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060 陽光の下、明け初めぬ国

 すっかり話が逸れてしまった。


 だけど、そんな貴重な生物を連れ――いや、乗り回していいのだろうか?

 戦闘に巻き込まれたらどうするんだ。


「研究室みたいな安全な場所に、隔離しなくて大丈夫なんですか? これ」

「これとは何だお前っ!!」

「言語関係の整理は概ね終わったからね。天人の総人口は少ないし、古い時代の人物は召喚されない。今はアップデート後に確認するぐらいなんだよ」

「じゃあ珍生物は死んでも困らないと?」

「もう殺す――ガチで殺す!!」

「おいおいジェイ。こんな言葉遊びでムキになっちゃ駄目だぞ?」

「だってコイツ、ガンガン煽ってくるんだもん!」

「滝原君も。ジェイは知能は高いが年齢的にはまだ子供なんだ。挑発するのは控えてくれないか」

「すみません。喋る珍生物との交流が楽しくて」

「オレよりタキバカのほうがガキじゃないか! ぶらぶら遊んでるだけだろ!!」

「うっ……それは反論できないかも……」

「ほら見ろ! タキバカでガキバカなんだよお前は!!」


 そこは全面的に認めよう。

 だが頭上には、恐いお姉さんの火の鳥が五羽ほど旋回している――

 そろそろ本題に移行しなければ。


「あの……話は変わるんですが、先生はロディトナへ行くんですよね?」

「ああ。ジェイに乗って行けばすぐだからね」

「ちょっと運んでもらいたい荷物があるんですが……」

「重さは?」

「大人二人分ぐらいです」

「それなら大丈夫だけど、なんでロディトナなんだい? 今、何もないぞ?」

「それがいいんです」


 大丈夫そうなら、このまま荷物として置いてきてもらおうかな。

 だが、ラファにしか解けない昏睡状態のまま放置しても意味が無い。

 ならば――


「俺も行っていいですか?」

「「えっ!?」」


 ラファとルーが同時に反応した。


「重量は問題無いけど……一応、危険な場所だよ?」

「はい。その辺はむしろ歓迎なので」


 俺は二人に「あとで話す」とだけ告げ、ひとまずは大人三人分の運送許可を得たので、珍生物を残して全員で町へ向かった。



§



「行くのはいいけど、帰りはどうするのよ? シンはそのまま中央大陸方面へ東進するんでしょ?」

「一つ試したいことがあるんだ」

「ロディトナからこちらへ戻ってくる方法ですか?」

「そう。棒で川渡りするみたいな感じで、最高到達点から俯角に加速して――」

「何キマあると思ってるのよ……仮に宇宙まで上がるとしても、酸素確保と魔族の襲撃も問題でしょ?」

「ランクS相当なら宇宙まで飛べます。飛行魔術を使えないのは致命的ですね」

「うーん。考えが甘かったか……やっぱり海上を跳ぶかな」

「島がなければ休憩出来ませんよ?」

「そこは氷山でも作ってどうにかするさ」

「……帰りにエイネジアに寄れるじゃないですか」


 ラファが頬を膨らませている……可愛い。

 きっと東端までの旅を楽しみにしてたんだろうな。


「一旦ハシャートクまで戻るよ? 【ブルレスケ】には最悪の場合、殺されるかもしれないんだから、単独で行くつもりはないし」

「涼平さんが殺される前に私が剣を破壊します」


 不可能だ。相手は元ランクS――本気で攻撃されたら死ぬしかない。

 俺としても、ただ剣を入手しようとして殺されるのは嫌だし、怒らせないようにしないと。


「まあ、帰る方法はどうにかするよ。どこかで越えるべき壁なんだし」

「私も同行したいところですが、我儘を言ってシンドリッチさん達に迷惑をかけられませんから……この町で無事を祈っています」

「まだメリンダさん達の周辺警戒も必要だからな? 頼んどくよ」

「はい。そろそろ出入りも落ち着きますから、不審者も見付けやすいでしょう」


 そして翌日――


 昏睡を解いた二人に魔術、物理両方であらゆる拘束をかけ、耳栓と目隠しをした状態のままジェイに乗せ、俺は先生とロディトナへ旅立つ。


 最初だけ翼も併用してふわりと上昇。そこからは魔術での飛翔になるようだ。

 一気に速度が上がる。

 前面にも円錐形の障壁が展開されて風防になっているため、先生とも普通に会話が可能だ。障壁が無ければモロに風を受けて、会話どころではない。


「帰る方法は決まったのかい?」

「はい。と言っていいものか……海上をぴょんぴょん跳んでいこうかなと」

「雑だね!?」

「バカだろ?」

「そこは認めるよっ!! あと、ついでに飛行訓練もするつもりです」

「そうだね、ランクSには必須だ。……僕も言えた立場ではないけど」

「先生にはジェイが居るから大丈夫ですよ。言語研究を頑張ってください」

「ありがとう。――ときに滝原君。君は……特撮ヒーローは好きかい?」

「え? 戦隊ものとか変身するやつとかですよね。好きなんですか?」

「い、今でも新作が作られているんだろう?」

「やってますよ」

「ど、どんなのかなっ!?」

「CGをかなり多用していますね。あとリバイバルやクロスオーバー型の作品なんかもあって、幅広い世代が楽しめるようになってるんじゃないかと思います」

「なかなか詳しいじゃないか滝原君!! CG技術を用いたハリウッド映画が増えてきたあたりで僕は死んじゃったんだけどね! あ、駄洒落じゃないからね!?」


 ジェイは半眼になったまま無視している。

 自分だって元は架空の生物なのに、架空のヒーローはお気に召さないのか。


「僕の頃はメタリック系が多くてね! 生物系が好きだったからちょっと残念ではあったが、あれはあれでよかったんだよ!! 光るブレードが闇に映えてまたカッコいいんだ!」

「ああ、それは分かる気がします。暗いほうがいいのってありますよね!」

「生物系もちょっとこう暴走しちゃったりとかね? 正義の味方なんだけど抑えきれない殺戮衝動とかさ。そういうのがまたいいんだよなあ」

「ですよね!! 『俺に構うな。お前らと馴れ合うつもりはない』とか言って!」

「そうそう! なかなか分かってるじゃないか滝原君!!」

「なんでタキバカまでノリノリなんだよ……」


 呆れるジェイの上で、俺達のヒーロー談義は続いた――――


 そのまま東の大陸上空を進む。

 高度は五千マトほどで、気圧低下による身体への影響は自ら調節するが、温度と酸素はジェイが障壁を張って調節してくれている。

 そしてランクS冒険者はジェイのことを知っているため、気付いてもスルーしてくれるらしい。逆に向こうから空まで挨拶に来ることもあるようだ。

 厄介なのは俺のようなランクAで、遠視能力が高ければ発見されるし、高度次第では攻撃も届く。

 だが、そこはランクSだ――ランクAの攻撃など、通用しないのだろう。

 更に自身の気配を消せるのだから、あらゆる面で能力が高い。


 眼下に広がる雲の切れ間から見える光景は、広大な自然ばかりだ。

 町を避けて飛んでいるから当たり前だが、建造物を見付けるのは難しい。


 不意に、前方からジェイの声が飛来する。


「そろそろエイネジア付近を通過するぞ。タキバカ」

「速いな!? だけど、このぐらいの距離なんだな……」

「このあと極東のジィスハを越えたら、あとはしばらく海だけになるよ」

「先生……ジィスハって位置的に日本っぽくて、ノスタルジアです」

「細部は違うけど、弓状に反っているところも似ているね」

「そういえば、先生は日本の歴史にも詳しいんですか?」

「主に戦国史だけどね。最初は忍者から入ったんだが、家康、信長と時代を(さかのぼ)っていって――だけど僕の故郷で内戦が勃発して、それどころではなくなってしまったんだ」

「ユーゴスラビアですか?」

「そう、クロアチアだ。よく知ってるね?」

「ど、ドブ……ドゥブロヴニクとか美しいですよね! 母が行ったので少しだけ知ってます。でも嬉しいです、日本文化を好きになってもらえて」

「そうか! だったらお互い様だ。自分の国のことを気にかけて調べてくれるだけでも嬉しいものさ。刀の文化はこの世界でも継承されているよ? ルーの大太刀もそうだが、刀剣の魔力伝導効率向上のために、あらゆる技術が各国で日々切磋琢磨されているからね」


 だからジィスハは魔族に狙われたのかもしれないな……。

 過去に襲撃を受けて壊滅したと聞いた……今では『上空を通るのも危険』とまで言われている場所だ。


「ジィスハには今でも魔族が居座っているんですか?」

「君だから話すが……あの島国については嘘が流布(るふ)されている。実は今でも普通に人々が暮らしているんだ。(おおやけ)には秘匿されている話だから、他言無用だよ?」

「『あなただけにお得な情報を!』っぽくて胡散臭いんですけど……」

「いやいや、本当の話だよ。エイネジアとも交流があるが、名目はエイネジアからの定期調査ということになっている。そうしないと冒険者が来てしまうからね」

「既に派遣されてるから勝手に乗り込むなってことですね。……だけど、なんで秘密にしておくんですか?」

「ジィスハの人々は、ただ静かに暮らしたいだけなんだよ……およそ四十年前、侵攻してきたのは魔族ではなく、中央大陸の『ある国』から断絶の大海を越えてやってきた軍隊でね。その衝突を強制終了させた魔族――それはたった一人の魔人で、何故か虐殺は起こらず、双方を武装解除させて事態を収めたんだ」

「そういうことをする魔人を……俺も知ってるような気がします」

「そうか……理解者が居ることは幸いだな」


 彼にどこまで話せるか……極東の島国の真実が隠蔽されている裏には、『国際的な厄介事を有耶無耶にしておきたい』という思惑があるのかもしれない。

 ついさっき会ったばかりの俺に、そんな情報を教えてくれた。

 それでも……討伐対象として追われる側にある人物について、軽々(けいけい)に話せるものではない。師匠は世界一強い。だが、俺にとって大事な人なのだ。


 うむむ……と悩む俺を見たシンが、気が抜けるような軽い口調で言った。


「まさか滝原君が、彼女――オクトの弟子だったとはね」

「えっ!?」

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