表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/322

066 小さくて偉大な

 翌朝――

 俺とラファはルーには行き先を告げず、『明星(あかぼし)のともがら』へ向かった。

 子供達はまだ宿舎に居る時間なので、院長室のある学舎へは来ていない。

 ルーも「あとで挨拶に行く」と言っていたので、ささっと用件を済ませよう。

 院長室を訪ねると、応接用のテーブルを挟んだソファーへと促され、院長さんと対面に着席した。


「昨日高額の寄付があったと、先程銀行から連絡が入りました。事務手続きはまだなのですが、『取り急ぎ報告のみ』ということで足を運んでいただきました」

「それは何よりです。俺も昨日『入れといたよ』と聞いたので伺ったんです」

「私は存じ上げない方から、ご寄付いただいたようなのですが……以前お伺いしました、滝原様のお知り合いの方でしょうか?」

「はい。金額のことなら心配ないと思いますよ? 金持ちなので」

「あの……できれば直接お礼を申し上げたいのですが……」

「今は遠い町に向かってますから、会うのは難しいでしょうね」

「そうなのですか……でしたら、今後滝原様がお会いになる機会に、『一度お会いしたい』と、それから『感謝しております』と、お伝えいただければ幸いです」

「はい。会ったら伝えておきますね。それと、俺から提案があるんですが――」


 話を終えて応接室のドアを開けると、小さな足音がドタバタと遠ざかっていく。

 優しく微笑むラファと顔を見合わせてから、グラウンドへ向かう。

 そのグラウンドでは、宿舎を抜け出した子供達が集まって俺達を待っていた。


「おいハゲ! ちゃんとありがとうって伝えてくれよ!!」

「ありはげー!」

「違うって! ハゲはなんにもしてないからな!!」

「そうだぞ。みんなもタイニィさんに感謝しとけよー?」

「ありがたいにー!!」


 寄付をしたのは俺だが、それは師匠が渡してくれた通帳の残高が、とんでもないことになっていたからであって、師匠のお金だ。

 ちゃんと返そう――『必要ない』って言うだろうけど、気持ちの問題だ。


 銀行で俺名義の口座に問題が無いか確認後、『タイニィ・ユイット』名義で寄付を依頼しておいた。

 俺はランクA冒険者なので、高額の預金があろうと不審がられることはない。

 銀行窓口は、各町の冒険者ギルド内に併設されているため、身分を詐称したり、他人の通帳を使うような人間が、無事に出られる場所ではないのだ。

 職員に怪しまれた時点で、ギルドの奥へ連れて行かれてしまう。

 俺の場合、銀行職員が確認するのは『本当に残高があるのか?』の一点のみで、滞りなく手続きを終えた。


 寄付は高額といえば高額だが、孤児院の当面の問題である『受け入れ不可状態』を脱する程度の金額でしかない。

 ルーならどうしたかは分からないが、俺はなるべく自力で継続できる方法を考えてもらう方向で、支援しておく。

 いくらあっても足りないのは分かっている。施設運営を続けるためには諸問題があるだろう。

 それでも、借金パパは置いといて、メリンダさんも助力してくれるはずだ。寄付だけでなく、アイデアを出し続ければいい。これで終わりではない。


 そして院長さんに「知人の名前に(あやか)って、施設の名称に『小さな庭』と、付けてもらえませんか?」とお願いした。

 正式な登記上の名称は元のままで、正面のプレートに追加して欲しい――と。

 院長に英語の『タイニー』の意味を説明すると、嫌な顔もせず快諾してくれた。


「本当に師匠には頭が上がらないなあ……」

「ですが、ルベルムさんにはどう説明するのですか?」

「俺がそんなに金持ちだとは思わないだろう」

「確かに。こそこそ隠し事をしているわりには、鈍いところがありますから」


 元気に手を振る子供達に別れを告げて、俺達は『明星のともがらと小さな庭』をあとにした。


 その後――


「キミ達……行くなら行くって言ってよね!!」


 ルーは俺達と入れ違いで『明星のともがらと小さな庭』に行ったらしい。

 寄付のことは聞いただろうけど、俺の知り合いのタイニィ・ユイットさんについては、何も知らないのだ。


「あと、涼平! キミには話があるから。ちょっと借りるわよ?」


 ん? なんだろう?

 ラファのほうを見ても左右に首を振るだけだ。

 引き摺られるまま、ルーの部屋に連れて行かれた。


「ありがとう……涼平。この町のことでは助けてもらってばかりね」

「あ、ああ……そういう話か」

「他に何があるのよ? とにかく、あたしがこれから涼平やラファにとって、どれだけの力になれるかは分からないけど、正式なパーティーの一員として参加してもいいのかしら?」

「たぶん、厳しい旅になると思うぞ? この町にも頻繁に来られるかどうか」

「そこは諦めてる部分はあるわよ……冒険者だからね。死んだら終わりだし」

「俺はいろんな関係を知らなかったから誘ったけど、ルーはこの町に残ってもいいんじゃないかなあ」

「それは、あたしとしては違うのよ……戦って勝つために冒険者をやってるんだから、それ以外の活動は……ある意味、人生のオマケみたいなものね」

「うーん、そうかあ。――ランクS目指すぞ?」

「当然でしょ?」

「もげるかもしれないぞ?」

「……窓、開けて」


 開けると同時に蹴落とされた。


 パーティーネーム考えなきゃな……。



§



 当初の予定と比べて遥かに長期滞在となったこの町とも、しばらくお別れだ。

 真愛と一緒にロール子とメリンダさんも見送りしてくれる。


「早く戻ってきてくださいね!! 滝原さん!」

「そうだな。ただ、相手のあることだからなあ」

「死んじゃダメですよ? 私とフリシーも困っちゃいますから!」

「ああ。俺もまだ死にたくないし」

「パーティーネームは、まだ決めていないのでしょうか?」

「はい。旅しながら考えようかな……と」

「この度はお世話になりましたね。滝原さんの旅の無事を祈っております」

「わ、わたくしも待っておりますから、ご無事で……涼平様」

「え!? フリシー?」


 真愛がカクカクと不思議な動作でフリシーを見る。


「ずるいですよう! じゃあ私も涼平さんで!!」

「俺は別に構わないって言ったじゃん……」

「でしたら私も涼平さんで」

「なんでメリンダさんまで乗っかるかな!? ちょっと嬉しいけど!」


 ラファに引き摺られて防壁の外に強制連行された。

 顔馴染みになった門番さんから、「腰を大事になー」と声がかかる。


「マックスをどうこう言えないわね……【加護】を疑うべきかしら?」

「ルベルムさんはどうなのですか?」

「あ、あたしは違うわよっ!? こんなマザコンのおっぱい星人!!」

「わーいおっぱいー」

「子供が真似するでしょっ!!」


 ぺしっと頭を叩かれたが、俺の真似なんかしなくても、次世代星人達は(すこ)やかに育っているぞ。

 ラファは(いぶか)しげな表情でルーを見つめていたが、「まあ、そういうことにしておきましょう……今は」と前に向き直った。


「次の町、ヤーラフトゥルには寄る? それとも飛ばす?」

「私は行ったことがない町ですので、見ておきたいですね」

「食べ物は美味しいんだけどね……あたしはあんまり……」

「嘘だろ……ルーが食べ物を見逃すものかよ」

「どういう意味よっ!?」


 とりあえず寄ってみることにした俺達は、それなりの距離を全力ではなく普通の速度で進み、昼過ぎにヤーラフトゥルに到着。

 そして壁内に入ると……ルーが乗り気でなかった理由が判明した。


「ああ、色町があるんだな……」

「出ましょう、涼平さん。……買ったのは本当に剣だけですか?」

「どういう意味だよっ!? この町には寄ってないからな?」

「二人とも、町の真ん中でなんの話をしてるのよっ!」


 結局、昼食だけこの町で済ませることにした。

 先日の地震の影響は残っているものの、さすがこの世界の住人は慣れたもので、既に町は活気に満ちている。人の出入りもそれなりに多いようだ。

 俺達は『朝の通草坂(あけびざか)』という変な名前のハンバーガー屋に入り、適当に注文してから席に着いて周囲を見ると、何故か若い男性客が多かった。


「また入る店を間違えたかな……」


 テイクアウトに変えようか迷っていると、突如歓声が上がり、奥のステージで歌とダンスのショーが始まった。


「ちょっと価格設定が高いとは思ったけど、アイドルカフェだったのか……日本では行ったことないけど」

「に、日本は変わってるのね……」

「アイドルって、意外と日本では伝統的な存在なんだぞ?」

「き、球場でコンサートしたりとか……?」

「球場って……まあそうだけど。ドームツアーとかやってるな」

「ツアーできるほどなんだ……ふーん、そっかあ……」

「この世界にも有名なアイドルはいますよ? 音楽は生演奏ですが」

「この店みたいなのが世界各地にあるのか?」

「はい。有名なアイドルは、それこそツアーで世界各地を回っています」

「詳しいんだな。ラファはアイドル好きなのか?」

「いいえ。男性相手に扇情的な振る舞いをするなんて……理解不能です」


 獲物を狙う女豹の如き人物が何か言ってる!? と、抗議したくなる気持ちを堪える俺の心情を察したのか、ルーが手で口を押さえて笑っている。

 それにしても、こんな厳しい世界でも経営が成り立つんだな……まあ、こうした娯楽があるのはいいことだ。


 俺達は熱気に圧倒されたままハンバーガーに齧り付いて、早々に店を出た。

 まだショーは続いているが、こんな店では落ち着けない。何より、ステージ上の女の子達よりも連れの二人のほうが可愛いという、いらぬ波風が立ちそうな状況もよくない。


 ところが、そんな思惑を余所に向こうからやってくるものなのだ……いらぬ波風というものは。

 入れ違いに店に入ろうとした男二人に、声をかけられてしまった――


「新顔だな? 次のステージはあんた達が出るのか?」

「そりゃ楽しみ――って冒険者じゃねえか!? しかもランクAとBだと?」

「そういう衣装なんだろ? この見た目で冒険者なんかやる女が居るもんかよ」

「確かに、この若さでランクAとBとか有り得ないもんな……マネージャー連れてるみたいだし」


 誰がマネージャーだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ