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065 海から帰った天然物

 ハシャートクの町に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。

 当日の夜に戻れているはずなのに、翌日に帰ってきたような不思議な感覚だ。

 まず、ロディトナでの出来事を報告するためギルドに向かう。


 マイルスさんは相槌を打つだけで、押し黙ったまま俺の話を聞いていた――


「そうか……君と【変幻悪源太(へんげんあくげんた)】で決めたことだ、ギルド側からは何も言うことはないよ」

「それってプロ――じゃなくてシンの二つ名ですか?」

「ん? ああ。本人から聞いていなかったのか」

「習慣付いてないもので……」


 鎌倉悪源太は分かるとして、変幻って……アレのことだよなあ。


「今回、ロディトナの状況を見られたのは、いい経験――と言っちゃダメなんでしょうけど、思い知るという意味ではそうなんだと思います」

「そうだな。聞くと見るではやはり大きな差があるからね……時間ができたら私も見に行こうと思っている」


 今回の措置は、やりきれない感情の置きどころの問題でしかない。

 あの時――ロール子に声をかけられなければ、マーシャル商会の存在など気にもかけず、部外者のまま次の町へ移動していただろう。

 俺はもっと世界を知らなければならない。


「ちょこちょこっと魔獣や魔人を(たお)したぐらいで……まだまだですね……俺は」

「君達が気に病むことはない。なんら先手を打てず最悪の事態を招いたのは、我々ギルドという組織の緩怠だ。私自身も忸怩(じくじ)たる思いだよ」

「俺はやるだけやって足りなかったとしても、それを後悔とは思いません。生きている限り、もっとやれることを増やすだけです」

「期待しているよ」

「ロディトナから国外に出ていた人達は、どうなっているんですか?」

「確認の取れた者は存命だが、マーシャル商会の関係者は身柄を拘束されている。一般人は気の毒だが、今後の身の振り方を考えてもらうしかない。ギルドも生活を保障する」

「マーシャル商会の銀行預金も、使ってしまえばいいんじゃないですか?」

「そうなるだろうね。こういった事態のためのテアムルトであり、国際銀行だ」

「なるほど……有無を言わせない存在なんですね」


 そう考えると、『神託の塔』よりも力関係は上なのではないだろうか?

 ランクSが四人も常駐警護する場所だ。それだけの意味があるんだな……ただの輸送用浮遊島だと思ってたよ。


「涼平さん……その剣はどうしたのですか?」

「ひっ!?」


 なんでここに居るんだ……。

 マイルスさんに挨拶して、俺達はギルドを出た。


「ただいま、ラファ」

「おかえりなさい。無事で何よりです」

「なんでギルドに来てたんだ? 俺探知能力?」

「それは、もう少しで――いえ、何か連絡が入っていればと思って……」

「『もう少し』ってなんだよ!? それで、俺が死んでるかも、って?」

「いえ、孤島で力尽きたところを、美女の島民に救われて、その後幸せに暮らしているのでは……と」

「何年経ってるんだよ!? 信用ないんだな、俺」

「ですが……断絶の大海ですから」


 この感じは――何度かギルドに来ていたのかもしれないな。

 寄り道せずにもっと急いで帰るべきだったか……と、胸が痛む。


「まあ、なんとか飛べるようにはなったよ」

「また差が付いてしまいましたね……」

「もう少しコツが掴めたら、ラファにも教えてあげるよ」

「お願いします。私を置いていかないでください」

「そんな大袈裟な」

「それで、その剣はどうされたのですか?」


 俺はルーが居ないことを確認して、他の町で何をしてきたのかと、戦闘で折れた剣を買ったことを伝えると、ラファはやはりご機嫌斜めになってしまった。


「ずるいです。今後も一人でいろんな町に行って遊び放題じゃないですか」

「どういう意味だよ!?」

「私も連れて行ってほしいという意味です」

「心配しなくても今回は特別だって。ジェイに負担はかけられなかったし、実際重かったみたいで悪いことしたなーと思ってるんだよ」

「私が乗ったらもっと重くなると?」

「ラファは羽毛のように軽いぞ? ほら」


 抱き上げると本当に軽かった。

 こんな身体で冒険者をやってて大丈夫か? と思うぐらいに――

 当人は機嫌を取り戻したようで何よりだが。


「明日、『明星(あかぼし)のともがら』に行こと思う」

「喜んでくれるといいですね」

「ルーには内緒だからな?」

「お互い様ですよね!」


 ロール子の家に着くと、賑やかな面々が出迎えてくれた。

 一日出掛けただけなのに、なんだか懐かしい。


 ロディトナにも、こんな日常が沢山あったんだろうな……。

 そんな心情が顔に出てしまったのか、ルーと真愛が眉を曇らせている。

 すると突然、ふわっと抱き締められた。メリンダさんだ。


「一人で抱え込むことはありません。酷いものを見てきたのでしょう」


 俺の斜め後ろに居たラファは何も言わない。

 あの光景と、この暖かさの落差が、この世界を象徴している。

 穏やかな日常が一瞬で奪われる世界――

 地球だって大差は無い。魔族は存在しないのだから、余計に酷い。

 およそ百年前の地球で何が始まったのかを考えれば、この世界の神様が地球人を連れて来る理由と無関係だとは思えない。


「俺は……あんなことは許せない」

「ええ。ですが、怒りでは解決しません」

「どうしたら勝てるんだろうか……」

「それを皆で考えるのが人間なのです」

「ありがとうございます。メリンダさん」

「早く交代してください」


 ラファはラファだった。


「やっぱり涼平はマザコンよねー」

「違うからルーにも抱き付こうか?」

「阻止します」

「うう……私もメリンダさんやルーさんみたいに背が高かったらなあ……」

「真愛はそのままでいいんだぞ? 俺が抱っこしてやるからな?」

「阻止します」

「ラファはバスケットボールが上手くなりそうだな」

「かなりのものですよ? 父様に教わりました」

「じゃあ今度みんなでやりましょう!!」


 少し遅い時間だが、賑やかな晩餐会が始まった。


「《マイン・トータス》と戦ってくるなんて、ほんと無茶苦茶ね……キミは」

「強いんですか?」

「ランクS相当の幻獣ですよ、真愛さん。そのブレスは広範囲に及ぶため、瞬時に長距離回避できなければ、一瞬で消し炭、もしくは凍結させられてしまいます」

「え!? どれぐらいの距離なんですか? メリンダさん」

「首を振りながらブレスを吐きますから、二キマ程度は高速移動できなければ危険でしょうね」

「ひょわあ!? 二キマですか?」


 相変わらず真愛の反応は面白いなあ。

 確かに、俺にとってはノロノロ亀さんだが、真愛のスピードでは危険だ。

 そこにラファが付け加える。


「ブレスだけでなく、三十マト以上の巨体による回転飛行攻撃を受ければ、町など一瞬で壊滅状態になります」

「完全に怪獣じゃないですかあ!?」

「そういえば、ぐるぐる回る技は見られなかったなあ」

「そんな余裕あったの!?」

「ルベルムさん、今後私達も斃すべき相手です。涼平さんなら二体使ってヨーヨーにして、子供達の人気者です」

「大惨事になるわよっ!?」

「わたくしは、そんな方に気軽に声をかけてしまったのですわね……」

「フリシー。男性との出会いに必要なのは、返しの付いた釣り針ですよ。(かつお)箆鮒(へらぶな)用ではいけません」

「ちょっと待って!? 品種改良された箆鮒までいるんですか?」

「練り()もあります。ヨーヨーも釣りも、庶民の娯楽ですから」

「ラファはヨーヨーが好きなんだな……っていうか、鰹の一本釣りは無理だろ」


 漁業についても謎が多いな……未だに知らないことばかりだ。

 ルーはまだランクS相当の魔獣が気になるのか、メリンダさんに訊いている。


「《マイン・トータス》ぐらい巨大だと、討伐証明はどうなるんですか?」

「魔石のみが討伐証明ですね。換金可能部位をどのように利用するかは、ギルドの判断になりますので、『場所を取りすぎるので引き取れない』というケースもあるようです」

「涼平は体内魔石をシンに譲ったんでしょ?」

「うん。タクシー代として」

「どのぐらいの金額になるか知ってるの?」

「凄い」

「『凄い』って何よ!? 分かってないでしょ……」

「ルーは俺とお金のどっちが好きなんだよ?」

「なんの話よ!?」

「ルベルムさんは、毎夜床下から壺を取り出し、中のお金を数えるのが至上の喜びなのです。それはもう永遠の伴侶と語り合うように、満面の笑みで、壺を」

「あたしをなんだと思ってるのよっ!?」


 ランクSぐらい斃せばいいじゃん――とは、俺もまだ言えないか。

 今回も一人だったら早々に剣が折れて、苦戦していただろう。

 だからこそ修行、そして武器だ。


 明日、俺達はこの町を出る――

 真愛はロール子と一緒に、メリンダさんから冒険者の心得を指導してもらうことになった。最良の選択だ。

 安心して滞在させられる場所ができたのはありがたい。


「でもでも、魔獣があんまり居ないんですよ? 強くなれないじゃないですか!」

「真愛さん。貴方にはまず、淑女としての立振舞を学んでもらいます」

「無理です!!」

「フリシーのように、という意味ではありませんよ? この子は特別変ですから」

「変ってなんですの!? お母様!!」

「だってそんな話し方、私は教えてませんから」

「え!? これって変ですの?」


 周囲を見渡すロール子。

 みんなが目を逸らす中で約一名、だらだらと冷や汗を流している人物が居る。

 ……メイドさんだ。


「申し訳ございませんでした!! わたくしの責任です! 楽しくって……つい」

「『つい』ってなんですの!? エミリー!」

「いや、俺も面白いからそのままでいいと思うぞ?」

「あら、滝原さんからお墨付きを得ましたね。私も面白いので、そのままがいいと思いますよ? フリシー」

「なっ……そういう扱いですの? わたくしはっ!?」

「うん、可愛いじゃん。フリシー?」


 俺がそう言うと、ロール子の頭からぼんっ、と煙が出て、顔を紅葉色に染め上げたまま、自分の部屋へ逃げ去ってしまった。

 ラファとルーと影の薄い借金パパが、半眼になって俺を見ている……そしてメリンダさんは真愛に、ひそひそとはっきり聞こえる声で耳打ちをしていた。


「よく見ておきなさい。あれが天然の女たらしというものですよ、真愛さん」

「はい! 加工品は知ってましたが天然は勉強になります!! でも、メリンダさんは大丈夫なんですか?」

「ええ。私はいつでも大丈夫ですよ?」


 どういう意味!?


 借金パパが無言で立ち上がり、早足で部屋に戻っていく。

 武器か? 武器なのか?

 ラファがエア投げ縄ではなく本物のロープを取り出したところで、俺は解散宣言して部屋へ逃げ込んだ。

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