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短編とかその他

断罪される無実の少女と、憤りに目をくらませる市民達

作者: リィズ・ブランディシュカ



「誰もが最初は無力な状態から立ち上がって、成長していくのです。だからどうか力がない事を嘆かないでください。貴方に出来る事はきっとある」


 偉人の一人として数えられたとある聖女は、舞台の上で集まった者達へ演説を行っていく。

 空は晴れ渡っている。檀上には多くの花が咲き乱れていた。


「この世界にいる多くの人々が協力しあえば、きっとたくさんの事ができるようになるはずです」


 それか、彼女がまだ落ちこぼれと言われていた過去の話へと進んでいく。


「どうか私の言葉に耳を傾けてください。少なくともここに一人、無力だった頃の自分を克服した少女がいるという事を、どうか聞いてみてください」






 この世界には、多くの人達を苦しめる魔物がはびこっている。

 魔物は普通の動物と違って、身体能力が高い。加えて、特殊な能力が備わっている事もあるからやっかいだ。


 そんな魔物は、狂暴な牙や爪で簡単に人間を引き裂いてしまう。


 だから、人々は毎日魔物の駆除で大変な思いをしていた。


 不幸に嘆き、不安におびえ、脅威に害され、狂気に蝕まれていく。


「魔物が襲ってくるなんて聞いてないぞ!」

「衛兵たちの怠慢だ!」

「誰のせいでこうなったと思っている」

「火事場泥棒が起きたぞ! 誰かそいつを捕まえてくれ」

「誰が犯人なんだ!?」

「疑わしくは罰せよだ。全員みせしめにしちまえ!」


 ひ弱な人間達は、次第に仲間同士で争い合い、自滅していき、瞬く間に数を減らしていった。


 けれど、そんな魔物をいとも簡単にやっつけてしまうのが聖女だ。

 聖女とは、少女だけがなれる、聖なる力を持った存在。

 希望の象徴。






 見目美しい一人の少女ミクリアは、そんな聖女になったばかりだった。


 ミクリアは、毎日聖なる力を操るための修行をこなす。


「この世界の人達のために私にできる事はあるのかしら」


 しかし、修行の内容は厳しく、過酷なものばかりだった。


「駄目だわ、どうしてうまくいかないのだろう。私にはきっと才能がなかったのよ」


 思うように力が伸びないミクリアは、自分の無力にそう理由をつけて、できる者を羨んでいく。


「簡単に力をつけていく人達がうらやましいわ。ひょっとして何かズルでもしているのかしら」


 そんな彼女は次第に、聖女を目指す事を悩むようになった。


 しかしそんな時に、聖女として活動している先輩が声をかけた。


「優秀な者だって誰だって、最初は力のない人間だったのです。大事な事は自分の限界を決めつけてしまわない事。ここまでしかできないと思ったら、本当にそうなってしまう。だから、諦めないで。自分の可能性に蓋をしてはだめよ」


 ミクリアは、その言葉を聞いて、自分の力を低く考えないようにした。


 すると、今まで伸び悩んでいた事実が嘘のように、聖女としての能力が向上していった。


 やがて、立派な聖女となったミクリアは、己の後輩たちに同じような言葉をかけた。


「自分の限界を決めつけないで。自分の力はこれっぽっちだって思ったら、本当にそうなってしまうから。だから、諦めちゃだめよ」


 聖女の卵たちは、彼女の言葉を聞いてすくすくと育っていった。


 やがて彼女の言葉も、立派になった卵たちによって伝えられていく。


 強く立派になったミクリアは偉人の一人として数えられることになった。


 彼女は、若かりし頃の自分をふりかえる。


 自分を教え導いてくれた先輩がいなかったら、自分は聖女にはなれなかっただろうと。







 己の過去を告げたミクリアは、檀上の上から集まった人々に語りかける。


 濡れ衣をきせて、一人の少女に全ての責を負わせ、武器をもって、石を手にしていた人々へ。


「魔物を率いて村をおそったのはその少女のせいだ」

「おぞましい力を使って、人間を根絶やしにしようとしているに違いない」

「よなよな一人で不気味な事を喋っているのをみたぞ」


 彼らは様々な憶測をのべていたが、次第にその言葉は小さくなっていく。


 その場所は、輝かしい舞台などではない。


 血で染まった処刑の舞台。

 多くの血の花が咲き乱れる場所。


 けれど、責められているその少女は無実だった。


 ミクリアは怯える少女に安心させるように微笑んだ。


「誰もが最初は弱くて無力なのです。何もないところから立ち上がらなければなりません。どうか己の無力を過剰になげかないで、己の無力に対する憤りを他人にぶつけないで」


 その演説を聞いた人々は、次第に手にしていた石を地面に落とし、武器を手放していった。



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