表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/322

052 怪人か戦闘員か

「まったく……なんであんなところで賊が襲ってきたんだ」

「そうですね」


 カールの隣に居るのは俺だ。


 漫画軍団との戦闘時間はほんの数分間。そこから全力で追いかけ、彼を抱えて退避したゴドンさんが町へ辿り着く前に追い付いた。


「な、なんでお前が!?」

「ちょっと掃除のコツを訊いたんですけど、あんまり詳しくなかったみたいで」

「そ、そうか。掃除ならボクも得意だぞ?」

「そうなんですか。だけど、あっちにもっと詳しそうな人が居るので、ちょっと訊いてみますね」


 一瞬でグラサン男の前に立つと、レンズの奥が瞠目した。

 俺は四方周辺と上に重力障壁を展開し、離脱不能にしてから訊く。


「あなたも得意なんですか? 掃除」


 男は見た目四十代で痩せ型、長髪に(つば)の広い帽子を被り、神経質そうな顔は無表情だが小刻みに痙攣している。服装は黒の上下で、ベストの上はハーフコート。

 それに白い手袋――これでは【掃除屋】というより【葬儀屋】だ。


「私が何かしたかね?」

「いいえ。何かするんですか?」

「君はそう考えているようだが……何故そう思ったのか理解できなくてね」

「子供はお好きですか?」

「……いや、あまり好きではないな」

「今からこの町の子供に、一人でも不幸な出来事があれば、あなたも関係者も無事では済みません。くれぐれもご注意なさってください」

「はっ! 冒険者如きに何ができるというのだ、馬鹿馬鹿しい。私の国では冒険者など使い捨ての駒でしかない。思い上がるなよ? 小僧」

「もう一度訊きます。この町で何かするんですか?」

「無事で済まないのはどちらだろうな? ――小僧」

「この町にヤブ医者は必要ないんですよ?」


 なるほど。武器としても使うのか。

 ヤブ医者は骨で作ったトンファーのような武器で障壁を破った。

 作戦変更だ――こいつはもう、町へは行かせない。


「何で戦えるのにコソコソしてたんだよ、ヤブ医者」

「貴様っ! それ以上私を愚弄すると――」

「殺してみろよ? これまでも救わず殺してきたんだろ? ヤブ医者だもんな」

「――っ!!」


 なんだ、こんな簡単に挑発に乗るのか。

 ただのコント集団なら、ここで演芸の舞台は閉幕にしてもらおう。


 しかしヤブ医者は、思い掛けない行動に出た――


「煙幕だと!?」


 それだけならばやはり漫画軍団の一員でしかないのだが、まさかここで冷静に、逃げの一手を打ってくるとは予想外だった。

 俺が交差した両手を広げて煙幕を消し飛ばすと――


 何故か眼前にグラサン男が立っていた。



§



「あのさー。おっぱじめてると思うのよ、あれ」

「おっぱい好きですから……涼平さん」

「どのキーワードに引っ掛かってるのよ!?」

「貴方達……作戦とブラジャーがどれほど重要なのか、理解していますか?」


 みんな冷静だな……。私はドキドキする胸に手を置いた。

 やっぱり寝るときも着けておいたほうがいいのかな……。


 フリシーの家で待機していると、町の外で突然戦闘が発生した。

 私が気付いたのは大きな音がして煙が上がってからで、他のみんなはその前から気付いていた。うう……まだまだなんだな、私って。


「それじゃ、所定の位置に移動ってことで、あたしは『明星(あかぼし)のともがら』に向かうわよ?」

「はい。ここは私とラファさんで絶対に守ります!!」

「知り合いの冒険者達にも、不測の事態が発生した場合の指示はしてありますが、彼は……本当に始めてしまったのでしょうか?」

「涼平さんの判断は無謬(むびゅう)です。ご心配なく」

「ラファ様は、あの方を信頼なさっているのですわね」

「妻ですから」

「妻ですの?」

「さ、フリシーも安全な場所に行きましょう!」


 滝原さんとラファさんの関係は、不思議な距離感だ。

 イチャラブに見えて一方通行だったり……大人の恋愛って難しいんだな。

 だけど私はそんな二人が大好きだ。ラファさんはちょっと恐いときもあるけど、普段は強くて優しくて誰より感情的で、そしてスタイルもよくて美人だ。

 ルーさんも美人で私を可愛がってくれて、ふかふかで……大人だ。

 そして、ここから一回跳躍するだけで『明星のともがら』まで行ける。凄い。

 ラファさんも『遊撃は相手を混乱させられる』と言って、出ていってしまった。

 私はメリンダさんの傍で、家の警護の補佐だ。


 滝原さんからは「今回は魔族と違って人間相手だから、真愛は絶対に前に出ちゃダメだぞ?」って釘を刺されたけど、私だってフリシーとご家族を守りたい。

 大体、滝原さんとルーさんは私に過保護すぎる。

 滝原さんは川を飛び越えるときとか、私を抱き上げて――お姫様抱っこ――じゃなくて、あんまり過保護だと私が成長できないので!!

 メリンダさんが「町の中にどれだけ危険な人間が紛れ込んでいるか分からない」って言ってたし、私も気を抜かずに警護しないと!


「予定は狂いましたが、この時間に事態が動いたのは僥倖(ぎょうこう)かもしれませんね」

「どうしてですか?」

「闇の中では守る側より攻める側が、心理面でも戦術面でも有利になります」

「あ、そうか。相手はこちらの数を把握してても、こちらは相手が何人で来るのか分からないですよね……確かに夜の戦いは難しいですね」

「真愛さんは対人戦闘経験は少ないのでしょう? 町中(まちなか)での籠城戦は、多数相手の防御戦術として、よい経験になることでしょう」

「はい! 頑張ります!!」


 メリンダさんは優しくて知的なお母さんだけど、どこかズレていて面白い。

 今だってそうだ。我が家の非常事態なのに、まるで他人事のように話す。

 フリシーとの会話なんて、二人は真剣なのについ笑ってしまう。

 笑う私を不思議そうな顔で見る二人も可愛らしい。


 だから守る――私は強くないけど、みんなが居るから頑張れる!!



§



 視線の隅では、ゴドンさんが依頼主を抱えて門番と話している。

 彼はこちらの事情を知らない。とにかく報酬が優先されるのだろう。


「意味ありげに煙幕焚いて、そこに居るってどうなんだよ、ヤブ医者さん?」

「多人数を用いた対人戦術は、冒険者には理解できないだろう?」

「あー。そういうことか。町のほうでも動きがあるんだな……やめとけって。恐いお姉さんが待ってるぞ」

「これは戦争ではないからな。気がついたら終わっているものだよ」

「終わるのはどっちなんだろうな? ヤブ医者さん」


 長引かせる気はない。今の煙幕が【掃除屋】の合図になっているなら、こちらの準備も万端とはいかないだろう。

 まだ明るいうちから町中(まちなか)でやり合うのだ。思わぬ障害があるかもしれない。


「あんたがここに残るとは思わなかったけどな!」


 実戦を誰にも見られたことのない相手だ。それなりに警戒は必要だが、ランクSのような威圧感はない。

 ヤブ医者は得物を変え、不思議な武器を持って――というより装着している。


「なんだそれ……やっぱり漫画シリーズなのか?」


 右腕がドリルなのだ。有り得ない……何が有り得ないって、そのカッコ悪さが異常なのだ。更に左手には、樹脂がこんもりと盛られた直径六十セマほどの丸い盾を持っている。

 総合的なビジュアルを表現するなら、『ヒーローものの悪役怪人』だろうか。


「何で【掃除屋】は変なのばっかりなんだよ……」

「冒険者はただ魔族を狩っていればいい。その間、我々は対人戦闘技術を進化させるだけだ」

「むしろ、あんたらが魔族側に寄っていってる気が……」


 怪人になる――というルートで。


 試しに斬りつけてみると、なるほど、ドリルが剣を弾くように回転する。

 盾はおそらく非ニュートン流体の振る舞いをする樹脂の一種だろう。衝突速度が速いと硬化し、遅いとめり込むが攻撃の有効速度を失ってしまうやつだ。


「残念ながら俺はネバネバには一家言ある男だ。そんなものに惑わされないぞ?」

「遊郭通い自慢か? そんな好色冒険者など、我々の敵ではない!!」

「え? ちょっ!? その誤解は解いておかないと、あとで恐いお姉さんに――」


 いや待て――今、『我々』って言ったか? そう思った瞬間、後方からドリルが飛んできた。

 そして左右からは盾の挟撃が迫り、上に跳ぶと何本ものドリルが飛来する。

 ドリルを弾き飛ばしつつ下方へ視線を向けると、そこには我が目を疑いたくなるような光景が――――


 ざっと三十人ほど居るのだ……ヤブ医者軍団が。


「怪人かと思ったら戦闘員だったのかよ!?」

「誰が戦闘員だっ!!」


 声も三十倍でウザい。――ということは、本物は逃げたなこれ。

 おかしいと思ったんだよ……突然『ヤブ医者』に無反応になったから。

 速く移動しなければ、相手の思惑通りになってしまう。

 そのためにも声を張って警告する。


「あのー。今から俺、悪魔みたいな攻撃をすると思いますので、死にたくない人は武器を捨てて降伏してくれませんかー?」

「降伏などするかっ! 貴様如き木っ端冒険者にやられる我々ではない!!」

「これはお願いではなく警告です。俺は不殺を貫くような優しい冒険者ではありません。これまでの非道な行いと発言を省みて、速やかに降伏してください」

「殺せるものなら殺してみろっ! 冒険者如きが!!」


 無理か……。

 俺は一気に上空へ跳んで、相手の射程距離から遠ざかった。


 そもそも、あんな武器で誰を攻撃するつもりだったんだ。

 次々に玩具を作ってデモンストレーションのように人を殺せば、組織や国によるマウント合戦の火蓋が切られることになる。

 家族や恋人は居ないのか? 夢を語り合った友人は居ないのか? 未来を託する後進は居ないのか?

 彼等は何故、あれほどまでに冒険者を憎むのか……。

 のんびり生け捕りにして、話を訊く余裕など無い。


 【メトゥス・ゼロ】の通過後は大気の状態が不安定になり、雲も多く作られる。

 俺は高度二キマの上空で、瞬時に二百本ほどの氷の槍を作った。

 直径三十セマ、長さ五マトの硬質化した槍が、地上へ向けて加速する――――


 悪夢を告げる高速ドラムロールが大地に鳴り響き、土煙が舞う。


 空の雲は晴れたが、地表と俺の心は正反対だ。


「どこが【掃除屋】だよ……散らかしてばかりじゃないか……」


 戦闘員と玩具は舞い上がった土煙で覆われている。

 土煙を飛ばし氷も蒸発させると、現場に大量の土を被せて硬質化しておく。


 町の近くに巨大な穴と山を出現させた俺は、壁門の中へと急いだ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ