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067 現在地

 二人の男が、コスプレ(と思っている)冒険者を舐めるように観察する――

 そこまで堂々と女体を凝視できるのが凄い。

 真っ昼間から何してるんだこの人達……と嘆息しつつ、何気なく隣のルーを見た俺は、「ひっ!?」と小さな声を出して後退った。


「人って魔獣と比べると、すとーんって斬れるのよね……すとーん……って」


 石の話ではなさそうだ。目が据わった殺人鬼の顔をしている。

 ようやく俺も察した……こうやって変な男を追い払ってきたんだな。

 だが、食い下がる男はどうするのか?

 そのケースも引き続き実演された――


「可愛い顔して恐いこと言うなって。見ろよ? コイツもランクAなんだぜ?」

「そうそう。俺、ランクA。この徽章(きしょう)見ろよ、嘘じゃないだろ?」

「ランクSでも斬り落とせる場所があるの。あなた達は知ってるかしら? 二ヶ所あってね……その一つは舌。もう一つは――」


 俺は思わず股間を押さえる。二人の男も同じポーズになっていた。

 人斬り女は続ける。


「止血は可能。ただ、斬り落とすと同時に焼かれると……ね?」

「こ、恐いよ、この女っ!?」


 逃げた。


 俺も同意だ一緒に逃げたいぐらいだ。

 一方でラファは、何故かくつくつと笑っている。

 やはり下ネタだからか? と思っていると腕を(つね)られた。


「なんで!?」

「よからぬことを考えたからです」

「だってウケてたじゃん?」

「ルベルムさんの首が……ギリギリで……くふっ」


 また笑いだした。言われてルーの首を見ると、きゅーっと赤くなり始めている。

 血流操作で堪えていたのだろう。もう限界のようだ。

 両手で顔を覆うと、耳まで真っ赤に染まった。


「いや、面白いものを見られたな」

「ええ。店内のショーより楽しかったです」

「二人のほうがランクは上なんだから、あたしより先にどうにかしなさいよっ!!」

「いや、面白くて」

「ええ、面白くて」


 ラファなら顔色一つ変えずに、もっと酷いことを言うんだろうな……。

 その当人は、男の去り際に腕から徽章を奪い取っていた。


「これ、偽造ですよ?」

「どっちがコスプレだって話だよな」

「最初から分かってたなら先に――」

「「面白くて」」

「綺麗にシンクロしないでっ!!」


 楽しいショーを満喫した俺達は、そのまま町を出た。


「だけどさ、そんなんでよくソロ活動できたな?」

「私の場合、依頼完遂するまで一睡もしませんが、ルベルムさんはどうしていたのですか?」

「そこは同じね。状況に応じて寝たフリもするけど。……というか、そこまで我慢できないものなの? 男の人って」

「むしろ何故我慢するのですか? 涼平さんは」

「話をややこしくしないで!!」


 どうなんだろう……俺だって我慢してるときもあるけど、男全体の話となると、よく分からない部分はある。個人差が激しいのだ。

 四六時中盛ってるのも居れば、異性同性問わず人間そのものに関心がなさそうなタイプも居たり……。

 ただ、理性で制御できない者は、あらゆる反撃を甘受するしかないだろう。


「ラファとルーが違うように、男もいろいろだからなあ」

「それは失言ですよ? 涼平さん」

「確かに。デリカシーに欠けるわね」

「じゃあ二人は同じと思うぞ? 俺は」

「同じです」

「違うわよっ!?」


 どっちだよ……女の子はよく分からないなあ。

 俺に分かるのは、次の町リノカラトに、明るいうちには着けそうにないってことぐらいだ。


「このペースだと野宿になるけど、いいの?」

「私は一向に構いませんが?」

「あたしは、その……魔獣を狩っておきたいかなあって」

「寄付を控えるべきでは?」

「そんなに無理はしてないわよ? ただ……」

「食費か」

「ちょっ!? それは……そうなんだけど」

「やはり吸われるのですね、養分を」

「どこによっ!?」


 『どこ』って訊いてる時点で分かってるだろ……。

 それは言わずに、俺達は街道を外れて魔獣が現れそうな場所へ移動した。


「こういうのも久しぶりだな!」

「へっぴり腰で安物の剣振り回してたのにねー?」

「いえ、あれは素晴らしい剣でしたよ?」


 ラファの両親の墓前に、柄だけ置いてきた剣だ――


「ありがとうラファ。でも俺が高い剣を拒否したのは事実だからなあ」

「悪かったわよ! だけど、あの時の涼平ったら……ふふっ」

「まだ言うかっ! 誰だって最初はあんなもんだろ?」

「私も最初は教導者が居ましたから。今はランクSになって忙しいようですが」

「それは凄いわね。あたしの教導者は……ダメね、あれは」


 いろいろあるんだな……俺はイレギュラーの中でも特例中の特例だろうな。

 だからこそ、こうして二人と旅ができるのかもしれない。

 そんな雑談をしていると、近くに魔獣の気配を感じた――それも飛行型だ。


「来るぞ、三体。ランクは――Aか!? 多いな、最近」

「ロディトナ消滅の影響かもしれませんね」


 視認できる距離になった――幻獣種、《ガーゴイル》のようだ。

 また幻獣ということは、ラファの言うとおりなのかもしれない。


「あたし一人で、できるとこまでやってみてもいいかしら?」

「いいけど、危なかったら手を出すからな」

「ありがと。すぐに追い付いてみせるからね!」


 そういえば、ルーはまだランクBだったな――

 魔人と互角以上に戦えるぐらいだ。既にランクA相当の実力だが、相手が三体となると簡単ではないだろう。

 向こうも俺達を感知したようで、急接近してくる。

 このまま町に向かえば危険だ。確実に仕留めなければならない。


「行くわよ! 荷物お願いっ」


 ルーは俺に背負い袋を預け、魔族を引き付けるために先行する。

 俺とラファは遠距離攻撃が可能な位置で見守ることにした。


「以前も話題にしていましたが、涼平さんは《ガーゴイル》と戦ったことはあるのですか?」

「いや、初めて見る。ただ情報は知ってた……名前が気になって調べたんだ」


 ノートルダム大聖堂の『グロテスク』のような彫刻が動くのかと思って調べてみると、背中に翼のある人型魔族の総称だったのだ。


「そりゃ石像が滑らかに動いたら石じゃない不思議物質だもんな……と納得しつつ少しガッカリしたんだけど、まいみたいな謎素材の《ゴーレム》もいるし。何よりこの世界の《ガーゴイル》も……変わってるよなあ」


 大きさは約二マトと魔族の中では小柄な部類だが、飛行型で俊敏な上に、火と水の魔術を使い、顔はトカゲ、鷲、獅子、猿……と多様だが、何故かそれらは『面』なのだ。それも、祭りの屋台に並んでいるようなペラペラのお面ではなく、重厚な木製の『面』だ。


 今回、俺達の前に現れたのは、猿と鷹、そして何故か、能面の『大飛出(おおとびで)』だ。

 どんな面かを表現するなら――「うわあ、凄えおっぱい!!」と言ってそうな表情というか……いや、本当は凄い鬼神なんだけど。


 そんなことを考えていると、何故か俺に向かってルーの斬撃が飛んできた――


「なんでっ!?」

「今、キミを斬ってもいいような気がしたのよっ!!」


 ラファも放置するかと思いきや、横薙ぎから飛来した斬撃は、地中から飛び出した短槍によって上に弾き飛ばされ、消失した。

 なるほど。対斬撃戦術の実践というわけか……凄まじい精度と速度だ。


「あいつら面が外れても、のっぺらぼうのまま攻撃してくるんだってさ」

「特に弱点というわけでもないので、個性のアピールでしょうか?」

「『俺の面のほうがカッコいいだろ?』とか『まだその面着けてるのかよ? 今時そんなの着けてる奴いねーぞ?』とか、いろいろあるんだろうな……」

「『一周回ってお洒落なんだよ!』などと言い張るタイプも居るのですね」

「俺達は何と命懸けで戦ってるんだろうなあ……」


 どうでもいい話をしているあいだに、猿面がルー目掛けて高速の水球を飛ばす。

 ルーが刀で受けずに跳躍で躱すと、彼女が立っていた場所に直径三十セマほどの綺麗な穴が空いた――それなりの威力なんだな。

 ルーは(あらかじ)め飛ばしてあった二枚の鞘を足場に軽やかに跳躍すると、まず猿面の《ガーゴイル》を縦に両断。


 空を飛べないルーが降下し始めたところに、残る二体から炎の矢が飛ぶ。

 敵ながら、なかなかの魔術制御だ。何本も発射される矢のタイミングを、微妙にずらしている。

 姿勢制御の難しい空中でルーは大太刀を振ると、そのまま竜巻のように高速回転して炎の矢を弾き飛ばしながら高く舞い上がっていく。


「風の魔術も使うのか……ああいう空中戦もあるんだな」


 俺が感心していると、鷹面の《ガーゴイル》より高く上がったところで一度静止して、今度は縦の高速回転で斬り下ろす。

 鷹面は身体を横移動させて躱したものの、その方向に回転飛来した鞘で翼を斬り飛ばされてバランスを崩し、くるくる回りながら落下していく。

 縦回転のまま地表へ落ちるルーに、大飛出面の《ガーゴイル》は、複数の水球を飛ばしながら空を後退する。


 地表に激突する前に地面を斬り裂いて縦に一回転したルーは、片足が接地すると身体を沈み込ませてから跳ね上げ、同時に身体を捻って飛来した水球を水平に斬り割りながら、空中の《ガーゴイル》目掛けて斬撃を飛ばす。

 魔術の制御のために停止した大飛出面の身体が上下に分断され、準備された炎の槍も光の粒となって消えた。


「あと一体!」


 地上に落ちた鷹面が、頭上で背中を向けているルーを目掛けて大量の炎の矢を飛ばすと、ルーは空中に飛ばした鞘を蹴って、捻りを加えた後方宙返りを行いながら飛来した矢を斬り飛ばし、相手と背を向け合うように着地。

 そこへ鷹面が振り向きざまに投じた炎の槍を、ルーは高速反転して跳ね上げると同時に踏み込み、切り返した大太刀が振り下ろされる――

 鷹面の《ガーゴイル》も、二つの塊へと化した。


 いつものように長すぎる大太刀が地面に弧を描き、半回転してから静かに動きを止めたルーが、長い息を吐く。相変わらず豪快で、美しい。


「お見事! ランクA三体相手でも、まったく危なげないな」

「だけど、幻獣種ってだけでランクA以上になるからね……《ガーゴイル》は弱い部類だと思うわよ? ラファならその位置に立ったまま仕留められたでしょ?」

「はい。楽勝です」

「うっ……そんな簡単に言われると(へこ)むわね……あたしだって斬撃飛ばす固定砲台みたいな戦い方すれば、空の敵でも……いや、これは言い訳ね」

「そこは結果オーライでいいじゃん。もっと魔獣探すか?」

「いえ。それより食料を確保しましょう」

「動いたらお腹が空きましたか?」

「そうね……燃費悪いのかな? あたし」


 《ガーゴイル》は死体が残らず消失するタイプのようだ。

 地面には魔石だけが転がっていたので、拾ってルーに渡しておく。

 日が落ちるまでに食料を現地調達して、その日は野宿となった。

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