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154 後始末は終わらない

 リアンの罪の重さは、この世界の歴史上でも最大級だ。


 ロディトナのマーシャル家を扇動して国家の簒奪(さんだつ)者に仕立て上げ、消滅されるに至る流れを作為的に導いた主犯であり、それを裏付ける供述のみならず、実行可能な特殊能力を有した人物でもあるリアンは、彼の望みどおり死罪となる。


 更に他の襲撃者達の処分も、ほぼ確定となった。


 洗脳を受けず、自発的に襲撃に参加したランクSと元ランクSは、全員死罪。

 彼等の死刑は即時執行されるわけではない。

 俺はラファに、ある『仕掛け』を依頼した。リリアさんだけは気付いたかもしれないが、レオノーレ先生と祐さんは気付いていないだろう。


 洗脳されてから魔王化した真祖こと、哀れなローラ・クロフトンは、既に死刑が執行されている。

 彼女が『自分は吸血鬼』と強く刷り込まれていた理由は、神託の塔にいる同胞へ強い殺意を向けさせるためで、被害者は全員彼女の知り合いだったのだ。

 『まともな精神状態でやれることではないので狂わせた』と推察できる。


 そして魔剣【ヴァーニー】の出処は――西の大陸、アリムズ民主共和国。

 約二週間ほど前に完成した【ヴァーニー】は試作品で、武器職人は魔王に殺されているが、これもリアンが仕向けたものだ。

 問題は技術の流出だが、リアンが見ていない部分の情報は得られていないので、他の国に流れている可能性もある。特に宗主国のブトルアは怪しい。

 レオノーレさんがギルドへ飛んで、緊急調査の指示を出した。


 【朧夜(ろうや)叫姫(きょうき)】ザラ・シャレド、【深紅(しんこう)薙鎌(ないがま)】ヴィノア・ペイリーの二名と、

【加護】によってリアンに化けていた【千変流流(せんぺんりゅうりゅう)】イリナ・ディニクは、ラファによる治癒を受けてから一定期間を置いたあと、冒険者を続けるかどうか本人に決めてもらう。リアンに関わっていなければ、元は善良な冒険者なのだ。


 ランクA以下も含め治癒を受ける者は、リアンによって改竄(かいざん)された部分の記憶の空白を埋めずに、あえて空白のままで『好きだった人が居たような……』ぐらいの記憶を、ゆっくりと忘れていってもらう。

 別の記憶を挿入すると、知人の記憶との整合性をとらなければならない。

 『あの人』の話をされたときに代わりの誰かを思い出すよりも、『誰だっけ?』となるほうが望ましいのだ。


 ラファは「記憶の錯覚の応用ですから。原理は簡単なものです」と、事も無げに語っていたが、彼女以外の全員が首を捻っていた。


 そして、リアンがレオノーレさんに何をさせるつもりだったのかも調べてある。

 これが不思議なことに、なんの裏もないガチ惚れだった。

 恋愛というものは、得てしてそんなものなのかもしれない……もしくはリアンも星人として、俺と仲良くなれたのかもしれない。


 リアンは強制睡眠状態で、他の襲撃者達と同様の細工を(ほどこ)されて眠っている。

 すっかり朝日が昇りきった頃、神託の塔を調べにメネチトアに飛んでいた祐さんが戻ってきた。


「どうでしたか? あらちの様子は」

「酷いものだったよ……ただ、巫女(ふじょ)様はもう復活してたけどね」

「え!? 腐女は何度でも蘇るんですか?」

「彼女は言わば人造人間だから、僕達と違って人間としての魂が存在しない。記憶のみを引き継いで永遠に生き続けるだけなんだよ」

「そのわりには人間臭い性格だったような気がするけど……」

「滝原君の前ではそうだったのかな? 通常はわりと機械的で無機質な感じの応答しかしてくれないから、なかなか珍しいものを見れたんだね」

「初対面のインパクトが強すぎて、違う姿を想像できない……あと、涼平って呼び捨てで構いませんよ。BL的な意味で」

「そう言われたら絶対呼べないよね!? まあいいや。今後は涼平って呼ぶよ」

「やっぱり……」

「僕はどうすればいいんだよ!?」

「漫才してないで話を進めなさいよ……夕方になっちゃうわよ?」

「はい、お母さん」

「誰がお母さんよっ!!」


 ビーチェが居ないので、グダグダストッパーはルーに一任されている。

 ラファはレオノーレさんとリリアさんと一緒に、失神したランクA以下の冒険者のトリアージをしている。なんだかんだで五十人以上居るので大変な作業だ。


「それで、神託の塔の当面の警護はどうするんですか?」

「ドウレスさんが向かってくれた。イゴエルラはメネチトアの東隣の国だから」

「今回抜けたランクSの穴埋めも大変ですね……とりあえず、魔王はなるべく(たお)すようにしておきます」

「助かるよ。涼平が中央大陸に居たら、魔王も東の大陸に逃げるかもしれないね」

「それはもっと恐ろしい目に遭うので、なるべくやめるように説得しましょう」

「そんなに強い人が居るんだ。一度会ってみたいな」

「いずれ一緒に旅する大切な仲間なので、会えると思いますよ」

「なるほど。やっぱり生きてると楽しみがどんどん増えるね!」

「はい。リアンはアホですよね」

「うん。そこは同意するよ」


 十歳ぐらい離れているのに(えら)ぶらない、気さくな人だな。

 そこに、散発的に襲来する魔獣を狩っていた【フィオーレ・マネッテ】の二人が戻ってきた。


「そういえば、二人はなんのためにルズーレクへ行こうとしてたんだ?」

「武器だ。さすがにもう少し格上の武器を持たないと、厳しくってな」

「ルズーレクには、後日俺達も向かう予定なんだよ」

「ラファの武器ね。もう魔剣クラスじゃないと物足りないでしょ?」

「うん。どれかパクってやろうかと」

「呪われそうで嫌だな……」

「私はラファに呪いをかけられる人間なんて、居ないと思うわよ?」

「それもそうだな」

「お二人を呪ってみましょうか。スナック感覚の、かぁるい呪いです」

「トリアージはもう終わったのか!?」


 【フィオーレ・マネッテ】の二人がラファの『サクサクかぁるい呪い』に怯えているあいだに、俺は俺のやるべきことを始めようか。


 レオノーレ先生とランクS二人に、とある『難題』を持ちかけた――――



§



 ロディトナの漆黒の大地。

 未だに草一つ生えていない。山も無い。


 何故そんな場所に俺が居るのかといえば、俺一人ではないからだ。

 ラファとレオノーレ先生も来ている。

 それだけではない。大事件を起こした主犯格の人物達、総勢八名。

 あと二人のランクSは、まだカルナァトで眠らせている。


 ラファに頼んで全員を目覚めさせてもらう。

 抵抗しても無駄だ。全員が別方向に散ろうとしても無駄だ。

 俺のほうが圧倒的に速いだけでなく、ジゼルさんも居る。


「さてみなさん。ここがどこか分かりますか?」

「ロディトナか……なるほど。ここで俺達を処刑するんだな」

「はい。みなさんには死んでもらいます」

「ゴタゴタ言わずにやりなよ! 鬱陶しいガキ――」


 レジーナさんがラファに気絶さらせれた。まあ、話はあとで聞いもらおう。

 そして唯一リアンだけは【マルシェ・オ・シュープリス】にセットされている。【ブルレスケ】が変形した断頭台だ。


「あれで一人ずつ斬首するつもりか……いい趣味してんじゃねえか」

「あ、あたし達があんなものでビビるとでも思ってるの!! 早く殺し――」


 言い終える前に、いきなり前触れなしのギロチンアタック。

 だが、首は転がらない。【劉刀蛇尾(りゅうとうだび)】シェシェーナ・ロゥクのときと同様、刃の形を変形させている。


「どういう……つもりだ……」

「みなさん弱すぎて殺すに値しないんですよ……なので、このロディトナで勝手に死んでもらいますね」

「はあ!?」

「俺達が脱出できないとでも思ってるのか!!」

「できません。あと、死のうとしても脱出しようとしても、ある現象が発生しますので、みなさんが『あとはお前らがやっとけよバーカ』とか、無責任に逃げようとした罪は、ちゃんと償ってもらいますから」


 そう言って彼等の前に大きな風呂敷を広げた。

 そこにあるのは農具と、雑に魔剣も混ざっている。その程度の扱いだ。


「まさか……」

「ひろーいロディトナを、農用地として開拓してもらいます。まずは水を引っ張り出すところからですかね? 腐葉土と種はどうしようもないので持ってきます」

「で、できるわけがないだろ! こんなガラス化した土地!!」

「おやおや……死ぬつもりなんでしょ? できなかったら死ぬだけなので、それでいいじゃないですか?」

「き、貴様っ! このような屈辱を受け入れるとでも――」

「屈辱って、みなさんはお腹が空いたときに何を食べてたんですか? 食材を育てた農家の人達は罰ゲームをさせられていたんですか?」

「だからって、こんな土地……俺達は逃げ出して同じことをするぞ! 殺せ!!」


「やめろ……無駄だ。滝原君は、とっくに僕達を殺している」


 リアンが断頭台から戻ってきた。ジゼルさんとの対話が終わったようだ。

 どうせこんな口論になると分かっていたので、主犯のリアンには自分達がラファに何をされているのかを説明しておいてもらった。


 ランクS程度では解除不能の技術だ。彼等はロディトナを耕し続けるしかない。

 もし脱出や自殺を試みた場合、『猛烈に農業が好きになる』呪いがかけられているのだ。

 逃げよう、死のうと思えば思うほど、(クワ)を握る手に熱い力が籠もる――

 それは逃れ得ぬ農業愛の力。


 魔術などという生易しいものではない。恐るべき妖術なのだ。

 俺もできるかは分からなかったが、相談すると『素晴らしい!』とノリノリで、妖怪がワンランク上の術を開発してしまった。


「建材や食料は持ってきます。あと、俺しか来ませんからね?」

「き、貴様っ! どうあっても俺達に農業をさせるつもりか!?」

「だから農家の人達に失礼でしょ。死にたいなら農死(のうし)してください」

「変な造語を作るな!!」

「じゃあ耕死(たがやし)?」

(あらが)っても無駄だ……僕達は、本当にとんでもない相手に戦いを挑んでしまった。そして、彼等は僕達を殺さない。いや、違うやり方で殺してしまったんだ……」

「リアンさんは農業が大っ嫌いみたいなので、苦しみ続けてもらいます」

「ああ……地獄だ。僕は農業なんて二度と御免なんだよ……」


 生前の記憶も知っている。彼は農家の生まれで、畑の作付面積を拡大するために森を焼いていたとき、炎が燃え移って死んだのだ。


 彼の罪は(あがな)うことのできる重さではない。死んでも俺は許さない。

 ついでに言えば、魔石を暴走させる前にもっと農業が好きになる。

 妖術師ラファの呪いは簡単に解呪できるものではない。

 だから、彼等はどんどん農業を愛しながら、この不毛の大地を耕し続ける。

 魔獣も現れるだろう。だが、彼等はランクSだ。

 わざと魔獣に殺されようとすれば、もっと農業が好きになる。鍬で《ドラゴン》を斃してしまうかもしれない――農業愛の力で。


「それではみなさん。畑を耕しましょう!!」

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