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081 ロスとアイランド

 俺はかなりゆっくりとした起床になったようだ……(くつろ)ぎすぎた。

 寝ぼけながら食堂で味噌汁を啜っていると、ラファがやってきて正面に座る。


「一人部屋は、内側から南京錠をかけらけるようになっているのですね」

「一応訊くけど……入ろうとしたのか?」

「いえ。外から鍵の確認をしたまでです」

「どうやって? 開けようとしたんだろ!?」


 身内から逮捕者が出そうなんだけど……。


 一方ルーは、早々に朝食を済ませてランクA昇格試験に出掛けたらしい。

 相手が爺さんだから朝も早いのかは別として、済ませられる用事は早く済ませたほうがいい。

 ルーが新たな大太刀を入手しても、特殊な間合いの長物だ。寸分の違いで感覚にズレが生じるかもしれない。慣らし期間は必要になるだろう。

 

 そして特殊すぎる間合いの擂粉木(すりこぎ)は、いつの間にか部屋に戻っていた。

 どこから入ったんだか。


『カクリフノウ』


 まあそうだよな。盗んで隠したりできるような存在ではない。


「ラファの短槍はどうする? 魔槍みたいなのを探してみるか?」

「さすがに(めい)有りの短槍など、存在するかどうか……」

「長槍を切るだけじゃバランスが変わるもんなあ」

「はい。その意味では剣も論外です」

「そうだなあ……ラファの場合は高速投擲でも使うからな」


 むしろそちらがメインか。つくづく特殊な戦闘スタイルだ。

 ――とはいえ、投擲オンリーだと魔王クラスには通用しない。


「投擲用と防御と攻撃を兼ね備えた手持ち武器の、両方を用意したほうがいいのかもしれないな……攻撃メインよりも壊すつもりで受ける武器とか」

「ソードブレイカーですね。なるほど……一考の余地はあります」

「一番の問題は魔術の無効化だな。ラファの場合、量子重力魔術が無効化されるとかなり厳しいからなあ」

「無効化は複雑なアルゴリズムではなく単純な魔術強度の問題ですので、私が魔石と神域のプロトコルを解析できれば、無効化の無効化も可能になるのですが……」

「ふーむ……要はあれだな、『回線を太くする』ってやつだな」

『チガウ!』

「そのようなものです。大半のランクSは」

『ギャクセツ』


 そういえばジゼルさんは、その道のスペシャリストなんだっけ。

 ひょっとして、俺よりラファのほうが相性いいのかも……。


『ムリ』

「ま、まあ……ラス爺さんにも訊いてみるといいかも。経験豊富だからな」

「確かに得難い経験です。ありがとうございます、涼平さん」

「礼は爺さんに言ってやってくれ。態々付き合ってくれるんだし」

「はい。肩叩き券をプレゼントしておきましょう」


 遅めの朝食を済ませて部屋に戻ると、程無くルーが帰ってくる気配を感じた――

 少しずつ気配で個人も判別できるようになってきた。

 現在、俺の部屋に居る危険人物によって、感覚が鍛えられたのかもしれない。


「おめでとう! ルー」


 彼女が部屋の前に立つと同時に内開きのドアを引くと、ノックしようと手を上げたまま、固まっていた。


「なんで知ってるのよ!?」

「いや、ラス爺さんが決まってるって言ってたし」

「せめて自分の口で言わせてよね!!」

「後程『初めてのA』のお祝いをしましょう」

「ラファが言うと、なんか如何(いかが)わしいのよね……」


 昼からはエイネジア観光――というより、ぶらり武器屋廻りとなった。

 町並は日本風というわけではないが、他の町と比べて魔術を使用していない木造建築が多く、釘を多用しない建築技術には(たくみ)の技を感じる。

 武器はやはりジィスハの流れを汲むものが多いようで、手裏剣や苦無(くない)といった、大型魔獣相手にはまったく使えないものまで売られていた。

 そんな中、どうするんだこれ? という物が目に入る。……十手だ。


「これもある種のソードブレイカーかな……」

「攻撃力に難ありですね」

「【峻厳迅壊(しゅんげんじんかい)】の戦斧とか、こんなのでどう受ければいいのよ……」

「そういえば、模擬戦の武器はどうしたんだ?」

「長巻があったから使わせてもらったんだけど、やっぱりバランスがね……」

「ルベルムさんは、あれが無いと駄目な身体になってしまったのですね」

「変な薬みたいに言わないで!!」


 武器屋にも太刀や打刀、それに模擬戦でルーが使った長巻はあるが、全長二マト超級の大太刀となると、数件回っても見当たらない。


「あの大太刀って、やっぱりかなり高価な業物(わざもの)だったんじゃ……」

「魔王に一撃で砕かれてたら意味ないでしょ?」

「そうは言うけど、魔王の攻撃をいなすだけならまだしも、受けられる武器なんて国宝級だろ?」

「ルベルムさんは地獄のローンで支払うわけですね」

「そ、それは……どうにかするわよ……」


 食費削減だろうか? 

 仲間が痩せ細っていくのは由々しき事態だ。俺が払おう。

 だが、ランクSがすべて国宝級の武器を所持しているわけではない――

 本当は、『武器のせいで勝てない』などと言ってはならないのだ。


「ラス爺さんは何か言ってたか?」

「『魔鉱石の含有率が高い武器を上手く使うしかない』って……」

「自分自身で強化しろということですね」

「うーん、それだとやっぱり『鶏と卵』みたいな話になるよな」

「そうなのよね……武器に流す魔力がランクSレベルでないと、やっぱり砕かれるだろうし……」

「いずれにせよ、俺達は段階を端折りすぎだ。魔王と戦うことばかり考える前に、まず足りてない部分をどうにかしないとな」

「君のペースに合わせるとそうなっちゃうのよ!」

「それは申し訳ないと思ってるけど、今はパーティーとしての今後の方針を考えておきたいんだ」

「珍しく真面目ね……あたしだって魔王と戦って『こんな成長速度でランクSまで何年かかるの?』と思ったわよ?」

「ランクSでも魔王と一対一で戦える局面ばかりとは限りません。ここから先への壁というものは、私も感じています」

「『そこは任せる』と言ってもらえるようにならないとな」


 ただ焦って強くなれるなら誰も苦労しない――

 今はこれまでの『なんとなく戦って強くなる』から、より高い段階へ上がる力を蓄えるための期間と考えよう。


「まず飛行訓練。広域防御を使いこなせるまでは、単独で魔王に突っ掛けない――当面、パーティーとしての方針はそんなところか。二人の武器をどうするかも含めて、足りない部分をどう伸ばせばいいかは、みんなで考えたい」

「武器については、更に上の領域において何が必要になるのか、試行錯誤するべきなのかもしれませんね」

峻峰(しゅんぽう)や深海に挑むには、それまでの経験だけでなく、知識と装備の足りていない部分を見直すことも必要よね……あたしも何をするべきか考えるわ」


 ランクS――やはりそう簡単には手が届かない高みにある。

 俺はその先まで超えていきたい。

 それでも今は、大事な仲間に無理をさせたくない。

 死んだらそれまでなのだ。


「そんなところで、今日はルーのランクA祝賀会でもやるか!」

「べ、別にいいわよ。二人のとき、あたしは何もしてないし……」

「じゃあハシャートクに戻ってからやろう! 真愛に『なんで私達が居ないときにやったんですかあ!!』って怒られそうだし」

「そうね、真愛ちゃんとフリシーも居たほうが楽しいわよね!」

「私も賛成です。それはそうと――二つ名はどうなったのですか?」

「そ、そういうのは流れでさらっと言いたいなあって……」

「俺達のは訊いたくせに」

「くせに」

「い、言えばいいんでしょ! ……【旋斬繊月(せんざんせんげつ)】よ」

「……なんかずるいな」

「『姫』とか付かないのですか?」

「『そういうのはやめて』って拒否したもの」

「即刻【旋斬繊月で乳姫で】に変えるべきです。さあ、急ぎましょう!!」

「『で』って何よ!? 斬るわよっ!! ……短剣で」

「締まらないなあ、それだと」


 ルーのツッコミの斬れ味を取り戻すためにも、やはり大太刀は必要だ。


 結局、今日はもう一度温泉で焦る気持ちを落ち着かせて、ジィスハへは明朝出発となった。

 鍵の確認も怠らないようにせねば――



§



 翌朝――

 爆音の鐘が鳴り響く前に目を覚ました俺達は、三人揃って朝食をとる。

 このあと俺とルーはチェックアウトして、ラファは部屋の移動だ。


「何故南京錠が二つになっていたのですか?」

「なんで知ってるんだよ!? ラファ一人になるし、鍵も厳重なほうがいいだろ?」

「窓やドアの内側にはトラップを仕掛けますから、心配無用ですよ?」

「死ぬやつ?」

「死ぬやつです」

「宿に迷惑かけちゃダメでしょ!」

「ごめんなさいお母さん」

「すみませんお母さん」


 心配が無いわけではないが、長年ソロ活動していたルーよりも、ランクSが舌を巻くほどの術士であるラファのほうが、男にとっては恐怖の対象に成り得る。

 気付く前に脳とか弄られそうだもんなあ。


「しませんよ? 涼平さんの脳には。実力で勝ち取りました」

「なんの勝利者インタビューだよ!?」

「誰がお母さんよっ!?」

『オソイナ』


 早くなんとかしなければ……大太刀ロスで愛さんがポンコツ化してしまう。

 大きな犬をハウスに押し込んだあと壁外に出た俺は、手足を揃えてカクカク歩いてきた赤面ロボを抱き締め、ジィスハへ向けて飛び立った。


「自分で飛べるようになれば、恥ずかしい思いをしなくていいんだぞ?」

「こっちはまだランクAに昇格したばっかりなんだから、無茶言わないで!」

「途中で放してみようか?」

「自転車の練習じゃないのよっ!?」

「いや、戦闘機のミサイルみたいに飛ぶかなって」

「キミはあたしをなんだと思ってるのよっ!?」


 よかった。ポンコツ化が少し治まったようだ。

 なるべく感覚を掴んでもらわないと、あっという間にジィスハに着いてしまう。

 速度を落として陸地が近付くと、山が多いジィスハの秋は色鮮やかで、あれほど恥ずかしがっていたルーも、今は紅葉に見惚れている。


「こんな景色を鳥瞰で見られるなんて、地球では考えられなかったな……」

「ルーは病気だったんだよな。闘病期間は長かったのか?」

「物心付いた頃には入退院を繰り返していて、死ぬ前の数年間は病室の窓から外を眺めていたわね……」

「そうか……どこに落ちたい?」

「落とさないでっ!? なんでそんなに放したがるのよっ!」

「なんとなく、流れで」

「なんとなくで殺さないでっ!!」


 少し慣れてくれたようで、ロボの身体から程よく力が抜けた。

 俺は煩悩と何合も斬り合っているのだ。ルーにも羞恥心を堪えてもらいたい。


『エロガキ!』

第三章終わり。

続けてジィスハ篇になります。

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