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022 再会と再戦と、再生

 あの時の記憶は朧気だが、ラファにとって《天人狩り》は仇敵(きゅうてき)のはずだ。

 今は、俺にとっても――――


「やらせるかっ!!」


 跳躍すると左腕でラファを抱き寄せ、重力魔術を乗せた斬撃を放つ。

 上空に幾つも飛来する斬撃の蛾眉(がび)を、巨大な円弧が薙ぎ払う。

 威力は遠く及ばないものの、師匠直伝の技だ。


「っ!?」

「よっ、久しぶり!」

「涼平……さん?」


 再会を喜ぶ暇は無い。【天人狩り】と距離を取らなければ。

 空中でラファを抱かえたまま重力障壁を蹴り、距離を取るために跳躍する。

 眼下にちょこまかと走るエセ紳士が見えたが、今は無視だ。


「どうして、ここに?」


 顔面蒼白のラファイエ・アルノワが、腕の中で震えていた。

 もう、一人きりでは戦わせない――――


「説明は後だ。まず、クズ二匹をどうにかしないと」


 着地の直前に再度重力障壁を蹴って斜め方向へ跳ぶと、背後から直線方向に斬撃が通り過ぎ、一拍置いて後方から順に倒木の音が追ってくる。


「危ねー。やっぱ狙ってたか。射程距離は二百マト以上あるんだな」


 師匠は頼っちゃ駄目らしいので、まずは全力疾走で遠ざかっておく。

 円錐形の障壁を前方に展開。低木や枝などの障害物を吹き飛ばしつつジグザグに高速移動して、一キマほど離れたところで停止する。


「――っと。離れすぎてもダメか」

「ほんの数秒で、こんなに遠くまで……」

「ずっと国中走り回ってたから、移動速度だけは自信あるんだ」


 射程距離が不明なので、離れても油断は禁物だ。

 最大強度の物理防壁を展開してから、抱き上げたままだったラファを下ろす。


「すぐに再戦だ。手短に奴の攻略法を話す」

「オクトから聞いたのですか?」

「そう。まだ自力では無理なんだよなあ」


 そう言って笑うと、彼女の表情が(やわ)らいだ。

 あれから二年弱。十四歳でまだ子供っぽかった彼女は、髪も伸びて少し大人の表情を見せる。その姿に俺のほうが緊張してしまう。


「――――という作戦でいこうと思う。どうかな?」

「確かにそれなら追い詰められると思います。やはり凄いですね……オクトは」

「ああ。凄いんだ、俺の師匠は!」


 ドヤ顔の俺に、悲しいような嬉しいような複雑な表情で、彼女は頷いた。


「そんじゃ、やってみようか!」


 急がなければ。まだ向こうには負傷した冒険者が残されている。

 あの魔人はこの機会に仕留めておきたい。

 奴は、俺を助けてくれた二人の少女を傷付けたのだから――


 森に戻った俺は、本来であればその場に居るはずのない人物に、声を飛ばす。


「ししょーっ! 見てるんだろ? あのエセ紳士の足止めだけ頼めるかなー?」


 すると背後から、可愛らしい怒声が聞こえた。


「叫ぶな! 阿呆が」


 俺は振り返らない。もうそこに師匠が居ないことは分かっている。

 ラファは軽く後ろを振り返り、不安顔で言う。


「怒っている様子でしたが、大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫。ああ言いながらも師匠は俺に甘いんだ」

「そう、なのですか……」


 なんで少し残念そうな声色なんだ? と俺が首を傾げていると、すぐに遠くから大きな打撃音が聞こえてきた。

 ただ、師匠なら一撃で済むはずなのに、連撃の音がしたのが引っ掛かる……まあいいか。


「あと二人負傷者が居る。先に助けよう。彼等のランクは?」

「Cです」


 後方で腕を斬られた一人は気絶していたので、こっそり引き離して師匠に治癒を頼んでおいた。師匠の治癒魔術なら腕も元通りになるだろう。

 相手は遠距離攻撃が得意な魔人だ。隔離作業は簡単ではないが、ラファは防御、俺は残り二人の怪我を確認。止血後に安全な場所まで放り投げて遠ざけ、しつこく追撃に飛来する斬撃もすべて斬り払った。

 乱暴な方法だが、衝撃で消える緩衝障壁で覆っておいたので、あとは自力でどうにかするだろう。彼等も討伐に志願した冒険者なのだ。


 これで無茶できる状況が整った――


「ラファ、戦闘開始だ!」


 俺は横ではなく縦に幾つも斬撃を飛ばし、同時にラファは一瞬で地面から大量の土を(えぐ)り出して硬化させ、直径一マト、全長三マトほどの巨大な砲弾のような槍を飛ばし、三十マトほど飛んだところで槍はトランペットの先端、朝顔のように拡がりながら自壊。広域に小さな破片を飛散させた。


 それでも――また別方向から、あの低い声が聞こえる。


「あれー。あん時のガキじゃないか。まさかボクに勝てるつもりなのかなあ?」

「記憶力自慢か? そっちこそ誰かさんにビビッてるんじゃないのー?」


 師匠に怯えて逃げられたら面倒なので、挑発しておこう。

 まあ、師匠が相手なら、どれだけ離れても無駄だけど。

 遥か彼方の山から飛んでくる、弾丸みたいな速度の団栗(どんぐり)の恐怖――

 『無駄に動けば死ぬ。最小限の動きだけで躱せ』とか言われながら、腕とか足を何度も貫通された。


「マジでムカつくガキだなあ。お前らが戦うのはボクじゃなくて――」

「はいはい、獰神(どうじん)さんですねー? 分かってるから、それも」

「その程度で勝てるかよ、バーカ。ここで死んどけよ」

「お前こそ死ね。こそこそ魔人め」


 相変わらず姿を現さないが、こちらは二人。手の内も知っているのだ。

 ラファは声の発せられた場所とは別の方向に、数千発の石の弾丸を掃射する。

 素材は周囲の土だ。


「どこを狙ってるんだい? 何か勘違いしてるみたいだけど、そんなんじゃボクは倒せないよ?」


 その声がする方向の左右にまた縦の斬撃を飛ばす。相手は焦り始めているのか、強い攻撃を放ってこない。そして――ラファが風上に向けて爆炎魔術を放つ。


「バーカ。お前らが風下なんだよ!」

「うん、そうだな」


 ラファの放った魔術は黒煙を上げてから、急激に周囲の空気を集め始めた。

 黒煙はフェイクだ。放たれた火球の中心に紛れ混ませた指輪サイズの金属が、数十倍のサイズに伸延され、輪の内側は異空間への入り口となる。

 一帯の低木は引き抜かれ、漆黒の闇へ吸い寄せられては落ちていく。


 それは通称【ナンバー・スリー】または【エロイカ】とも呼ばれる高位魔術。

 魔術や剣技に名前を付けないこの世界で、斬新な発想と高難易度であることから名称が与えられた。

 扱えるのは世界でも数人のみ。ラファ以外はすべてランクS――つまり【鳴弦(めいげん)】と同格か、それ以上の難易度とされる魔術なのだ。


 円環の内側へ引き込む力の強弱は制御可能だが、術を展開したまま術者が遠くに離れても吸引力が衰えない。

 この魔術を使うために必要なのは量子重力魔術と召喚魔術で、召喚魔術は異次元空間に干渉する唯一の魔術であり、魔石の使用だけではなく、複雑な術式の構築が必要になる。


 ラファが【ナンバー・スリー】を使えると聞いて驚いたが、そもそも『天人の【加護】も無しに十四歳でランクBに到達したヴィスティード人』という時点で、異例づくしなのだ。

 それは『天才』などと軽々しく表現していいものではない。命を削るほどの努力でしか得られない結果だ――

 きっとこの二年弱のあいだも、無茶な鍛錬を続けていたのだろう。


 相手は魔人だ。あっさり異次元空間に吸い込まれるコント展開は、期待するだけ無駄だが、迂闊にも森の奥から狼狽(うろた)える声が響く。


「なんだよこれ!? またあのババアなのか?」


 これが俺の修行を兼ねた戦闘でなければ、乙女の怒りによって、こそこそ魔人は瞬殺されていただろう――――あれ? それでよかったのでは?


「ククク……相手がこの俺でよかったな。こそこそチキンのこそチキ君」

「略すなぁ!! お前ぇぇっ! 生きたまま皮を剥いでやるからなあぁぁっ!!」

「おっと、こそチキ君。この俺に皮の話だと? もう昔の俺とは違うんだぞ?」

「そうなのですか!?」

「あ、ラファは反応しないで……」

「なんの話だあぁぁぁっ!!」


 狂ったように放たれた斬撃が飛来する。自分から話題を振っておいて卓袱台返しとは……友達ができないタイプだな。

 俺は斬撃で相殺し、ラファは複数の物質の硬化と重力魔術を重ねた重層防壁で、完全に防ぎきった。以前より遥かに強化された防御壁は圧巻だ。

 そして俺達は再び縦の斬撃と石の弾丸を飛ばし、相手の位置を予測する。


「当たらないって言ってるだろ!!」


 攻撃とは別の方向から声がする。

 こちらの攻撃が右なら左から、左なら右から――バカ正直すぎてその意味を失いつつある。

 フェイクを織り交ぜる余裕もないようだ。仕掛けも次々に破壊されている。

 姿を見せない師匠の存在も、焦りと恐怖を増幅させているのだろう。

 なのに何故ミシュクトルに戻ったのか……俺に理由など分かるはずもない。


「恐いなら最初から来るなよ、こそチキ君!!」

「お前えぇぇぇぇぇっ!!」


 相手の位置はまだ不明だが、トリックは分かっている――


 まず声が入った記録媒体。一言だけなら極小サイズの板に凹凸を刻めばいい。それを空気魔術の風船で覆って配置し、光る斬撃で割った時にその光が凹凸を読み込むと同時に、割れた空気が振動して音声が放たれる構造になっている。『読込』と『再生』の一体構造は、緻密な技だが一瞬の出来事だ。


 音声変換の原理は俺には難解だが、予め用意した音声をデジタルデータのように鳴らす仕組みは、元天人である魔人ならではの発想と言える。

 考えてみれば、色んな場所から聞えてくる『声』の中には、(あらかじめ)め用意しておける文言も混じっていたように思う。


 そのアイデアを、別のことに活かせばよかったのに……。


 縦の斬撃は、有線による遠隔発声器でのリアルタイム発声、つまり『糸電話』の糸を切断し、スピーカー側となる空気魔術との接続を断つためのもので、声の左右を狙ったのは、本体がどちらに居るか分からないからだ。


 斬撃を飛ばし、光と空気と糸を操る魔人【天人狩り】は、やはりランクA相当の脅威度とされるのに相応しい技量を持っている。


 まあ、師匠にとっては児戯レベルなんだけど。


 ラファも正解に近い仮説に基づいた攻撃を放っていたが、相手は柔軟に戦術を変化させるのに対し、こちらには生贄を差し出して油断させることしか考えていないクズが二人――それでは不利になるのも当然だろう。


 魔人は【ナンバー・スリー】を避けて動く。こちらも今はラファ一人ではない。

 徐々に【天人狩り】の動ける範囲は狭まりつつある――


「それで勝てると思ったのかなあ?」


 俺の耳元で声がした直後、斬撃が――空を斬った。

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