元コスプレイヤー、異世界でも。
「ここが迷宮都市か……」
なんて、まるで場面転換した時のアニメキャラみたいな事を口にだす。
どうも、アレクセイです。
別に狙って言った訳でも無いんですが、今生で初めて見る大きな城壁に思わず言葉が出ちゃったんですよね。
こう言うと「じゃあ前世では見た事有るのかよ」って言われそうですが、そりゃあ有りますよ。
ネットで。
とにかく、目の前に見えているのは”迷宮都市”をぐるりと囲う高さのある城壁。
左右を見ても、果てが何処に有るのかさっぱり分からない。
そんな中、唯一あるっぽい大きな門の前で入門審査待ちをしているわけです。
自分の番を今か今かと心待ちにしてるんだけど、別に苦にはなっていない。
なぜなら、目の前に伝説の”アレ”を装備している人がいるからだ。
コスプレ会場とかで見かけた事はあるが、実際に有ったら「いや、それで何処を守る気だよ」ってくらい心許ない鎧。
そう、ビキニアーマーだ!
装備者のお姉さんがグラマラスな体系な事も相まって、少々目のやり場に困ってしまう。
これがコスプレ会場であるならば、相手も”披露”する為に着ている為ガン見する事も可能だが。
この世界では真面目に自分の身を守るための物なのだ、ジロジロ見るのは失礼と言うもの。
極力見ないようにと気をつける、とはいえやはりチラチラと視線を送ってしまう。
そんな俺に気付いたのか、お姉さんがオレの方へと向きなおった。
思わずやや下げ目だった視線を顔へと移すと、お姉さんはニッコリと笑って。
自らの胸を寄せて、谷間を強調するように俺へと見せつけてきた。
急速に顔へと血が集まるのを感じ、随分と暑く感じる。
ふと鼻を拭うと、そこには血が……。
「ふふふ……」
オレの反応に気をよくしたのか、声を出して微笑んだあと前へと進むお姉さん。
「……なるほど、ビキニアーマーとは守るに非ずか」
むしろ”攻め”る為の鎧なのだと、深く心に刻んだ。
▽
お姉さんから”会心の一撃”を頂いたあと、少しして俺の番がやってきた。
「次の者、身分証を。無ければ名前と年齢、出身地を言え」
「はい、身分証はありません。名前はアレクセイ、この前15歳になりました。出身地は……何処だろ?」
鎧を着て槍を持った”ザ・門番”といった出で立ちの兵士から入門審査を受けるのだが、肝心の出身地がどこだか俺には分からない。
いや、僻地にある寒村だというのはわかるのだが……あそこ名前あんの?
「そうか、15になったばかりなら洗礼もまだだろう。教会が無いほど僻地から来たなら、村の名前がわからなくても無理は無い……ほら、これが入門許可証だ。これを持って教会へ行ってこい」
むむむ……って感じで眉根に力を入れていると、兵士さんがサラサラっと紙に何か書いて渡してくれた。
どうやら、許可証らしい。
あ、らしいってのはオレが字を読めないからよく分からないせいです。
あんな寒村で読み書き計算が出来るのは、村長くらいなもんですよ。
子供に教育するって概念自体、あの村にはないんじゃないかな?
まぁ、俺は前世の記憶のおかげで四則計算くらいは問題無いけど。
あ、あと日本語の読み書きもいけるよ。
……全く意味ないけど。
兵士さんから紙を受け取って、門を潜るとそこは待ちに待った”ファンタジー”の世界だった。
街ゆく人達は、革鎧から金属鎧を着て練り歩き。
肩には、大きなバトルアックスを担いでいる人も居る。
魔法使いっぽい三角帽子に、お洒落な模様が入ったローブを着た爺さん。
お、あれは猫耳? エルフっぽい長耳や、ドワーフっぽいひげモジャもいる。
「おおお……」
夢にまで見た”コスプレ”ではない”リアル”ファンタジー、つい感動に打ち震えてしまう。
と、いつまでもここにいたら後続の邪魔になる。
後ろからずっと咳払いも聞こえて来る事だし、ここは横へ移動しよう。
後ろから来た人に舌打ちをされた事は気にせず、兵士の人に言われた通り教会へと向かう。
舌打ちしながら過ぎていく人たちが5人になった所で、その後ろをついていくように歩き始めた。
▽
迷宮都市の教会は、今までに立ち寄った街のものよりも立派な造りになっていた。
中に入るととても神聖な雰囲気に包まれ、心が安らいでいく気がした。
ふと祭壇のある正面を見ると、奥には神像がありその上には綺羅びやかなステンドガラスが目に入る。
「綺麗だな……」
思わず、そう呟いてしまった。
その声を聞いたのかは知らないが、奥からシスターが出てくる。
「あら、この時間に来られる方は珍しいですね」
「はい、さっきこの迷宮都市に着いたばかりでして。アレクセイと言います」
これはご丁寧に……などと、シスターが頭を下げる。
自己紹介のついでに、ここへ来た目的を告げるとシスターはすぐに洗礼の準備に入ってくれた。
「当教会では、通常の洗礼の他に特別な洗礼があります」
そう言って説明してくれたのは、迷宮都市でのみ行える洗礼……神の加護の授与だった。
要は噂で聞いた”戦える力”を、ここで与えて貰えると言う事だ。
その恩恵の一つが、ステータス。
自分の体力や魔力を数値化でき、なおかつ筋力や敏捷性などのパラメータも可視化して貰えるそうだ。
もちろんそれだけじゃなく細々とした利点もあるが、それはここでは省略する。
次に、固有技能の発現。
その人の魂に刻まれた技能を、神様が引き出してくれるらしい。
例えば【自然治癒力上昇】などが発現すれば、ただジッとしてるだけでみるみる体力が回復していくそうだ。
他にも【魔術威力増大】などなら、魔術で与えるダメージが増えたり。
まるでゲームだな、なんて前世持ちの俺は思うわけで。
でもそれこそが俺の待ち望んでいた事も、また揺るがしようのない事実な訳で。
「それでは目を瞑り、神へと祈りを捧げて下さい」
シスターの前に跪き両手を胸の前で握り、額をそれにつけるようにして祈る。
「……はい、これで洗礼は完了しました。お疲れ様です」
「ありがとうございます」
しばらく謎言語をつぶやいてたシスターから、終了の合図で立ち上がる。
「もしよろしければ、無事洗礼が終わった事を確認されてはどうですか? ステータス、と言えばご自身のステータスは確認出来ますので」
そう言ったシスターの目の前には、半透明な板のようなものが出てる。
……なるほど、23歳か。
ちらりと個人情報が見えてしまった事に罪悪感を覚え、慌てて視線を反らし「ステータス」とつぶやく。
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アレクセイ 15歳
Lv:0
HP:100
MP:100
STR:G
VIT:G
DEX:G
AGI:G
INT:G
MEN:G
【固有技能】
コスプレLv:1
【技能】
なし
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「……ん?」
なんか随分、数値が低くね?
って言うツッコミも入れたいけど、それよりも気になるのが。
「固有技能がコスプレ、ってどう言う事」
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コスプレLv:1
衣装を着る事で、そのものに扮する事が出来る。
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「……いや、知ってますけど」
どうやら神様に、この世界でもコスプレしてもいいと許可を頂けたみたいだ。