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005 潜在的危険性

 二人の話を聞く限り、俺は通常であれば召喚された際にあの変な空間で行われるはずの、『天人としての基礎知識』についての説明を、すっ飛ばされてしまったようだ。腐女が『時間が無い』とか言ってたし……。


 召喚された者には二種類のタイプがあるようで、『体内に魔石が埋め込まれ容姿は生前のまま』が【内在型】、『魔石は体外で使用し、希望する容姿で転生することができる』のが【外在型】という感じらしい。

 それってどう考えても神様は【内在型】のみにしたいと思うんだが、そのことで過去に何があったのだろうか……まさか、体内爆弾とか?

 俺の体内にもあるのだ。今は訊かない考えない。


「俺は選択させて貰えなかった時点で強制的に【内在型】だろうな。二人はどっちなんだ?」

「……【外在型】になるわね」

「あ、私は天人とヴィスティード人のハーフですので、元から選択の余地はありません。体外魔石を使用しています」


 ルーは「他人に言ったり訊かれたりが嫌なんだろうな」と、あからさまに分かる反応だ。視線を外して少し唇を尖らせている。

 別にいいと思うんだけどな。俺だってイケメンになれるものならなりたい。

 そして現地人の存在を失念していた……やはり俺は足りてない。


「それにしても……天人って呼び方は、むず痒いものがあるなあ」

「仕方ないわよ。定着するまで大変だったみたいだし」

「『天降人』『召喚勇者』『魔を滅ぼす刃』『闇を払う光』『神の雷』『神の剣』『威斬』『右左威』など各地で呼称が統一されていなかったため、国際会議によって『天人』と統一するように制定されたのが、およそ五十年前です」

「……うん、天人でいいです。というか蔑称みたいなのも混じってるな? それ」


 魔石については存在が重すぎるので、今は意識の外に置いておこう……。

 もう一つ――これこそが本題だ。


「そもそも、天人って何をするために召喚されるんだろうか?」


 二人の顔から表情が消えた――


 「あ、こいつバカだ」とか「一を聞いて十を知れよ」とか、その辺りだな。

 内容を再確認するときによくある反応だ。それも(うべ)なるかなってやつだろう。


 美少女二人がお面のような顔で固まっているのも、それはそれで美しい。

 確かに俺はバカだが、バカを理由に置いていかれるわけにはいかない。

 父さんも言っていた。「モテなくても男は誠意だ」と。

 隣で母さんが「それ浮気されるやつー」とか言っていたが、今は置いておこう。


「使命みたいなものは分からないけど、強くなれるならなりたいかな、俺も」


 二人に表情が戻った。安堵の表情も、それはそれで美しい。

 よかった……やっぱり戦闘民族なんだな。

 視界の隅の《ゴーレム》も、心なしかほっとしているような気がする。

 表情が見られたら面白かったのに。


「だけどさ、異世界に召喚されてペナルティって酷くない?」


 再び話を混ぜっ返す俺に、ルーが軽く頭を振ってから言う。


「酷い、かもしれないけど……ペナルティなしに力を持つ者が自重できると思えるなら、それはそれで酷い脳味噌の持ち主だとも思うわよ?」

「だけどこの世界……ヴィスティードだっけ? の人達にペナルティが無いなら、力を使って支配者に――ああ、なるほど……天人は抑止力でもあるのか」

「そういうこと。乱暴に表現するなら『力には理性的な力を』という考え方ね」

「具体的な経緯については長くなるので端的に言いますと、『抑える力が弱体化したため代わりを呼んだ』という形になります」

「うーん……分からん。とにかく複雑なことになってるんだな」

「さっきこの世界に来たばかりなんだから、何もかも知る必要はないでしょ?」

「ああ、そうだな。俺も今知っておくべきことを整理しないと」


 キリのいいところで立ち上がり、再び町に向かって歩き始めると、その後ろからやはり《ゴーレム》が付いてくる。

 小さな歩幅でトコトコと歩く姿を見ていると、危ない相手だと聞いていても変に愛着が湧いてしまう……『可愛い妖怪』みたいな感覚だろうか。


 道すがら二人の異世界講座は続く――

 政治経済の話は学校の授業みたいで右から左へと抜けていったが、『この世界は危ういバランスでどうにか成り立っている』という部分だけは、俺の頭でも理解できたように思う。


「まだ距離はあるけれど、この丘を越えたらエデルクアの町が見えるわよ」


 緩やかな丘陵を登りきると、ルーの言うとおり防壁に囲まれた町を見下ろすことができた。


「想像を超える広さだ……『桁違い』ってやつだな」


 僻地と聞いて小規模な町だろうと思っていたのだが、地球で見られるぎゅっと圧縮されたような景観の城塞都市とは、まったく異なる景観が広がっていた。

 日本人の感覚で言うなら松本盆地や奈良盆地を見渡すような光景だ。

 民家などの建物だけでなく、田畑や果樹園、広大な溜池、更には牧場らしきものまで壁の内側にある。


「これで一つの町なのか……乗合馬車とかあるんだろうか?」

「当然。他にも立ったまま動かす変わった乗り物なんかもあるわよ?」

「まさかバランス・スクーターか!? どうなってるんだ、この世界……」

「【ハンキー・ドリー】ですね。魔術による姿勢制御は必要ですが、速度もかなり出ますので、なかなか面白い乗り物です」

「貴重品だから町の中でしか使えないけどね」


 天人の知識と魔術が合わさって、歪なテクノロジーが発展しているようだ。


「水道設備はどうなってるんだろう? トイレとか」

「生活用の上水道は完全とは言えないけど、トイレは貯水タンクを使った水洗式とオガクズを使ったものの二種類あって、下水処理施設なんかもあるわよ」

「自動化とメンテナンス要員の確保が難しい分野は、技術があってもなかなか広域には行き渡りません。機械の自動化は、この世界の課題なのです」

「魔術で動力を作れても、人が離れられないんだな」

「生活インフラは、人口と人材と維持費の兼ね合いがあるからね」

「だけど、何もかもが行き渡っていない発展途上段階って、何故かそそられるものがあるんだよなあ。スチームパンクとかさ」

「男の子はそういうの好きよね……あたしは服の生地とか食事が重要だけど」

「それはそれで訊きたいことがあるけど……今は呑み込んでおく」

「言わなくても想像が付くけど、訊かないでおくわね」

「下着でしたら縫製技術もデザインも、なかなかのものですよ?」

「ラファ!?」

「俺は何も訊いてないけど、とても参考になったよ、ラファ!」


 真っ赤になるルーの横で、ビシッと親指を立てるラファが頼もしい。

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