043 会話が踊る、それは下校時間
真愛がいつ戻るか分からないため、俺達は屋台で目についた食べ物を幾つか適当に買い込んで帰ることにした。
ハシャートクは区画整備が行き届いた比較的新しい町で、農地と住宅地と倉庫街と繁華街が完全に別れている。
賑わう繁華街を眺めていると、俺の中であの疑問が再燃する――
「やっぱ大太刀って不便じゃない? 左右に民家がある路地とか、そういう場所で戦うことになったら、家ごと住人も斬殺?」
「人を殺人鬼みたいに言わないで!! その場合、縦に振れるように相手の立ち位置を変えさせるだけでしょ? 魔術もあるんだし」
「ですが、至近距離戦闘をどうするのかは、私も気になりますね」
「そうそう。大太刀を振れない場所で、ナイフのリーチとかどう捌くんだ?」
「振れなくても上から落とすのよ。こう、ズドン! と」
「ズドン! か」
「ズドン! ですか」
これじゃ下校中の小学生の会話だ。
上から落とせない場合、地中からドスン! もあるらしい。
なんで擬音で表現するのかは置いといて、それらに併せて『斬れるものは斬ってしまう』も状況に応じて瞬時に使い分け、魔術も併用するのだから、やはり剣術のセオリーは一切通用しない化け物と考えるべきだろう。
「絶対戦いたくない相手だなあ」
「今、酷いこと考えたでしょっ!?」
「だから心を読まないで……」
「いえ、フラグです。二人は殺し合う運命なのです」
「それ、あたしだけ死ぬやつでしょ!?」
やっぱり下校中の小学生だ。というか、ラファは本当にヴィスティード人なんだろうか……。
「前にちょっと話したでしょ? ダンジョンについて。それから考えたのよ、ダンジョン攻略法を」
「つまりダンジョンでルーに遭遇すると、上下左右のどこかからいきなり大太刀が飛び出して貫かれるってことか?」
「そう。ずっと足元に潜らせたまま進んで相手の背中からズバン! とか」
「歩くトラップ発生装置だな……だけど、敵にもそういうタイプが存在し得るってことになるよなあ」
「攻撃方法の考察は、敵の攻撃を想定するためにも必要ですね」
「俺はダンジョンでルーと出会ったら『逃げる』の一択だな」
「人をモンスターみたいに言わないで!!」
「それを実際にやるとしたら、大太刀を酷使しすぎじゃないかな……違う意味でのモンスターペアレントだな」
「いえ逆です涼平さん。ルベルムさんは大太刀が側に居ないと寂しくて死んでしまうぐらい、狂おしいまでに愛を注いでいるのです。それはまるで夫婦――」
「どんどんあたしの狂人イメージを膨らませないでっ!!」
ルーが言うには掘削用途の場合、「重力障壁を纏った刀を縦軸回転させるだけだから刀そのものにはダメージは無い」らしいが、地中の岩盤をものともせずドリルのように回転しながら突き進む、二マト超えの大太刀って……もう俺の頭では理解不能の領域だ。というか、音でバレるだろ……それ。
何よりもルーの大太刀愛が異常だ。そうまでしてでも使いたいのか。
「ルーは『大太刀愛』って名前に改名するべきだと思う」
「これ以上名前はいらないわよっ!!」
「持て余すほどあるのか?」
「え? いや、そうでもないけど……」
「おそらく乳関連でしょう。『双子山』ですね」
「どういう関連でどういう名前よっ!?」
そんな子供みたいな会話で盛り上がったせいか、屋台で買った食べ物も下校中の学生が買い食いするような品揃えになってしまった――
宿の部屋はツインが二部屋しか空いていなかったので、俺とラファ、ルーと真愛に分かれる。
ルーが男女同部屋に文句を言わなくなったのは、少し寂しい気もする……。
俺とラファの部屋でルーと三人で食事を済ませたあと、今後の話などを相談していると、真愛が戻ってきた。
「夕食およばれしちゃいました!」
「それはよかった。真愛のぶんも買っておいたけど、冷めちゃってるし」
俺が指差した先にある小さなサイドテーブルには、ポテトフライ、ソーセージ、コロッケ、たい焼きなどが乗った皿が置かれている。
埃除けに被せてある折りたたみ式の食卓カバーを持ち上げて、「おいしそー」と目を輝かせる真愛の姿は、まるで学校帰りの妹を見ているようだった。
「たい焼きは食べます。おやつは別腹ですから! 他は明日全部食べます!!」
「無理しなくていいって。残りはルーが食べるから」
「ぜ、全部は無理よ!?」
「食べるつもりでいたのか……」
「ちょっとだけなら入るかも――って意味よ?」
「いえいえ、折角買ってもらったので。私が!!」
「今日は冷蔵しておいて明日みんなで食べよう。そんじゃ、たい焼き温めるぞ」
重力魔術でたい焼きを浮かせると、周囲を火炎魔術で包み込み、温度を調節して外をカリッとさせながらゆっくりと温める。
それを紙の上に落として包んでから真愛に渡す。
薄く柔らかい紙と硬めの紙の二種類は、旅の必需品なので常に持ち歩いている。
前者は言うまでもないが、後者は硬質化させれば使用後燃やせる器になり、武器としても使える便利グッズなのだ。
「レンチンより美味いぞ」
「ふわあ! ランクA凄すぎます!!」
「日常で使う魔術こそ修行の基本だからな? 少しずつ練習すればいい」
「はい、いただきます! ……あふ。絶妙な火加減でかりふわ美味しいです!」
「それで、向こうの親御さんはどうだった?」
「お母様は用事があるとかでお父様とメイドさんだけでしたが、お父様は冒険者に優し厳しい感じでしたねー」
「『冒険者とは斯くあるべし』みたいな?」
「そうそう、なんで分かるんですか!? そんな感じです!」
ロール子からも冒険者に対する敬意と共に、理想とする何かを求めているような雰囲気があった。
外部の人間が抱く冒険者像は、当事者が思う『こうありたい』という理想とは、また違ったものになるんだろうな。
「『才能が無い者は憧れに留めるべきだ』って……」
「まあ、言わんとするところは分かるけどな」
「でもでも、フリシアラさんの前で言うのは厳しすぎると思うんですよー」
「俺だって自分の娘が『冒険者になりたい』って言ったら、まず反対するぞ?」
「うーん……でもこの世界だと、明日この町が消えてなくなるかもしれないじゃないですか? 私は好きにさせてあげたいなーと思いますね……」
たぶん平行線だろうな。真愛はどうにかロール子に冒険者をやらせてあげたい。
対する俺や親御さんの意見として、『命のやり取りをする覚悟は無いだろう』という部分は一致しているように思う。
動機の部分をどう考えるか……だよなあ。
「ルーはどう思う?」
「ただの好奇心なのか、一生を貫く柱となる命題なのか――よね」
「知りたいことを知る権利は誰にでもあるけど、ただの興味程度のことで命を懸ける必要はないもんな」
「覚悟かあ……でもそれって他人から判断できます?」
「俺達ならできるかもしれないけど、親御さんには難しいかも」
「逆でしょ? あたし達が判断しても意味が無いわよ」
すると、顎に手を添えて黙考していたラファが言う。
「私は……本人が最終的にどうなりたいのか次第だと思います」
「と言うと?」
「記者が取材するのとは違いますから。『勇敢に戦って死んだ』では意味がありません。冒険者も生きて町へ、家へ帰りたいのです」
「確かにそこは、一般人と認識のズレがある部分かもなあ」
「強くなりたい理由って、自然と『命を繋ぐため』になってますよね、私達って」
「美化されてる部分しか見てないと、ギャップで苦しむかもしれないわね」
「彼女自身が見聞を深め、自ら導き出さなければならない問題なのです」
「そうだな……『手に負えない』と投げるんじゃないけど、ロール子に共感できるかどうかは、手助けするための動機にはならないな……俺としては」
身も蓋もない言い方をするなら、俺達は『なんでも解決屋』ではないのだ。
個人の事情にいちいち立ち入って解決して回るために、冒険者をやっているわけではないし、『だから覚悟を示せ!』と強要するのは筋違いだろう。
あくまでも本人がどうしたいのかを自問自答するべきなのだ。他人に誘導されて決めても、あとから使える言い訳が一つできるだけになる。
「私、しばらくこの町に滞在するって言ったら、『同い年だし話し相手になってやってくれ』って頼まれましたから、もっとフリシアラさんと話してみますね」
親御さんにも気に入られたんだな。やはりここは真愛に任せておくか。
「あと、【メトゥス・ゼロ】関連の仕事を依頼されたんですけど」
「えっ!?」
「えっ? ダメでした?」
――結局そうなるのか。
ロール子ことフリシアラ・ティルスの家は、ルトクーア共和国でも有数の資産家らしいし、俺達は高位ランクの冒険者だ。その時点でどうなるかは自明だった。
【メトゥス・ゼロ】が通る町で資産家だもんな。
依頼の件で真愛を責めたりはしない。むしろこれからも冒険者としてやっていけるように、どんな相手のどんな依頼をどのようにこなすべきかを、ちゃんと教えておくべきだろう。彼女の今後への道筋をつける契機にもなる。
ランクDである真愛の立場を理解しているロール子パパは、彼女に「明日午前中にギルドへ話を通しておく」と言ったらしい。
雑談の中での口約束ではなく、正式な依頼として手続きを踏むということだ。
「それじゃ俺達は、明日の昼前にでもギルドへ行ってみるか」
「依頼を請けるんですねっ?」
「それは内容を見てからだな」




