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051 悪の敵も悪でいいよ、もう

 後方の空が緩やかに白み始めた早朝――


 合図の鐘が鳴り響き、俺達は島から少し張り出した降下待機所に居る。

 ここで降りるのは、遠方からの旅行者や降下補助の冒険者など数十人だ。

 当然ながら町の中への降下は厳禁。【メトゥス・ゼロ】が町の上空へ入る前に、降下を終えなければならない。

 数キマ手前の平原で、数人のグループ毎に指定された順番で降下するため、着地場所は広範囲に及ぶ。


「あんたが降下補助の冒険者なのか? 随分若いが大丈夫なんだろうね?」

「不安でしたらゴドンさんと一緒にどうぞ。その場合、俺は先に降下します」

「いや、ランクAと降りたほうがいいぜ? 俺は少々荒いからな」

「そうだな……大事な身体だからね。万が一があっては困る。彼に頼もう」


 カール・マーシャルは、ほぼ想像通りの男だった。

 袖と襟がフリルになったブラウスと、その上に羽織った紫のベルベットジャケットが、『如何にも』な雰囲気なのだ。

 年齢は十八歳。艶のないボトルドブロンドの長髪を後ろで束ねた、タレ目のイケメンだが、身長の低さを気にしているのか、厚底ブーツを履いている。


 【外科医】ことグラサン男も、俺達の声が聞こえるぐらいの距離に居る――

 未だに部外者を装っているつもりのようだ。

 そろそろハシャートクの降下推奨ポイントに入る付近で、俺は【外科医】に仕掛けてみることにした。


「あの人は一緒に来ないんですか?」

「は? 誰のことかな?」

「ずっとこちらを見ていたサングラスの人です。お連れの方ではないんですか?」

「あ、ああ……ボクは知らないな」

「だとしたら不審人物ですよね。何故監視しているのか、ちょっと話を訊いて来ましょうか? もし突っ掛かってきても、あの程度の相手なら楽勝なので」


 俺がグラサン男に聞こえるように煽ると、ゴドンさんが『おいおい……』という表情のあと、嘆息した。

 すると、明らかに顔色が変わったカールが低い声で言う。


「もう降下時間なんだろ? 警護はゴドン君の仕事だ。余計な真似をするな」

「なるほど。もし何かあれば俺も対処しますから、安心してください!」

「ああ……それは心強いことだな」


 さあ、俺もマークしろよ――【外科医】さん?

 まだ動きは無いだろう。ここで荒事を起こせば即座にランクSが来る。


「さて、そろそろ降りますよ。荷物はこれだけで大丈夫ですか?」

「ああ、問題無い。くれぐれも気を付けてくれたまえよ? もしボクに何かあればマーシャル商会が何をするか分からないぞ?」

「バーチャル紹介? 確かに何をするのか謎ですね。結婚相談所ですか?」

「っ!? 冒険者如きがボクにそんな口を利いて――」

「行きますよ?」


 カールが言い終わる前に、彼の荷物と一緒に飛び降りた。


 好んで男を抱きかかえる趣味はないので、重力魔術で浮かせて運ぶ。

 俺が先に地上へ降り立ち、手荷物を抱いたカールをそっと地面に降ろす。

 見上げた先では【メトゥス・ゼロ】が、西の空へ遠ざかっていく――


「降下による体調の変化などありませんか?」

「ああ、問題無い。ただあんた、口の利き方には気を付けろよ?」

「すみません、若いもので」

「……もういい。町まではゴドン君に警護してもらうからな!!」


 ゴドンさんは警護を任されるだけあって、身体能力もなかなかのものだ。

 島から豪快に飛び降りて着地していた。

 グラサン男は先行組に紛れて既に降下している。じきに追い付いてくるだろう。

 単独で飛び降りたので、仲間の存在は確認できなかった。

 平原から街道への移動中、懐中時計を手にしたカールが訊く。


「ここから何分ぐらい歩くんだ?」

「降下限界に近いポイントで降りたので、一時間ほどですね」


 カールはひと言「そうか」と言ったきり、ゴドンさんと会話し始めたので、俺も黙って二人と距離を取って、魔族を警戒しながら街道を歩く。


 しばらく進むと、グラサン男が俺達を気にすることなく横を通り過ぎ、前を歩き始めた。

 何か仕掛けてくるつもりはなさそうだが、『正体を知っているぞ?』とあからさまに煽った俺を、このまま黙って見過ごすだろうか?

 本人は直接動かないなら、他にも【掃除屋】が降下したのか、あるいは既に町の中に潜伏していたのか……。


「……そう来たか」


 武装をした男が三人、先を行く三名と俺の間に立ち塞がる――降下組ではない。町から来て、身を潜めていたのだろう。

 気配を察したゴドンさんが振り返るが、彼等の狙いは俺だけだ。ジェスチャーでカールを連れて走るよう促す。俺の足ならすぐ追いつける。


 懸念していたのはゴドンさんを含め、他に【メトゥス・ゼロ】から降りた人達も巻き込んでしまう状況だったが、幸い危険な範囲に人影は見当たらない。今なら誰も巻き込まずに戦えるだろう。

 カールと荷物を抱えたゴドンさんも、遠ざかっていく。


 三人組はノッポチビデブガリといった特徴がなく、全員が中肉中背。犯罪者としては理想的な体型で、町の中に紛れていても判別が難しい。

 一人目は金髪。ロングソードを持っているので、近接戦闘タイプだろう。

 二人目は黒髪で肩までの長髪、もう一人も黒髪で、面白い武器を持っている。


「漫画で見たことあるぞ……あれ」


 金属製の刃が輪になっている投擲武器。あんなの実際に使う奴居るんだ……。

 チンピラの常套句も無しに剣を持った男が斬り込んでくるが、話にならないほど遅い。俺、ランクAなんだけど……どんな相手だと聞いて来たんだ。

 蝶を追いかける子供みたいなふわふわの剣を躱しつつ、『生け捕りにしようか』とも考えたが、こういうのは最後に口封じされるパターンだよな……と思い直し、新しい剣を抜く。


 そこへあの輪っかが飛んできたので、重力魔術で制御を奪ってそのまま相手に飛ばすと、あっさり右腕が切断された。……意外と使えるものなんだな。

 その横に立つ残り一人が唖然としていたが、虫取り網のように振られる剣を躱しながら、その残り一人が何をするのか待ってみたら――拳銃を構えていた。

 この世界では珍しい、リボルバータイプだ。


 左手を添えて両手で銃を構え、怯えた様子の男は、映画とかでよくある化け物に出会った警察官みたいだ……俺は剣男の攻撃を捌きつつ「撃てよ?」と銃男を挑発してみる。

 すると、「パン!」と乾いた音が響き――――剣男の左肩に当たった。


「ちょっ!? 何してんのバカなの?」


 再び俺に狙いを定めて、もう一発。もう一発。

 いや……これで殺せた相手居るのか? ――と、眼前で静止した銃弾を人差し指で弾き飛ばし、また輪っかを投げようとしていた男の左手を撃ち抜く。

 剣男は痛覚に呻きながらも頑張って斬りかかってきたので、指で挟んで取り上げた剣を重力魔術で銃男に向けて飛ばし、足の甲を穿(うが)つ。右足は地面に固定された。

 呆然と手を見ている剣男の腹に俺の拳が沈み、彼は白目を剥いて倒れ込んだ。


「おい、だから撃ってこいって」


 人を殺す気なら、(ひる)まず挑みかかってきてほしい。

 これでは俺が、力を誇示する嫌味な冒険者そのものになってるじゃないか。

 銃男は残弾を撃ち尽くすが、全て俺の手前で止まって落ちる。

 虫型魔獣の飛行速度は弾丸並だ。対処できて当然だろう。

 なんなの……この人達。


「重力障壁すら抜ける特殊な弾頭のはずなのに……化け物か!?」

「えっ!?」

「えっ?」


 俺達は向き合ったまま沈黙した――


「そういうことは撃つ前に言えよ!!」


 俺は土の槍で銃男の右肩を貫くと、銃男は銃を落とし、ただの男になった――


「なんて呼べばいいか分からなくなっただろ!!」


 俺はとりあえず火炎魔術を飛ばして長髪をアフロにしてやった。私怨ではない。

 これで今から彼はファンク男だ。

 ファンク男は足の剣を抜き、涙目のまま右手に何かを嵌めて殴りかかってくる。

 これも漫画で見たやつだ。なんとかナックル。

 ファンク男は長短が両極端な奴だな。


「このカイザーナックルは、当たれば魔術が発動する!」

「えっ? 当たらないと発動しないの!?」


 ダメじゃん。

 俺はファンク男の右手を斬り落とす。落ちた手に嵌められたカイザーナックルが「ボンッ!!」と音を立て――爆炎魔術が発動した。

 ファンク男がファンキーヘッド以外も黒焦げになって静かに倒れる様子を、瞬時に退避した場所から眺めていた俺に向かって、残る一人が呟く。


「殺戮を楽しむ悪魔め……」


 両手が使えなくなった男は、憤怒(ふんぬ)に燃える瞳で俺を睨んでいる。

 応戦した俺が悪魔だから問答無用で殺しに来たのか……どんな理屈だ。

 ならば悪魔である俺が予告しよう。そろそろあのオチが来る――

 何故ならもう一人、離れた場所に気配があるのだ。


「いっ、嫌だ!……俺はまだ戦えるっ!!」

「あの……助けられるけど助けたほうがいいかな?」

「クソ冒険者なんかみんな死んじまえ!!」


 そしてお約束タイム。三人の男は爆炎魔術で吹き飛んだ。

 彼等には『殺すか死ぬか』以外の選択肢は無いのだろうか……。


「冒険者がいなくなったら、お前らが獰神(どうじん)をどうにかしてくれるのかよ?」


 爆炎魔術は自爆装置ではない。ならば俺は、真打ちの登場を待つだけだ。

 すると、今頃になって離れた場所のもう一人が接近してくる。時代劇で「先生、お願いします」とか言われて出てくるタイプなら、相応の対応が必要だろう。


「むむ。きさまなにやつ」


 俺の棒読み台詞と同時に、太陽を背に跳躍した人物が目の前に着地――


「【掃除屋】って……実は漫画ゲーム愛好会なのか?」


 ド派手な装飾がゴテゴテと付いた大剣の柄に、トリガーがあったのだ。

 先程の爆炎魔術がこの銃剣から放たれた可能性に、少し目眩がした。

 カッコいいけど、世界観が違う……。

 今思えば、一番平凡な剣男は囮役か。漫画軍団の中で、特攻役を押し付けられた彼の立場を考えると、切ないものがある。


「組織って大変なんだなあ……」

「貴様、なかなかやるようだな。冒険者にしておくのは勿体な――」


 何か語り始めた男に超加速で接近し、咄嗟に受けようとした派手ソードを、試斬がてら可能な限りの連撃で細断。回し蹴りで男を吹っ飛ばすと同時に、先程先生が放ったものより高威力の爆炎魔術を放つ。

 それでも半径数キマが吹き飛ぶような威力ではない。先生がこの程度でやられはしないだろう。

 さあ来い、先生!!


 だが、いくら待っても先生は来ない。スルーされた家庭訪問――――


「こんなので、俺より強い相手と戦えると思ってるのか……」


 【掃除屋】さんのマル秘クリーニングテクニックを教えてもらえると思ったら、子供部屋の玩具が散らかっただけだった。

 いい年した大人が、こんな児戯のような方法で残虐行為を繰り返していたのかと思うと……(たわむ)れに命を奪われた犠牲者は、さぞかし無念だろう。


 町に向かうカール、そして【外科医】を追うために、助走をつけて跳躍する。


「今から悪魔がそっちに行くぞ?」

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