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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第二章 露呈
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6.


「こんにちは、ブライアンです。

 本日はエレナ・ジャックをお招きしています」


 もうお馴染みになりつつある、ブライアンが多くの歴史をCG映像で再生される中に現れた。

 そこのあらゆる箇所には、人外たちがどのように人と肩を並べてきたのかを紹介されてもいた。

 人に言い聞かしているように思える。洗脳のようなたぐい。

 それでも、ロレインはその配信をチェックすることを放棄できなかった。

 ケイを悪しざまに貶したのだから、見張る。

 なによりもケイのすべてを嗅ぎまわっている真意を知りたかった。



「ブライアンならわかってくれると思うんだけどね。共演した子たちやはじめてお会いしたニュー・カズンの人たちも何もかわらないの、わたしたちと。

 まるで小学校のころによく遊んだともだちのような気分で過ごせたのよ」


 エレナ・ジャックは嬉しそうに話していた。

 秋に公開される映画、その後日談や過去の話を配信型ドラマで公開するということを、笑いや関わったすべての人々とのエピソードを話している。

 ロレインにしてみれば、ここ最近使われだした人外への名称“ニュー・カズン”に顔を歪めてしまう。


「いとこだなんて。言いようや使い方を変えれば済む問題?」


 独り言がこぼれた。

 いとこだというのは、ケイのような存在がそうだろう。

 何かできないかと、四苦八苦しては唇と頬の裏側を噛みしめ、血だらけにしても見せない者が名乗れる。


「そうでもしなきゃ、怖さを和らげないのよ。この女もブライアンも、好機と見てついているだけのヒトでしょ」


 気だるげにロレインの言葉を拾った声に同意しそうになり、声の主へ顔を向ける。苛立ちが静かに顔を覗かしている。


「ステファニー。あたしの空間に居るなら示して」


「ロレインまでその名前を使うからよ。何度言えばわかるの?」


「名前なんて記号のひとつ。名はその者を示すってことがようくわかる。だから、呼ぶのよ? ステファニーって呼んでも素直に返事していた頃が懐かしい。それ以外に呼ばれたくないって顔をしていた頃がね」


 ステファニーは見る見る内に不機嫌な顔になり、ロレインを睨みつけて大きな音を立てて座る。ふたりともお互いが存在しないという空気の中、ブライアンの配信を見続けた。



「ところで、ブライアン? 最近、つまらない騒ぎを起こした人物の本が出たわよね? その売り上げに一役買ったようなものみたいだけど」


 これはケイの本のことだ、と思った。ご丁寧にその本のカットが小さく載る。


「まるで正当化して、煽るような文章と書いてある半生──いや、事件までの人生の追い方だったので。そうですね……警告、という意味を込めて全面的に危惧したんです。きちんとした立場で、物の見方で、読むべきではないと。

それが売り上げに一役買ってしまうというのもなかなか堪えます」


「ブライアン……大丈夫よ。買った人たちは、あなたがどれだけ骨を折っているのかをきちんと知りたいから買ったと思うの。そうしないとこの本の筆者のように、デタラメに任せてしまうのだって」


 知らずの内にペンをふたつにしていた。

 ケイがなぜ、書きたいのかだとか、どうしてスポットライトを当てた人物のことをそうやって書いたのか。知りようがなくとも、想像もしないふたりがただの貧相な存在(ブルシット)に思えた。


「姉さんやロレインが大切にしているケイ・ササキが標的になって、見せしめになる流れじゃん」


 にやにやと笑いながら言うステファニーを睨みつけて、何も言わない選択をした。


「魔女さまを怒らせてしまいまして?」


「手伝う気あるの?」


 アトラクションに乗る前の冗談を言っているようなステファニーに牽制をかける。

 ステファニーといえば自信満々の顔つきだった。


「もちろん。姉さんがこれ以上おかしくならないように、そのためにケイ・ササキが必要ならね」


「そうね。どうして必要なのかは言葉にはできないけれど」


「説明しにくい、じゃなくて? 魔女さまでも?」


 珍しいことがあるという顔をしているステファニーへの返事をする前に、ブライアンの配信に視線をやる。“アビリティーズ”もバックアップしているのか、売り出し中のさまざまなアーティストや俳優が紹介される流れになっていた。

 それを目の端にしながらも、誰にも言葉にして言わない計画を組み立てていく。


「そうよ。あなたが姉に反発しても従うように、理由を言語化してしまうような愚かなことは魔女たちはしないものよ」


「よく飲み込めないんだけど……言語化は、学究の徒には必須じゃない」


 その答えが得られないということをステファニーは知っていた。ロレインの頭の中では何かが高速回転しているのだということがわかっていたから。自らも愛すべきマシンで何かを打ち込み、これからのことに備えていくことに専念した。




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