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027 弾む会話は掴めない

 師匠の『話』は、二つ。


 まず一つは、ランクA昇格試験を受けてから国を出ること。


 ランクAは強い権限を得られるので行動選択も自由度が上がる。それこそ今回の一件のような問題行動を起こす冒険者を、手続きを踏んだ弾劾(だんがい)ではなく現場判断で抑止できるのは大きい。

 権限って素晴らしい――そう考えると、エセ紳士を昇格させた人物は人を見る目がなかったのか、昇格当時は真っ当な紳士だったのか……。


 そして、もう一つは――


「東国ルトクーアに面白い魔剣がある」

「魔剣って師匠の剣みたいな? それって呪われたりしない?」

「そういった剣もありますが、主に魔剣は『魔術使用効率に(ひい)でた剣』です」

「うむ。(しか)も『(めい)有り』じゃ」

「日本刀の銘と違って、この世界では『名前のある剣』だっけ?」

「はい。涼平さんは近接戦闘も得意ですから、剣は重要ですね」

「そうだな。師匠の【笏拍子(しゃくびょうし)】ほどじゃなくても、いい剣は欲しいな」

「但し――」


 とんでもなく『じゃじゃ馬』な剣で使い手を選ぶため、たとえ持つことができたとしても、使用を許可された者は一人として存在しない――らしい。


「銘は『ぶるれすけ』という」

「【ブルレスケ】か。なんか凄い名前だな」

「その銘――以前、警護依頼を請けてルトクーアまで行った時に、耳にした記憶があります」


 ラファの顔色が変わった。

 師匠も表情が引き締まり、場の空気が張り詰める。


「元は『人間』であった」

「は? え!?」

「やはり……そうでしたか」

「意味分かんないんだけど?」

「貴様の体内にも魔石がある。そういうことじゃ」

「え? 暴走……とか?」

「私の聞いた話では、自らを魔石に呑ませた――と」


 元々は天人として召喚された人物で、ランクSの高みに達しても『獰神(どうじん)と最古の幻獣を討ち滅ぼすには実力が足りない』と悲嘆し、やがて自分自身を魔石に呑ませ一体化すると、剣に姿を変えて、自身を扱える冒険者を待ち続けているらしい。


「まるで神話みたいな話だな……」

苦心惨憺(くしんさんたん)の末、あらぬ方向へ挺身したのじゃ……あやつは」

「知ってるのか、師匠!?」

「えーっと、涼平さん? 師匠さんの年齢をご存知……では?」

「小娘」

「ひゃいっ! 私も知りませんです!!」


 まあ、なんとなくはね……言わぬが花だよな。

 それよりも――あまりにも重い魔剣【ブルレスケ】の存在に、俺は困惑する。


「そんな凄まじい由来の剣が、俺を選んでくれるかなあ? せめてランクSじゃないと『お前なんかに使われてたまるか、ボケ!』って追い返されそう」

「ノリが軽いですね」

「む。ラファがツッコミに回るとは……俺としたことが」


 師匠は「試せば分かる」で話を終わらせて夕食の準備に向かい、ラファも「手伝います、お義母様!」と後を追った。まだやってるのか……。


 戦う相手のランクが上がれば武器の損耗も大きくなり、魔術も出力が増す。

 買ったばかりの剣も、【天人狩り】との戦いで少し劣化してしまった。

 とにかく一度、会いに行ってみよう。魔剣【ブルレスケ】に。


 キッチンからパチパチと油の跳ねる音が聞こえてくる――

 地球ではそんな暇すらなかった感傷に、今はゆっくり身を(ひた)す。



§



 翌日。

 朝からエデルクアギルドに向かった俺達は、ギルド奥の応接室に案内され、いつもにこやかなアルバトさんと向かい合わせに腰を下ろした。


「ラファイエ君には申し訳ないことをしたね……二人には、あらためて礼を言わせてもらうよ。ありがとう」

「こちらもバタバタしてすみません。その後、調査は進展してますか?」

「当事者の君達だから話せるが、やはり職員に不正を働いていた者がいてね……」

「そうでしょうね。隠蔽(いんぺい)が為されていたことは明白でしたから」

「女性職員なんだが、ギルマスに尻を蹴られてギルドの留置場に入っているよ」

「あんな男の、どこがよかったのでしょうか……」

「女心は難しい……俺も最近痛感したからなあ」

「何かあったのですか?」


 しれっと言う。あれほど大騒ぎしていた当事者が。

 アルバトさんは何かを察したのか、にこやかをキープしたまま話題を変える。


「ランクA相当の【天人狩り】を(たお)せる人物は限られている。状況証拠と証言から討伐証明は問題無いんだが――」

「森の損害ですか? あれは俺のせいなんですけど」

「いや、森林破壊より問題なのが滝原君への報酬なんだよ。負傷者の救助までしてもらったのに、ギルドからは報酬を出せないというのが……」

「私が報酬を受け取れるなら問題ありませんよ? 妻ですから」

「ああ、二人は結婚していたんだね! それはよかった」

「してませんよっ!?」


 いかん。師匠がノリノリで嫁姑ごっこに付き合ったおかげで、ラファの脳内ではすっかり既成事実になってしまっている……自己暗示を解かなければ。


「ラファ、俺の目を見ないで落ち着いて聞いてほしい。俺達は結婚していないし、する予定も無い。師匠の悪ノリについては俺が謝るから、どうか心を現実に向けてもらえないだろうか?」

「やはり師匠さんと婚姻を結んでいたのですね……」

「発想の跳躍力!?」

「とにかくラファイエ君には討伐報酬が支払われるし、多少の色は付けられるはずだから、そこから先は二人で相談してもらえるかな?」


 アルバトさんが、にこやか厄介払いモードに移行してしまった。


 報酬はラファが受け取ればいい。俺はバタバタ走ってただけだし。

 それよりも、負傷者のその後と魔人の遺体が気になっていたので尋ねると、負傷者の治癒後に問題は無く、後は軽いメンタルケア程度らしい。

 後方の一名については状況が複雑なので、ラファと示し合わせて『俺が隔離後、ラファが治療した』と説明しておいた。


 そして魔人の骨は少し焼け残ったようで、ラファは不満顔を見せる。

 あのままにしておけば灰になったとしても、森林火災も拡がりつつあったのだ。そこは痛し痒しだろう。

 焼け残った骨は回収されたようで、ひと安心。


「最後にもう一つ。俺達のランクA昇格試験の日程についてなんですけど」

「ああ、明日だね。楽しみにしているよ!!」

「へ!? 明日?」


 今日、これから申請手続きするために来たんだけど……。


「ひょっとして、ランクSが町に滞在してるんですか?」

「私も詳細は知らないんだが、ギルマスが手配してくれるみたいだよ」

「ぜ、前回とは違う人ですよね?」

「【テクフレ】は忙しいからね。違う人だと思うよ」


 それはよかった。どうも苦手なんだよな……あの人。

 もう一人、話が通じないタイプが隣にも居るけど。


「む。今、よからぬことを考えましたね」

「なんでそこは察するかな!?」

「妻ですから」


 ダメだ。これでは(なめ)らかなネタフリにしかならない。

 会話のピンボールを打ち返す、フリッパーテクニックを鍛えねば。


 その後、ラファが討伐完了手続き、俺は昇格申請手続きを済ませ、エデルクアの町を離れた。ルーは居ないけど、なんだか懐かしいシチュエーションだ。


「それにしても、まだ申請も済ませてない時点で明日って……意味不明だよな」

「早いに越したことはありませんが、不自然ではありますね」

「闇の力を感じるな……」

「陰謀ですか……」

「…………」

「ん?」


 視線の先には、大木から顔を半分だけ覗かせたまいが立っていた。

 外見は特に変わっていないが、俺には分かる――


 ラファが危ない!


 思ったと同時に、こちらに向けて頭から突貫してきた。

 俺はラファの前に出て、両手でがっちりとまいの肩を受け止める。


「まい。いきなり内角低めのフライング頭突きで内野ゴロ狙いか?」

「いえ、左肘を畳んでしぶとくライト前です」

「ラファは左バッターなんだな……って、なんで野球知ってるんだよ!?」

「バットとボールは淑女の――」

「アウト!! クロッケーにしなさい!」

「フラミンゴの生息域でしたら」

「ハリネズミも探さないとな。あと大統領」

「む。それは知りません……ノスタに載っていますか?」

「乗ってるのはエアフォースワンだな」

「フラミンゴではなく白鳥なのですね」

「エアフォーはどこに飛んでいったんだ」


 するとラファは、二本指で麺を持ち上げる仕草をした。

 ベトナム料理もあるんだっけ……この世界。


 俺達が言語変換の限界に挑戦するくだらない漫才に興じているあいだも、まいはじっと『ノスタルジア』愛読者を見つめていた。

 依然表情は獲得していないが、メラメラと燃える何かを感じる。


「力で(まさ)っても、その容姿では涼平さんの寵愛(ちょうあい)を得られませんよ?」

「いや、俺は好きだぞ? 可愛いじゃん」


 メラメラが消えた――――

 ところが今度は漫才の相方が木のところまで駆けて行き、半分顔を出して言う。


「この……泥棒フェネック!」

「ラファ、残念ながらネコ科じゃないんだ。女狐とかそっち系だ」

「くっ……涼平さんは化かされているのです。栗を、家に」

「それは可哀想なやつだから!! 泣くぞ!?」


 俺の視界の隅でゆっくり揺れるふわふわの尻尾。まいはまた「可愛い」に浸っているようだ。


「まい、俺はお礼が言いたかったんだ。助けてくれてありがとう。もし獰神に叱られるようなら、俺が抗議してあげるからな?」

「あの……その場合、殺される可能性は考慮に入っているのでしょうか?」

「まいと不気味魔人の親玉が獰神なんだから、行動の矛盾は獰神のミスと言える。『やれ』とか言う立場なのに、自分のミスを誤魔化したらみっともないだろ」

「確かに。ミスなのか変化を求めたのかは、有耶無耶にしてはいけませんね」

「そうそう。失投と変化球は違うんだよ」

「貴様らの漫才では寄席(よせ)の出番は無い。奇想が笑いに帰結しておらん」


 そう言いながら迎えに来てくれたのは、師匠だ。お笑いの師匠ではない。

 まいは不思議と師匠には敵意を向けない。同族と認識しているのだろうか?


「違う」

「なんでみんな俺の心を読むかな……」

「顔に文字で出ておる」

「え? 俺にそんなハイテク機能が!? だったら、まいとお揃いだな!」

「…………!!」


 まいは尻尾をぶんぶん振ってから飛び去っていった――


「『お揃い』に反応したのか……俺の額に『バカ』って書いてあったら喜ぶかな」

「きっとそれも報酬になるのでしょう……あの女狐……」

「書かずとも常時見えておる」

「そっかー。まいにもバレてたのか」

「食事が冷める。帰るぞ」


 そう言って背を向けた師匠を追って、俺達は島への帰途を急いだ。

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