表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/322

094 愛すべき喧騒

「また来いよ!」


 ギルドを出ようとしたとき、遠巻きに見ていた冒険者から声が飛ぶ。

 大きな荷物を背負った俺達が、もう町を離れると察したのだろう。


「居心地悪そうにすんなって! ジィスハ人は感謝を忘れないぞ」

「いつだって歓迎するからね!」

「自分達だけで戦おうとするなよ? 俺達だって負けるつもりはないからな!」

「まあ、負けてるんだけど」

「追い抜いてやるさ!」


 そう言って、俺達とは直接関わりのない面々が笑う――

 エイネジアは他の国へ移動しない冒険者が多いと聞いた。

 地上よりも海のほうが危険度は高い。ランクを上げるのも大変なはずだ。


「また来ます! その時は模擬戦でもやりましょう!!」

「え、それはちょっと……」

「ガチで殺し合うのはちょっと……」


 『狂犬』の噂が広まって、俺やルーも同類項に括られてしまったようだ。

 当の狂犬は既にこの場に居ない……アイスを買いに行きやがったな。

 項垂(うなだ)れる俺とルーの横で、ラス爺さんが「まったく、軟弱な奴ばかりだな!」と笑っている。

 爺さんがそんなだから、俺達纏めて『狂犬ズ』扱いされてるんですけど……。

 釈然としないまま冒険者に別れを告げてギルドを出ると、やはりアイスを食べている狂犬ズ・グレーの隣に、何故かウィッチヘーゼルの聖堂の管理人さんが居た。


「管理人さん、昼寝は終わったんですか?」

「あらあら。わたくし、寝ておりませんよ? 交代が来ましたので、ご挨拶にと、こちらへ伺いました」

『ウソツキ!!』


 寝てたんだな……。


「おうリリア、久しぶりだな!」

「ラシッド様も、お元気そうで何よりです」

「管理人さんも元冒険者だったんですよね?」

「ええ。『元』といいますか、例外といいますか……この町でゆるりと過ごさせていただいておりました」

「リリアは【ブルレスケ】の守護者だからな。強いぞ。雰囲気に騙されんなよ?」

「えーっと……最強の魔剣の守護者って……?」


 混乱する俺を余所に、初対面のルーが管理人さんに自己紹介をしている。


 ラス爺さんの話によると、【夢遊の雛芥子(ひなげし)】リリア・ルキナティアさんは現役のランクSで、代替わりするか【ブルレスケ】が町を離れるまでは、ウッチヘーゼルの聖堂で警護のみを担当する、特殊な冒険者らしい。

 町の住人達も、ただの管理人と思っているのではないだろうか……。

 実際、徽章(きしょう)も着けておらず、まったく強者オーラが無いゆるふわさんなのだ。


「ということは――魔王が町を狙っても防げるってことですよね?」

「最終防衛ラインってことだな。リリアが勝てない魔王を斃せるランクSなんざ、ほとんど居ねえよ」

「討伐証明……返上したほうがよくないですか? 俺」

「もっと強くなりゃいいんだよ、馬鹿野郎!!」

「なるほど。それもそうですね」


 ランクSの新たな一面を知った気がする……ゆるふわさん、凄い。


『バーカ』


 そんなジゼルさんも話がしたいだろうと、管理人さんに擂粉木(すりこぎ)を手渡して、風評被害の元凶の片割れに問いかける。


「ラファは何一人でアイス食ってるんだよ」

「どうぞ」

「いや、俺も食べたいって意味じゃなくて……」


 クッキーの入ったアイスを一口もらっているあいだに、管理人さんはジゼルさんとの話を終えたようで、擂粉木を返してくれた。

 やはりゆるふわ美女で、とても冒険者には見えない。


「早いですね。もう話はいいんですか?」

「ええ、ありがとうございます。長い付き合いですから。滝原様こそ、お気を付けてゆかれますように。今後のご健勝とご活躍を祈念いたしております」

「はい。ありがとうございます」

「俺も次の用事があるから行くが、やるべきことは分かってるだろ? 焦らずにランクSまで上がってこい! 俺が引退できるようにな」

「それは今すぐでも構いませんよ?」

「この小娘が!! またぶちのめしてやるからな!」

「次は引導を渡します」


 仲がいいんだか悪いんだか……この二人は。

 だが元気に去っていくラス爺さんは笑っていたので、そういうことなんだろう。

 その後管理人さんにも別れを告げ、俺達はエイネジアの町を離れた――


「飛行訓練はどうする? 短距離で慣らすなら、ここから始めてもいいけど?」

「あたしはその前に【加密列(カミツレ)】を慣らしておきたいかな」

「私も実戦で試しておきたいことがあります。ですので――」


 ラファが両手を伸ばして抱っこを要求してきた。散歩に疲れた犬か?

 そういえば、何か約束したような……。


「次の町までな?」

「喜んで!!」

「次は狂犬ズ・ピンクな?」

「いらないわよっ! っていうか、誰よそれ!?」


 髪の色にしたはいいが、俺は肌色だ……ここはリーダー特権でレッドだな。

 グレーをお姫様抱っこしたままで次の町リノカラトに着いたが、防壁から町へ入ってしまうとまた長くなるので迂回して進むと、まだ町へ戻る馬車が向かってくるのが見えた。

 ルトクーア側で一番被害が大きかったのは、この町かもしれないな……。


 その後は魔獣に出遭えば(たお)しつつ、次の町ヤーラフトゥルもスルー。

 ハシャートクに到着した頃には、すっかり日が暮れていた――

 やはり飛行移動と比べると、かなりの道程だ。


「お疲れ様。なんか家に帰ってきた心境だ」

「ほんとね。たった一週間なんだけど、長く感じるわ」

「その一週間で、狂犬ズ・レッドさんに大きく差を付けられてしまいました」

「彼はもう、ヒトであることを捨ててしまったのよ……」

「まあ、そもそもが改造人間みたいなものだし」

「しれっと語る内容じゃないわよ、それ」

「ずるいです……グレーだけ生身なので、改造してほしいです」

「グレーも既に人間の域を超えてるからね? あたしだけ普通だし、狂犬ズからは脱退を表明するわね」

「ピンクは何を言っているのですか? そのような普通乳は存在しません」

「なんの話よっ!?」


 壁門には顔馴染みになったおじさんがいて、「よう、久しぶりだな!」と覚えていてくれた。

 俺達が通過した後、何故か後方で煙玉を打ち上げていたが、それがなんの合図か俺には分からない……町の中は特に変わりはなく、外から魔族の気配もしない。


 当前のようにティルス家に泊めてもらうのも図々しいので、先に宿を探してから訪ねようと考えた俺達の前方から、小さな物体が全力疾走で接近してくる――

 真愛だ。


「おかえりなさあああい!! 遅かったじゃないですかあ!!」

「ただいま。ああ――さっきの合図か」

「そうです! なかなか帰ってこないからお願いしたんですよう!!」

「あまり他所様に迷惑かけちゃダメだぞ?」

「お願いしたのはメリンダさんなので!」

「何してんのメリンダさん!?」


 すると、遠くからよたよたと走ってくる少女と、その後ろをジャージ姿で追いかける凛々しい女性の姿が見えた。


「あの母娘は、何してるんだ?」

「丁度夜のラントレをしてたんです。そしたら煙玉が見えたので」

「そうか。邪魔しちゃ悪いし、家に戻ってゆっくり風呂に入ってくれ。少し経ってから行くよ」

「汗ですか!? 臭いますか?」

「ん? いや、全然気にならないぞ?」

「だったらどうして逃げるように立ち去ろうとするんですか!!」

「真愛ちゃん。あたし達は宿を探してるところなのよ」

「え? なんでですか?」

「いや、あまり図々しいのはよくないからな」

「だったら私はまるっと否定されてるじゃないですかあ!?」

「いえ、真愛さんは正しい。誤謬(ごびゅう)があるのは涼平さん、あなたのほうです!」


 ジャージ姿でビシッ! と俺を指し示すメリンダさん。

 両手を使った大仰な仕草は、妙に芝居掛かっている。

 ……こんなキャラだったっけ?

 それから遅れてロール子がよたよたと追い付いてきた。汗だくで死にそうな顔をしている。まあ、一週間で劇的に体力は付かないだろうな。


「あの、みなさんお疲れ様。ただいま戻りました」

「ならば帰る場所はどこなのですか?」

「え? でも悪いかなあって……」

「どこなのですか?」


 そう言って、また芝居掛かった仕草で自宅のほうを指し示すメリンダさん。

 俺は他の面子を見渡してから、「またお邪魔させていただきます」と言うしかなかった。いや……マジでこんなキャラだっけ?

 一方でロール子はスライムになりそうなぐらい、へにゃへにゃになっている。

 真愛は「えへへー」と笑ってご機嫌だ。元気だな、こっちは。


 ほぼ一週間ぶりのティルス家に入ると、屋内が綺麗に修繕されていた。

 たった一週間、されど一週間だ――世界は止まったままではない。

 まず俺達より汗だくの三人が一緒に風呂に入り、その後俺達が順番に入浴しているあいだに夕食を用意してくれた。

 今夜は簡単なもので済ませようと思っていたので、ありがたい。


「事前に知っていれば、もっとちゃんとした料理を用意しておきましたのに」

「そもそも宿を借りる予定でしたから。エイネジアを出たのも昼過ぎですよ?」

「え!? 大陸東端の町から半日で帰ってきたんですか?」

「いや、最高速度で飛んだら一時間かからないぞ?」

「ほわあ!? 死なないんですか?」

「落ち着け真愛。俺は日帰りでロディトナから戻っただろ?」

「そ、そうでした……うーん、でもでも……」

「どこか行きたかったら連れて行ってやるぞ? 飛んで」

「え!? じゃあモウモウテイマ・ランド!!」

「MMLJか……この世界にあったらいくらでも連れて行ってやるんだけど」

「あ、つい……えっと、どこでも……空から世界を見てみたいです!」


 モウモウテイマ・ランド・ジャパンは、日本にある巨大テーマパークだ。

 俺が軽く口にした言葉から、お互いに胸を締め付けられるような思いをする結果になるとは……迂闊だった。


「それじゃ南の国にでも行ってみるか!」

「あの……二人の世界に入っているところ申し訳ありませんが、その場合――私はまた留守番ということでしょうか? また、留守番なのでしょうか?」

「いやいやラファ、飛んで見て帰ってくるだけだぞ? 泊りじゃないから」

「飛行船でもあればいいのですが……この世界では難しいでしょうねえ」

「そうですね、メリンダさん。高速飛行だと、浮遊岩とか滅茶苦茶恐いですよ」

「ルーさんも飛んだんですか!?」

「あ……え、ええ。ちょっと大事な用件があったのよ?」

「『あ』ってなんですか『あ』って!? ずるいです!!」

「私など、何度も何度も抱かれましたが?」

「ラファ、言い方!! 『飛んだ』が落ちてる、抜け落ちてる」

「わ、わたくしも空から世界を眺めてみたいですわ!」

「でしたら私も」


 なんでメリンダさんまで……もう、どうにでもしてくれ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ