかった、わかったから手を放せ!せっかく整えた服装が乱れたらどうする!」

 馬車から降りながらまったく……とは口では呟くものの俺の緊張をほぐすためにやってくれたことはわかるので心の中で感謝はしている。

 口に出すのは恥ずかしいし言わなくてもわかってるだろうし実際そうなんだろうけれど、ふと今日くらいは素直に感謝を伝えてもいいんじゃないかと思った。

「マイル、ありがとな」

 マイルは一瞬驚いたように目を瞬かせるとほおを緩めた。

「ご主人様の助けになれたのなら本望です」

 その言葉は俺にとっても予想外の言葉だった。

 マイルは元々俺のサポート兼監視役として領主様から遣わされた執事だ。

 本来マイルが言うご主人様とは領主様のことを指し、事実これまで俺のことをご主人様と呼ぶことはなくカイン様としか言ってこなかったはずだった。

 そして今の『ご主人様』は明らかに領主様ではなく俺のことを指した言葉だった。

 一瞬呆気にとられたが、すぐに頬を上げていたずらが成功したような笑みを浮かべるマイルに笑い返す。

「領主様から貰うものが増えちまったな」

 元々マイルは俺にとっていなくちゃならない存在だからその交渉はするつもりだったけれど気合の入り方が変わっちまうな。

 いつの間にか足の震えも収まって体は熱で満ちている。

 堂々と俺は屋敷の入り口に近づく。

 扉の前まで行くとメイドが扉を開けてくれた。

「アレン様、お待ちしておりました。お元気そうでなによりです」

 女神がいた。

 今までお忍びで会った時とは比べ物にならないような美しい薄紫色のドレスを身にまとい、輝くブロンドをアップにまとめて美しく編み込まれている。

 薄く施された化粧は宝石の様な瞳に磨きをかけて柔らかそうな唇に大人の艶をもたらしている。

 柔らかく微笑む表情は優しいのに目を離せないほど強い魅力を放っていた。

 社交界で話題に上がるのもうなずける。

 こんなに美しい人は今まで想像もしたこともなかった。

「アレン様、どうぞこちらへ」

 メイドの言葉でようやく我に返る。

 その言葉に従って進みながらどうにかカレンに言葉を返す。

「カレ……カレン殿も、お久しぶりです。元気にしていましたか?」

 しどろもどろでただおうむ返しするしかできなくて恥ずかしいことこの上ないけれど正直俺にはこれが限界だった。

 ともすれば見惚れて先導してくれているメイドを見失ってしまうのではないかと思うほどに今のカレンは魅力的だ。

「はい。幸いにも病気になどかからず健康に過ごすことができていますわ。これも平和な時代を保ってくださる国王様のおかげですわ」

 緊張で頭の回っていない俺とは違い、カレンの言葉は流暢だ。

 貴族と話す機会が結構あったから敬語が崩れたりしないのは幸いと言える。

「そうですね。僕も貴族の一員となった今、国王様の偉大さを理解できるようになりました。世界情勢が安定しているとはいえ小競り合いすらないのは素晴らしいことです」

 この国にも穏健派と強硬派はいて俺は貴族に取り入るときどちらの派閥に入るかを求められることになった。

 穏健派こそ優位にあるけれど強い武力と魔物や他国から国を守り続けてきた実績を持つ強硬派は一人一人の影響力が大きい。

 彼らをまとめ上げることのできる国王の手腕失くしてこの国の平穏はあり得なかっただろう。

 なんて、気をそらそうとしてみるけれど俺が”貴族になった”って言った瞬間カレンが明らかに反応してた。

 あれはどっちだ?

 喜んでるのか残念がっているのか……。

 俺が貴族になることはだいぶ前から決まっていたことだ。

 正式に爵位を受けたのが今日ってだけですでに俺の派閥も屋敷も決まっている。

 まぁ、屋敷については別に店を構えて住む予定だから見掛け倒しの維持しやすい張りぼてみたいなものだけどね。

 当たり前だけど派閥はカレンと同じ穏健派だ。

 これは元々領主様には話してあることだしカレンも知らされているのは間違いない。

 だからカレンが気にしているのは俺の告白だと……思う。

 他に俺が爵位をもらう前後で明確に変わるものはないはずだし。

 カレンは俺のことをまだ好きでいてくれてるのか?

 もしかしたら平民上がりでろくに顔を見せることもできなかった俺に愛想をつかしているなんてこともあり得るわけで……もし仮にカレンが俺に求婚されることを望んでないとしたら立ち直れる気がしないんだが……。

「アレン様?どうなさいましたか?先ほどから心ここにあらずといった表情をしていましたわよ?」

 考え事しすぎたせいかカレンに心配させてしまった。

「あ、いや、すみません。お恥ずかしながらカレン殿があまりにも美しくて見惚れておりました。いつだろうとお美しいですが今日は一段と化粧もドレスもお似合いでございます」

 慌てたせいか咄嗟に商談の時に使う薄っぺらい軽口が出てしまう。

 言葉にした瞬間、冷や汗と後悔が吹き出す。

 ミスをしたときにやるその場しのぎのごまかしとしては十分だけれど今回に限っては馬鹿をした。

 おべっかだとわかるように放たれた感情を含めない言葉はカレンには建前上の言葉と受け取られたに違いない。

 その場合もちろん受け取られる意味は言葉と真逆。

 最悪、俺がカレンのことを好きでもないのに利用して領主様に取り入ろうとしているようにもとられてしまうような悪手。

「ありがとうございます。アレン様は口が達者でおられますのね」

 やっば完全にあしらわれてるよこれぇ……。

 声のトーンも心なしか冷たくなってるような気がするし……。

 いやいや落ち着け。

 露骨なおべっかが好きじゃなかっただけでまだ挽回の余地はあるはず。

 というかぼーっとしてた言い訳として出た言葉ではあるけれど考えてみると嘘は一つも言ってないんだよな。

 見惚れていたのもいつでも美しいのも今日が一段と可憐であるのも何一つ違わないわけなんだし。

 俺の言葉に心がこもっていなかったのが問題だったわけで。

 なら心を込めて言いなおせばいいだけなんじゃないか?

 心からの誉め言葉なら誰だろうと嫌な気持ちにはならないだろうし。

「いえいえ、本心からの言葉ですよ」

 言葉だけだと上手く伝わらないかもしれないからカレンの目を真っすぐ見つめる。

 カレンは突然のことで驚いたように目を開く。

 小さくてよく聞こえなかったけれど、えっと小さな声が漏れたように感じた。

 さっきまで緊張して顔をしっかりと見ていなかったけれど真っすぐ見つめるともう目を離せないほどに引きこまれてしまう。

 この感情を隠すことなく言葉にすれば俺の気持ちも伝わるに違いない。

「カレン殿……」

「はい、どうかしましたか?」

 どうしよう。

 こうして面と向かってほめるとなるとどうしても恥ずかしいというか照れくさいというか……。

 よいしょやゴマすりなんて今まで数えきれないほどしてきたはずだろ。

 好きな人をほめるなんて親の七光りのボンボンを褒めるよりもよほど簡単なはずだ!

 よく見ろ!カレンには褒めるとことしかないんだから!

「あ、えっと、カレン殿は本当に…可愛い…です」

 馬鹿野郎!

 もっとこう、あるだろ!

 瞳が美しいとか髪の編み込みがかわいらしいとかドレスがとても似合ってるとか!

 いや、でもそれをどう伝えれば……。

 下手な褒め方じゃカレンの美しさを表現しきれないし常套句を使ってほめるのは心がこもっていないような感じがするし全力でほめようと思ったら長話になってきもいと思われかねないし!

「えっ、あっ、ありがとう…ございます」

 顔を赤らめて恥ずかしそうにカレンが顔をそらす。

 かっわっいい!

 これだけでもう貴族になったかいがあるってものだ。

 カレンは可愛いなんて言われなれてるだろうしこの照れは俺に対してってことでいいんだよな?

 そうだよ、元々最後に会った時も俺のことを待っててくれるって言ってたんだし今更怖気ずく必要なんてなかったんだよな。

 考えすぎはよくない。

 俺は今までのカレンを信じるしかないんだ。

 今日がだめならまた自分を磨いてカレンの前に立てばいい。

 俺はカレンにぞっこんだからな。

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