表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/322

086 それでいい、それがいい

 村を囲む防護柵を抜けて歩いていると、警邏(けいら)中の叉鬼(またぎ)と鉢合わせた。

 トザネさんだ。


「もう行くのか? もっと子供達と遊んでやってほしかったんだがな」

「お尻人間二号は、トザネさんにお任せします」

「二号など必要ない。あれは唯一無二だ」

「子供達に『トザネさんが酒臭かったら妖怪に斬り殺されるから、みんなで守ってやってくれ』とお願いしておいたので、付き纏われると思いますよ、これから」

「おいおい、勘弁してくれ。子供は苦手なんだよ……」


 家を尋ねたときよりも雰囲気が柔らかくなったトザネさんは、苦笑いを浮かべたものの、「まあ、俺なりにできることはやっておくさ」と、手をひらひらさせながら去っていった――

 サツキさんとの約束を言い忘れてたけど、まあ大丈夫だろう。……たぶん。


 村から遠ざかり、周囲に人が居ないことを念入りに確認したルーを抱き締めて、俺達は東に向かって飛び立った。


「涼平……香箱って嫁入り道具なんだけど、知ってて受け取ったの?」

「香箱を知ってただけでも褒めてほしいぐらいなんだけど……マジで!?」


 だからカナパパが取り乱していたのか……。


「どうせ猫の座り方で覚えただけでしょ?」

「うぐ……というか、家宝みたいなものじゃないのか、それって」

「まあ、小さかったし子供用のお土産みたいなものだと思うけどね」

「ルーは日本文化に詳しいんだな」

「えっ!? そ、そうかな……常識の範囲でしょ」

「俺はてっきり刀剣女子だから日本に詳しいのかと思ってたよ」

「刀剣女子って何? どういうジャンルなのよ?」

「俺も詳しくは知らないんだけど、なんか流行ってたんだよ。擬人化とか」

「擬人化って、刀の? 複雑なことになってるのね……日本文化は」


 雑談しながら飛んでいるが、世の非モテ男性から矢が飛んできそうな状態だ。

 だが――俺には一つの疑念がある。

 まったりトークしながら何日もかけて移動するのと、美少女を抱き締めて一瞬で目的地に到達するのとでは、前者の方が二人の距離は正しく縮まるのではないだろうか? 今の俺は――言わば、お金で一時(いっとき)の夢を買っているおじさんのような状態なのではないか?


「俺はルーにお金を払うべきなんだろうか……」

「とりあえず、大太刀が手に入ったら斬るわよ?」

「とりあえずで斬られるのか、俺は」


 こうしてルーが慣れてくれたおかげで、犯罪者のような気持ちで飛ばなくて済むのはいいが、今後『俺が替わろう』って言う男が現れたら、きっと俺は嫉妬するんだろうな……。

 そんな自分勝手な思いに煩悶していると、遠くに【フィオーレ・マネッテ】の気配を捉えた。


「また少し離れて降りたほうがいいよな?」

「そうね。あの二人には絶対見られたくないし」

「なんで?」

「勘違いしてるから」

「俺はテッドさんにしか興奮しないって設定にしとく?」

「どんな発想よっ!?」


 少し進んだ場所に、やはり偽装の施された集落が見えた。

 俺達は既に一つの村の上空を通り過ぎているので、ナバルクアから見ると二つめの村になる。

 用事もない俺達がいきなり尋ねても、警戒される可能性が高い。先にクアテェリ村の人達と合流しておいたほうがいいだろう。

 集落の少し手前で降下して待っていると、テッドさんの元気な声が飛んできた。


「よう! お二人さん。大きな犬は留守番してくれたんだな」

「気兼ねなくイチャイチャできるわね?」

「しないわよ!?」

「大きな犬より、相手の膝が心配で」

「ランクSの心配するって、どんな狂犬なんだよ!?」


 相変わらず明るい二人だ。クアテェリ村の人達も笑顔で迎えてくれた。

 クアテェリ村の男性が先行してくれたので、俺達はゆっくり後を追う。

 防護柵の前には先程の男性と、もう一人――次の村の叉鬼だろうか。


「ヤウグァト村へようこそ、大陸の冒険者さん」

「先程、そちらの村の方とナバルクアで会いましたよ」


 確かナギリさんは『ヤヴァイ村から来た』と言っていたはずだ。

 そしてサツキさんは、その次の……フサ……フサなんとか村から合流している。

 正直、エイネジアに戻ったら全部忘れてそうだ。覚えられる気がしない。


「ナギリさんですか。それにしては随分速いですね?」

「飛んできましたから」

「ということは、ソアーズの方ですか?」

「いえいえ。まだランクAです」

「『まだ』を付けるのはやめてくれないか涼平。俺達にダメージが……」


 【フィオーレ・マネッテ】の二人と一緒にルーも(へこ)んでいるが、事実なんだからしょうがない。

 そしてジィスハでは、今でも『ソアーズ』って言うんだな。

 簡単な挨拶のあと村に入り、次の村まで借りる替え馬の手配を待つあいだ、興味津々で集まった村の叉鬼と話していると、テッドさんが戻ってきた。

 今後の予定を尋ねると、すぐに次の村を目指して出発するようだ。


「俺達の最終目的地は、ミウヤトクという(みやこ)だ。この国の中央政府が置かれている場所らしい」

「中央政府って、ちゃんと機能してるんだろうか?」

「ああ。国際会議には参加できないようだが、国の統治は機能している」

「無政府状態って感じはしないもんなあ」

「そこはこの国の人達の気質によるところもあるんだろうな。穏やかな人が多く、攻撃的な人は少ないようだ」


 確かに。カナパパぐらいだな。……あれは俺のせいか。

 テッドさんは中央政府に、『何かあれば個人的に助力します』と伝えに行くつもりらしい。公式ではなく、非公式の協力ということなのだろう。


「だったら俺達も――と言いたいところだけど、このタイミングでそれを言うのはまずい気もするから、またの機会にしておくよ」

「そうね。今のタイミングだと『協力を引き出すために協力を申し出る』みたいな形になっちゃうから。刀が先ね」

「君達はまだ若いのに、そこまで考えてるんだなあ」

「また私達を凹ませるつもりなのね?」


 そう言ってマチルダさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 俺としては助力を惜しむつもりはないが、折角【フィオーレ・マネッテ】の二人が自ら行動に出てくれたのに、横から「俺も俺も」と首を突っ込むのは違うような気がするので、今回は二人で行ってもらいたい。

 ジィスハの中央政府も、事を荒立てはしないだろう。


「それじゃ俺達は行くよ。ルーが「大太刀が無いと眠れない」って言うから、日が暮れる前に見付けないと、「かたなをよこせー」って呟きながら夜の闇の中を徘徊するかもしれないし」

「しないわよっ!!」


 クアテェリ村の人達がヒソヒソと話し合っている。

 「やっぱり冒険者って恐ろしいんだな」「あんなに可愛いのに」「あんなに大きいのに」「刀を渡さなかったらガバァって……」「俺、喰われてもいいかも」――うん、怒られるやつだ。


 俺にはしっかりと聞き取れたが、聞かれてはならない相手にも部分的に聞こえてしまったようで、ルーが無言のまま殺人鬼の眼差しを向けると、男達は「ひっ!」と声を上げ、馬の世話に戻っていった。


「ガバァって何よ!? 喰われるとか! キミが変なこと言うから!!」

「だったら、アイドル冒険者みたいな扱いがいいのか?」

「両極端でしょっ! あたしをどうしたいのよ、キミは?」

「そのままでいいよ、ルーは」

「ひゅーひゅー! 熱いわねー」

「マチルダさんっ!!」


 その後、村を離れて飛ぼうとしたら、またルーが真っ赤になっている。

 折角慣れてきたのにリセットか……と嘆息しつつ、可愛いと思ってしまった。


「ルーは男で苦労するだろうなあ」

「現在進行形で苦労してるんですけどっ!?」

「いや、そういう意味じゃなくて――」

「すべての意味でよっ!!」


 やっぱり女の子って難しい……。

 ()ねると重くなるのは不思議だなあ……などと、絶対に口に出せないことを考えながら飛び続け、然程時間もかからず東方のラギナトゥナ村に到着した。

 これまで訪れた村より人の手の入った森が多く、あまり隠す気もなさそうに見えるが、やはり少し手前で降下しておくべきだろう。


「この村は……なんか開けっ広げね」

「そうだなあ。バレても気にしてなさげというか……」

「だからって大陸の冒険者が、『お邪魔します』って入っていけるものかしら?」

「日本式だな。やたら言いにくい村の名前以外は、わりと日本っぽい国だけど」

「この国だけ異彩を放ってるわよね」


 だが俺達は、ジィスハ建国の謎を解き明かすために来たわけではないのだ。

 まずは叉鬼の人を探すと、すぐにその気配を探知できた。

 交代時間だろうか? 村を囲う柵の出入口へ向かって歩く壮年の男性は、軽甲冑を纏い、腰には反りのある太刀を佩いている。


「すみません。突然ですが、襲撃ではないので安心してください」

「っ!? 何者だ? 本当に突然だな!」

「大陸から来た冒険者です。大太刀があれば見せていただけないものかと伺ったのですが」

「ああ、どこかで噂を聞いたのか。それにしては二人とも妙に若いな。武器らしい武器を持っていないようだが……本当に冒険者なのか?」

「はい、ランクAです。ちなみに俺の武器は、この【ブルレスケ】です」

擂粉木(すりこぎ)じゃないか――って、【ブルレスケ】だとっ!?」

「俺はジゼルさんって呼んでるんですけど、それだと分からないかなと思って」

「【幻砂(げんさ)の白鳥】を知っているのか? ちょっとそこで待ってろ!」


 バタバタと村に走っていってしまった。


「やっぱり世界的に有名人なんだな……ジゼルさんは」

『トウゼン!』

「今、胸を張ったなジゼルさん? して、そのサイズや如何ほどに?」

『コロス!』

「なんで!?」

「キミねえ……擂粉木と漫才するなら、(おおやけ)の場ではやめたほうがいいわよ?」

『コロス!』

「ジゼルさんの憎しみがルーにも向けられてるんだけど?」

「なんでよっ!?」


 トリオ漫談をしていると、第一村人がもう一人連れて戻ってきた。

 その人物は老齢だが足取りはしっかりしていて眼光も鋭く、まるで現役の冒険者のようだ。


「そこのあんた、それは本当に【ブルレスケ】なのか?」

「はい。今は擂粉木の形をしてますけど、元はちゃんとした剣ですよ」

「形状変化か……だが、俺と話す気はなさそうだな」

「お知り合いなんですか? ジゼルさんと」

「いや、探究心ってやつだ。俺は刀鍛冶だからな」

「なるほど、そういうことですか。俺達は大太刀を求めて大陸から来たんです」

「まあ入れ、話はそれからだ」


 許可を得た俺達は、ラギナトゥナ村へ歩を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ