元コスプレイヤー、転生しました。
本作で言うコスプレはコスチューム・プレイの略では無く、造語として一般に浸透しているほうのコスプレです。
またコスプレを題名にしていますがこれは主人公の特異性とする為のもので、作者のコスプレへの造詣は深くありません事をお詫びします。
いきなりだが、俺には前世の記憶がある。
そんな事を口走れば、周囲から白い目で見られる事は確定的明らかだ。
なので誰にも言えず、ついにはこの世界の成人である15歳を迎えてしまった。
あ、どうも。
俺の名前はアレクセイ、騎士っぽい立派な名前とは裏腹に寒村の農家の三男坊です。
初めて自覚したのは5歳の時、薄っすらとした記憶が蘇った時「あ。俺、転生してるわ」って思わず呟いちゃったね。
とは言え、生前の名前とか詳しい記憶は思い出せない。
せいぜい日本生まれと言う事と、趣味がコスプレだったと言う事くらい。
コスプレって言っても、ハロウィンの時にウェーイって感じのじゃ無く。
とあるイベント会場とかで、ゲームやアニメのキャラに扮するガチな方。
まあ、コスプレするのにガチも何も無いが。
俺の中ではそこには明確な線引きがありまして、はい。
とにかく……いくら記憶が薄っすらとしか残ってないとは言え、生前との文化の差には余りにも大きな隔絶がありまして。
毎日ボロを着て、農作業を送る日々を「まぁ、農民コスと思えば何とか……」とか思いながら過ごしていた訳ですよ。
うん、そんな思いこみで何とかなるのも数年が限界でして。
ってか、数年もよくもったなオレ。
日々の重労働や、粗末な住環境に目の光を曇らせてると――ある日、父がこういうのです。
「成人おめでとう、ではさよならだ」
と。
まぁ、以前から話は聞いていたのでそこまでショックは受けなかったけど。
要するに実家の経済状況的に……と言うか、村の経済状況的に息子を3人も養う余裕等無いって事。
長男は後を継ぎ、次男はその奴隷へと。
女の子ならば村の若者に嫁入り出来るが、三男以降の男子は村を出て自立するのが仕来りになっている。
幾ばくかの食料とほんの僅かなお金を選別に貰い、オレは今日村を出る事になった。
いつもより小奇麗で丈夫な服を着て、野宿にも耐えられそうな分厚目のマントを羽織る。
「まぁ、旅人コスと思えばなんとか……」
なるかなぁ?
▽
村を出て3日目、隣り村へと着いた。
「隣り村まで徒歩3日とは、すげぇ僻地」
俺の出身地、田舎過ぎで笑えない。
食料にはまだ余裕があるし、ここでは特に何も予定は無い。
そもそも”売買”と言う観念は、俺の村にもこの村にも希薄だ。
村長が月一で来る行商人と代表してやってるくらいで、村人同士は物々交換が基本。
だからさっきから「おい、アイツ隣り村から来たんだって。田舎者じゃん」って指差してるお前。
全然大差無いからな、どっこいどっこいだから。
そりゃあこの村の方が少し大きいし、住民も多いけど……え、ウソ村長宅に厩あんの? ちょー都会じゃん!!
▽
更に3日後、今度は街に着いた。
流石にここまでくれば、物々交換での取引自体が行われない。
そろそろやばくなってきた食料の補充をする、もちろんお金でだ。
ふふん、3日前に笑っていた奴よ。
俺はお前とは違って、文明人へとランクアップしたのだ。
「え? 銅貨50枚? それって鉄貨だといくらですか?」
銅貨48枚と鉄貨200枚で支払ったら、店員のお姉さんが引き攣った笑顔で応じてくれたよ。
▽
食料を補充した街から出て7日、いくつかの街に寄ったがそこで面白い話を聞いた。
この国には”迷宮都市”と呼ばれている場所があるそうで、そこには名前の通り迷宮があるそうだ。
迷宮の中には魔物と呼ばれる怪物が棲息し、それを討伐する為の力も得られるそうだ。
その性質上この国一の軍事力と生産力を誇っており、王都以上に人が集まる大都市だそうだ。
村から出てあてもなく旅を続けてきた俺だが、取り敢えずの目標をそこに定めてみた。
「今まで生きてきてファンタジー要素ゼロだったけど、ここにきてようやく……って感じだな」
中世ヨーロッパっぽい文明にも関わらず、ゲームのような剣と魔法のファンタジーって感じは今まで無かった。
いや、鎧を着て剣を佩いている人はいたが”傭兵”って感じで余りファンタジー感は無かったんです。
まだ少しお金は残っているけど、そろそろどこかで仕事に就いて稼ぐ事も考えなきゃいけない。
その点でも、一番栄えてるらしい大都市は適してると言える。
戦う為の力も手に入るそうなので、迷宮探索を生業とするのも楽しそうだ。
何より。
「……ゲームみたいな格好いいローブとか売ってないかな」
迷宮探索に必要な装備等も、元コスプレイヤーにとっては衣装の一つにしか思えず。
そんな衣装を身に纏った人が大勢居ると言う事実が、俺の胸をこれ以上なく踊らせた。