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162 まだ試験段階

 スアトーエアの町を離れてしばらく進むと、冒険者の姿が見えた。

 ランクBの男性一人と、ランクCの若い男女だ。


 相手は蛇の魔獣《パフアダー》だ。ランクはC相当。

 五マト以上ある巨大ツチノコみたいな蛇で、跳躍力が高い。

 地球では強力な毒を持つ蛇として有名だが、この世界の魔獣はサイズも大きく、人間も丸呑みしてしまう。


 三人の冒険者は距離を取って、なるべく遠距離で仕留めようとしているようだ。

 ランクBの男性の動きが悪いな……毒にやられたのかもしれない。

 天人でなければ早く処置しないと危険だ。


「ノーレ先生。どうしますか?」

「いつ噛まれたのかも分からないから、ここは助けましょう」

「それじゃ、ルー。スイッチで」

「ええ」


 二人で負傷者のところまで移動後、俺は負傷者を抱えて元の場所へ戻った。

 向こうの二人は不可視の速度だ。知らないあいだに一人だけ他人に入れ替わる、怪奇現象が発生したことになる。


 負傷者は気絶した――『死なない程度』というだけで、異常な速度なのだ。

 ラファが診たところ、やはり毒にやられていたようだが、瞬時に解毒と傷の治癒を済ませてくれた。

 残る二人は蛇に集中していて、宇宙人にすり替えられた仲間に気付いていない。


「ロージィ! 早く凍結魔術を!!」

「魔石を使い切っちゃったのよ! 斬撃で(たお)せない?」

「この距離だと威力が足りない!」


 ランクCにしても弱すぎる……怪我した人に任せっきりだったのかな?

 そして、ようやく一人がルーに入れ替わっていることに気付いた。


「だ、誰だあんた? モウリスさんをどこへやったんだ!?」

「いいから集中しなさい! 斬れるなら相手の動きにタイミングを合せて!!」


 そのあいだに俺は、女性冒険者の手に魔石を握らせて消える。


「な、なんなのっ? さっきから怪奇現象が次々と!?」

「フォローしてくれるみたいだ。仕留めてしまおう!!」


 そうそう。早くしたほうがいい。

 何故なら、もっと厄介なのが遠方から接近中なのだ。


 そのランクA相当の幻獣《バーゲスト》は、遠目には犬のように見えるが、前肢の先が鎌のような鉤爪になっており、さらには首に巻き付けた長い鎖を振り回し、立体的な戦闘を得意とする幻獣だ。

 こんなものまで出てくるとは……やはり中央大陸は厳しすぎるな。


 絶対勝てない相手の接近に、戦闘中の冒険者の足が(すく)んでしまうかもしれない。ここはノーレ先生に、タイトスカートの威力を見せてもらおう。


「関係ないでしょっ!?」

「ガバァッと足を開いて機能性のテストをしておいてください。俺は上に居るのを斃してきますね」

「セクハラよっ!!」


 上といっても接近中なだけで、まだ遥か彼方だ。

 ただ、気配から種別が判断できない――UMA? それともUFOか?

 下の戦力は問題無いと判断して、俺は謎の飛翔体の目視を試みる。


 現在、彼我の距離は百五十キマ。南東のテウガス王国の方向から北進中。

 《ドラゴン》にしては遅いし弱い。新種か? 俺が名付けてもいいのかな?


 胸躍る相手に、こちらから接近してみると――――トンボだ。

 あれが『メガネウラ』なら、K-Pg境界ルールが撤廃されたのか?

 地球の中生代や古生代の生物を模した魔獣は、幻獣種以外では皆無だったのに。

 新種にときめいている場合ではない。今より危険な魔獣が増えれば、人間の数も減ることになる。


 速度は遅いが、でかい。両方の(はね)を広げた状態で二十マトはあるだろう。

 トンボなので身体は細いが、それでも人間は喰われてしまうサイズだ

 更に悪いことに、その『人間』が二本の後肢で掴まれていた――

 気絶しているようだが、死んではいない。死んでいれば食うか捨てる。

 どこかへ運んで食うつもりなのか。


 幻獣ならば消えるタイプも居るので、死体が残るのかも調べたい。

 まず近距離から後肢を斬り落として捕獲された人を魔術で地面に下ろし、トンボは逃げずに向かってくるので魔術は使わず上から貫き、そのまま地面に釘付けにしてから、ジゼルさんに問う。


「こんなの見たことありますか?」

『ないわね。もし獰神がルールを変更したなら、今後が厄介かもね』

「中生代の巨大生物も現れるとか?」

『可能性は考慮しておくべきでしょうね』


 虫型魔獣は仮死状態になることもある。動きを止めた程度で『死んだ』とは断定できないので、バラバラにするか、燃やさなければならない。

 今回は新種かどうか確認するために、凍結固定させておく。

 そして、先に救助した人物の状態を確認すると、いくつかの裂傷はあったが治癒すれば問題なさそうだ。


 年齢は十代前半の少年。転生者ならば東洋人の見た目だ。

 武器は持っていないが、落としただけの可能性もある。

 傷の治癒をして水を与えると、目を開けて開口一番の言葉が――


「お前の能力をすべていただく!!」


 うん……そういう系か。瞳が赤く光っているのは【魔眼】の【加護】か。

 もしそういった系統の【加護】を得たいなら、慎重に言葉を選び、絶対に不都合の起こらない内容にしなければならない。

 仮に彼の言ったとおりのことが起これば、身体も脳も耐えられず、即死する。


「残念、いただけません!!」

「なっ……なんでだよ!? 俺は神様に力を貰ったんだぞ!!」

「いつ転生した? 教導担当者は?」

「三日ほど前だ。俺は独りで生きていく」

「その【加護】は誰かに試したのか?」

「お人好しの冒険者が居たからな。すべては奪ってない。ほんの二割ほどだ」

「それはいつの話だ?」

「質問が多いなあ……一時間ほど前だよ」


 この少年は運がいい。一時間無事ということは、『【加護】を使った相手の死』によって魔石の暴走が始まるのだろう。

 無頓着というか、幼稚というか……ペナルティの説明も、聞いてなかったんだろうな……腐女もちょっと死んだりしてたし、説明が面倒だったのかもしれない。


「残念ながら、俺から能力は奪えない。一切効かないから、そういうの」

「それで、俺は見逃してもらえるのか?」

「被害者が居るから無理。その【加護】は神様的には『ウザいから死ね』って意味になるから、使うべきではなかった」

「なんでだよ!? 俺は異世界で戦うと決めて、転生したんだぞ?」

「そもそも、俺が来てなかったらあのまま死んでたし」

「それは……そうだけど……」

「気絶したままここに放置していたら、別の魔獣に殺されてた。ほら――あそこに居るやつとか」


 《ゴブリン》だ。あの程度でも、素手のランクEなら惨たらしく殺される。

 俺は小石を弾き飛ばして《ゴブリン》の眉間を撃ち抜いてから、少年に告げた。


「その【加護】は、絶対に魔石が暴走するペナルティを受ける。使わないのが一番だけど、君はどうしたい?」

「俺は手っ取り早く強くなりたいだけだ。こんな世界で努力して強くなるなんて、割に合わないだろ?」

「別に冒険者なんか、やらなくてもいいんだぞ?」

「いいとこ取りしたいんだよ!! 強くなって活躍してモテて……そうなると思ったから来たのに……これじゃ死んだほうがマシだよ」

「そうだな。他人に迷惑をかけながら生きるぐらいなら、そのほうがいいかも」

「【加護】について、もっとよく考えるべきだった……」

「うん。基本的に特殊な【加護】は、引っ掛けの罠だからな」

「なんで神様がそんなことするんだよ!!」

「考えていることはすべて見抜かれる。それだけの話だよ」


 そんな話をしているあいだも、別の魔獣が襲ってくる。酷いな、中央大陸。

 ここで長話している場合ではないが、彼をこのままにもしておけない。

 なので、確認しておく。


「死にたければご自由に。俺は何もかもは救えない。この世界で生き続けるなら、その【加護】は封印したほうがいい。どうする?」

「そんなの……俺は……どうすればいいんだよ……」

「拾った運をまた捨てるか別の生き方を選ぶか、君が決めるしかない。ここで俺が決めても意味が無い」

「……助けて、ください」

「条件付きになるぞ?」

「いいです……それで。俺はもっと生きたかったんだ……」

「うん、そうだな。じゃあちょっとだけ気絶してもらうぞ?」

「えっ!?」


 ラファの居るところまで運んで、【加護】の完全封印を頼んだ。

 先程の冒険者達も《パフアダー》を斃し終えていたので、『少し話があるので、そのまま待ってほしい』と伝え、俺は『メガネウラ』の回収に向かった。


 そのままの姿で浮かべて飛んで戻ると、みんなも初めて見る魔獣のようだ。

 解凍するとまだ暴れたので、先程の三人の冒険者に止めを刺してもらう。

 本来なら刃が通る相手ではないが、翅を斬り落としたあと広げた傷口を重点的に攻撃させた。


「あの……いいんですか? この魔獣って、ランクAかSになるんじゃ……」

「みなさんの能力低下は、あの少年の【加護】のせいです。これで能力値の増減が釣り合うわけではないとしても、いくらかはプラスにできると思います」

「えっ……そこまで分かってたんですか?」

「彼が『一時間ほど前に【加護】を使った』と言っていたので」

「なるほど……それでおかしな感じだったんだな。たかが《パフアダー》に、これほど苦戦するとは思わなかったから、焦ってしまってね」

「私達に《パフアダー》を斃させたのも、そういう理由だったんですね!」

「えっ!? ええ……そうね」


 ルーはもっと単純な理由だったんだけどな……。

 三人はそのままグノレノク南端の町ラワムーシャに引き返すようなので、俺達もギルドまで同行して、少年の処遇もギルドに(ゆだ)ねる。

 ついでに《バーゲスト》は一撃で斃されたようだ。さすがスカート先生。


「誰がスカート先生よっ!!」

「【氷麗(ひょうれい)獅子姫(ししひめ)】は、個性的な服装をしていらっしゃるんですね!」

「個性的であり、性的でもあるのです」

「違いますっ!!」

「機能性テストの結果はどうでしたか?」

「そ、そうね……テストの結果、問題なく動けると確認できました」


 面倒臭いので、そういうことにしておこう。

 今、俺が優先すべきは先生の脚線美ではないのだ。


「新種の名前は、《メガネウラ》で登録申請しておいてください」

「俺達が斃したわけじゃないから、なんでも構わないさ」

「だからこそ、テキトーな名前にされると困るんですよ」

「眼鏡の裏とは……意味深ですね」

「わ、私は関係ないわよね!?」

「メガ・ネウラで、大昔のトンボの名前なんですよ。試着モニターさん」

「だ、誰が試着モニターさんよっ!!」


 またテンパってるし……そこは否定しちゃダメだろうに。

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