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097 ファーシカル・デート 其の一

 『大事にするな』と言ってプレゼントを渡すのは難しい。

 しょんぼり顔の真愛が、包丁セットの包みを差し出して言う――


「やっぱり返します……私なんかが使っていいものじゃありません」

「そしたら不燃ゴミとして処分するからな?」

「そんなっ!?」

「俺は凄い切れ味の包丁を真愛にあげるだけなんだ。折れたり盗まれても怒らないし嘆かない。だって捨てるつもりだったんだからな?」

「でもでも、私は泣くし怒ります!」

「それは自分のためだろ? 俺のためじゃない。真愛は俺のストーカーか? 俺が捨てたゴミを拾って『えへへー』って眺めるHENTAIさんか?」

「そ、そうかも……」

「そうなのかよっ!?」

「いえ、真のストーカーは、涼平さんが何を捨てたいかすら察するのです。そして帰宅前に部屋を綺麗にしておくのです」

「ラファ……本当にありそうな恐い話だからやめて」

「私はまだまだなんですね……」

「そう。真愛さんのストーカー道は、まだ始まったばかりなのです」

「分かりました! 私、真のストーカーになれるように、涼平さんのゴミはゴミとして扱いますっ!!」

「ふふ……この先、道は険しいですよ? まずは鍵の開け方からです」

「頑張ります!!」


 ちょっと待って……話がおかしな方向に……。

 だが真愛は何か吹っ切れたようで、「木とか骨とか金属とか、いろいろ試し切りしてみますね!」と『ぞんざいな扱い宣言』をした。――もう大丈夫だろう。

 鹿ノ介さん、国宝級の刃物をゴミ扱いしてごめんなさい。


「あ、あの……涼平様、わたくしの武器などは……?」

「うん? 無いぞ?」

「そんなっ!? わたくしに無手の格闘家になれとおっしゃるのですか?」

「いや待て、フリシー。俺は武器屋じゃないんだが?」

「私のレイピアも折れたままなのですが……私にも無手の格闘家になれと?」

「えーっと……メリンダさんは何を言ってるんですか?」

「ルー様もラファ様も武器を新調して、真愛も今――わたくしだけ……」

「いえフリシー、私もです。世知辛い世の中なのですね……母子家庭にとって」

「おい!? 私の存在を記憶から抹消しないでくれ!」


 影パパが灰皿をハンドルのように回しながら狼狽(ろうばい)している。

 結局、この母娘にも武器を買ってあげるしかないんだろうなあ……。

 影パパであり借金パパだもんな……と考えていると、何故かメイドさんがお盆で半分顔を隠しながら、もじもじしている。


「あの……」

「メイドさんまで武器が欲しいのかよっ!?」

「暗器など……」

「なんでっ!?」


 メリンダさんを影で支える、『できるメイド』に憧れているのだろうか。

 影パパも子犬のような目でこちらを見ているが、無視しておく。

 灰皿以上のものを持たせても、ロクなことにならないだろう。


 置行堀(おいてけぼり)の妖怪達を武器屋に連れて行く約束をして、深夜に至った進呈式も、これにて閉会となった。



§



「なんか、スケジュールがびっしりなんですけど……」


 夜が明けて、食後に女性陣から渡された一枚の紙には、これからの行動予定が細かく書き記されていた。

 俺は最低でも三日間、この町に拘束されるらしい。


「俺の意思が介在する余地は?」

「ありません」

「あったらどうしたいの?」

「エデルクアに――」

「却下」


 やっぱり無いじゃん……。

 まあ、早く中央大陸に行きたいというより、定められた予定通りに行動させられるのは気が重いだけだ。俺は自由人でありたいのだ。


「まずはわたくし達の武器ですわね? さあ、参りましょう」

「えー」

「時間がありません。エミリーはお昼の支度もあるのですよ?」

「やっぱりメイドさんも行くのかよ!?」


 母娘に引き摺られるように、武器屋へ連行された。

 広い店内で、それぞれが見たい武器のある場所に向かう。

 メイドさんは少し放置しておこう。

 問題はフリシーだ。そもそも戦闘できるのだろうか?


「フリシーは、どんな戦闘スタイルでいくつもりだ?」

「わたくしは遠距離主体と考えているのですが、いかがでしょう?」

「遠距離か……確かに真愛が近接特化だからな。ただ、ツーマンセルでの戦闘は、バディへのフォローだけでなくスイッチすることもあるから、近接戦闘への対応も必要になるぞ?」

「はい。遠近両用の武器がなければ、二種類必要と考えておりますの」


 ちゃんと考えてるんだな……とはいえ眼鏡じゃあるまいし、そんな便利な武器はそうあるものではない。

 ラファのような投擲型は類稀(たぐいまれ)な魔術センスがあってこそで、低ランカーが武器を失えば窮地に陥るだろう。

 銃剣は防御でダメージを受けると撃てなくなる。ナイフや矢を射出するタイプは一度撃てば終わりだ。どちらかといえばメイドさん向きかもしれない。

 そして中距離は、膂力(りょりょく)と戦闘センスが必要になる。ルーやラス爺さんタイプだ。


 そこでふと目に入った武器を手に取ってみる――


「こういうのはどうだ?」

「それは……ゲームで使用するものではありませんの?」


 ダーツだ。ただ、武器屋で売っているものは遊び道具ではない。単発での威力に劣るのは否めないが、サイズも大きめで魔石を組み込めるようになっているため、魔術が上達すれば様々な使い方が考えられる。


「例えば相手に突き刺して、時間差で魔術を発動させることもできる」

「味方が離脱後に発動可能なのですわね……使い捨てですの?」

「回収できれば再利用すればいい。その上位版がラファの短槍になる」

「それでは、近接用の武器はどうすればよろしいんですの?」

「これがいいんじゃないか?」


 大きなナックルガードの付いたカットラス。船上で使う剣なので、小柄でも扱いやすい長さだ。

 それでも未だ冒険者ですらないフリシーには、振ることすらひと苦労――

 あれ? 軽々振り回してから美しい動作で鞘に納めたんですけど?


「わたくしだって、ただ足手纏になるつもりはありませんのよ?」

「ちょっとカッコいいと思っちゃったじゃないか」

「誰の娘だと思っているんですの?」


 そういえば、壁ママの血を受け継いでいるんだった……末恐ろしいな。


 フリシーは俺の選んだ武器に不満はなさそうだったので、ダーツを少し多めに、カットラスと一緒に購入。魔石も多めに買っておく。

 メリンダさんはいろいろ試した結果、やはり馴染みのある武器ということでレイピアを選び、メイドさんは「パン・ド・ミをカットするナイフみたいだったので」という理由で、有名なホラー映画の『金曜日の人』が持っていそうなマチェットを選んだ。

 言わんとするところは分かるが……どこがパン切りナイフだ。

 武器屋で売られているのだ。重くて殺傷能力も高いだろう。

 ところが、メイドさんもマチェットを軽々と振り回している……俺は思わず訊いてしまう。


「それ……重くないの?」

「どうなんでしょう?」


 渡された刃渡り四十セマほどのマチェットは、やはり重い。

 ルーの大太刀と比べたら風船のようなものだが、それでも女性が扱うにはなかなかの重量なのに……メイドさん、恐るべし。

 というかこれ、暗器というより凶器の類では……。

 それぞれがお気に入りの武器を入手して、にこやかな帰り道、俺だけが暗澹(あんたん)たる面持ちで軽くなった財布を眺めていた――


 そしてびっしりスケジュールは、まだ始まったばかりなのだ。


「お昼を済ませたら、早速出掛けますからね?」

「いや、おかしいでしょ!? なんでメリンダさんとデートなんですか?」


 影パパは仕事で出ているが、実質公然浮気じゃないか。

 俺だってモラルはある。誘惑されたって負けないからな!

 そう自分に言い聞かせていると、人妻が最悪のワードを口にする。


「それでは、今から離婚手続きを済ませてきましょうか?」

「そういう問題じゃないでしょ!?」

「冗談です。私が一番最初であるという意味を考えてください」


 うーん……わからん。


 何より、他の女性陣も納得しているところが謎なのだ。

 これまでの人生には存在しなかったシチュエーションに、当惑したまま昼食を終えると、人妻に外へ連れ出されてしまった。


「本当に大丈夫なんですか? 町で噂になって困るのはメリンダさんでしょ?」

「何を困ることがあるのでしょうか? 既に夫の件で醜態を晒してしまっているのですが」

「分かりました……ちゃんと説明してもらいますよ?」

「当然です。そのために二人きりで出掛けるのですから」


 この状況は、温泉でのんびりしたり、昨晩のようにパーティーではしゃぐのとは違う――恐怖あるのみだ。


 やがて連れられるがまま入った高級そうなカフェは、座席の背が高く、一席ごとに個室のように区切られているタイプの店だった。

 適当に飲み物などを頼み、運ばれるのを待ってから、対面に座ったメリンダさんがキリッとした表情で俺に問いかける。


「涼平さんには、性欲が存在しないのでしょうか? 心は女性なのですか?」

「ロケットスタートですね……少なくとも、『来るものは拒まず』ではないです」

「それは微妙に傷付きますね……私は拒まれていると受け取りましたが?」

「はい。女性としては魅力的ですが、人妻は無理です。というか、そういう話じゃないですよね? 本題は」

「ええ。ですが、『おばさんには興味無い』という扱いは、一人の女性として悔しいではありませんか」

「いえ、年齢は全然問題ありませんよ? で、本題は?」

「むぅ……分かりました、本心と受け取って話を進めます。まず――このままでは確実に崩壊しますよね? 【ファーシカル・フォリア】は」

「いきなりですね!? でも、そう……かもしれません」

「そうなれば一人で旅しますか? パーティーを解散して」

「最悪の場合は、それも考えてます。恋愛どころではないので」

「一人で勝てますか? 獰神(どうじん)に」

「無理でしょうね……少なくとも現時点では」

「将来的には可能と?」

「そのつもりです」

「私は、勝てる可能性は限りなく低く――いえ、ゼロになると思います」

「その根拠は?」

「『面白くないから』です」


 それな。

 

 分かるんだけど、俺にとっては『真剣なお付き合い』も、それと同義なのだ。

 何が正解なのか……さっぱり分からない。

 ここは先輩芸人から、忌憚(きたん)のない意見を聞いておくべきだろう。


「誰が先輩芸人なのでしょうか?」

「なんで俺は、みんなから心を読まれるんですかね……」

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