元コスプレイヤー、探索者になる。
ブクマありがとうございます。
教会で洗礼を受けた後、都市内でギルドと呼ばれている場所へと向かう。
そこは迷宮を探索する人達、通称”探索者”を総括している組合だそうだ。
そのギルドには、各人の資質に応じて”加護”の力が引き上げられる仕組みがあるらしい。
詳しい事は教会のシスターもギルドの職員さんも分かってないみたいだが、この都市の全てが迷宮を攻略する為に神様によって仕組まれてるみたいに感じる。
ちなみに、その各人の資質ってどう言う事かと尋ねたら――力が強い者はファイターに、頑丈な人はナイトに――などといった、所謂”職業”といった形で現れるらしい。
その場合、能力値がオールGといった俺の場合はどうなるのか疑問である。
その旨をシスターに聞いてみたら「えっと……」と、かなり困惑した様子だった。
なんか、可愛い。
シスターとのやり取りを思い出しながら歩いていると、目的地であるギルドへと辿り着いた。
木造の大きな建物で、中へ入ると探索者達の姿がそこそこに見受けられる。
構造的には、役所と酒場が合わさったっぽい感じ。
奥の方に横に長いカウンターがあり、衝立で仕切られたブース毎に制服を着たお姉さん達が立っている。
カウンターの両隣には2階へと上がる為の階段があり、向かって左の階段から隣りにはかなりのスペースが空いている。
壁側には掲示板らしきものが有り、朝の時間は探索者達がそれを見ながら犇めき合ってるだろうという姿が幻視できた。
階段の更に右は飲食スペースになっているのか、丸テーブルやら椅子やらが並んでいる。
夕方前の早い時間だがすでに何人かは出来上がっているのか、男の大きな笑い声等が聞こえてきた。
大体が俺の想像通りのギルドの様子に、ついつい感動を覚えてしまう。
が、都市入りしたときの失敗を思い出しすぐに正気に戻り受付へと進んだ。
「すいません。今日この都市に来たばかりなのですが、探索者としての登録をお願いできますか?」
「はい、かしこまりました。それではお名前と年齢、ステータスプレートの開示をお願いします」
ステータスプレートと言うのは、先程の洗礼で身に着けたステータスが書かれた半透明なアレだ。
これは名前と年齢は必ず表示されるもので、それ以外の項目は任意で非表示に出来るらしい。
つまり全部を非表示にして「わたくし、こう言う者です」とか言って、ステータスプレートを開示する事も気軽に行える。
まぁ……明らかに名乗った方が早いだろって意見もあるだろうけど、偽名を使えないって事で商取引の時は信頼の証みたいに使えそうだと思う。
まるで、名刺交換みたいだな。
話が逸れたが、ギルドで登録する際には全開示を行わ無ければならない。
能力値や固有技能を確認しないと、職業に就かせる事が出来ないからだ。
なので、受付のお姉さんにはステータスプレートをドヤ顔で見せつけたんだが。
「あ、えっと……え?」
俺の能力値を見て戸惑い、固有技能を見て驚いた。
そんな表情の変化が、目に見て取れる。
なんか、可愛い。
「この場合、職業ってどうなります?」
「すいません、ちょっと初めての事で私には判断付きません。確認してまいりますので、少々そのままお待ち下さい」
明らかに動揺しているが、俺の能力値や固有技能については言葉に出さなかった。
個人情報を迂闊に拡めない為だろう、中々にコンプライアンスがしっかりしてる。
少しの待ち時間の後、お姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました。大変申し訳ないのですが、アレクセイさんの場合ですと”ポーター”という事になります」
「ポーター、ってどんな職業ですか?」
ポーターの意味自体は知っている、荷運び人……または、ちょっと下げた言い方で”荷物持ち”だ。
立派な職業だと思うが、迷宮”探索”でのその役割はどう言う立ち位置なのか。
または、ポーターの職業に就いて何が出来るのか?
そんなつもりで聞いたのだが、お姉さんは困ったように。
「ポーターは職業ではなく、役割です」
「……役割?」
ここに来ての新たな単語、役割ときたもんだ。
詳しく聞くと、就いた職業によって探索者としての役割が振り分けられるそうで。
例えば近接格闘が得意なファイターなら前衛、弓の扱いに長けたハンターなら後衛と言った具合に。
しかし、どの職業であろうとも戦闘に貢献出きない人も居るらしく。
そんな人達をまとめてポーター、つまり荷物持ちとしているそうだ。
別にポーターだからと言って、探索者内での地位が低いという訳でも無く。
探索時の物資輸送や戦利品の回収など、ポーターが居るから探索に専念出来るという事は周知の事実。
受付のお姉さんが申し訳なさそうだったのは「ポーターには感謝してるけど、自分がなるのはイヤ」と言う人が、結構な数でいるかららしい。
「役割については理解しました、確かにこの能力値ではポーターにしかなれないのも納得です。それよりも、職業は何になりますか?」
せっかくのファンタジー、剣や魔法を使って戦いたいと言う気持ちもある。
しかし、ファンタジーでありリアルでもあるのだ。
生活の為にはお金を稼がないといけない、その為にポーターとして迷宮に潜るのもまぁアリだ。
それよりも、自分の職業が何になったのか気になる。
職業につかないと、加護の力が十二分に発揮されないのはさっきシスターから聞いた。
迷宮と言う魔物の巣窟に潜るのだから、こんな貧弱な能力値でも少しは上げておくべきだろう。
出来ればVITが上がりやすいらしいナイトあたりの職業につけたら、少しは安心出来るのだけど。
「こちらは言い辛いのですが……アレクセイさんの場合、どの職業にも適正が無い為空欄……つまり無職となります」
「……え?」
前代未聞ですが、と言う言葉とともにお姉さんは顔を伏せてしまう。
えーっと、つまり。
ずっとこの貧弱な能力値のまま変わらず、危険な魔物の巣窟に飛びこみ続けなければならないって事か。
それ、なんて自殺?