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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第二章 露呈
54/57

5.


 出版され、書評という宣伝もされて一か月以上の月日がただ流れた。


 ほぼ情報を遮断して生活をしている。

 今日が何曜日で、日本時間はどうだとかは気にしなくなった。

 引き払うこともしないままモーテルで寝起きして、読書だけに神経を注いでいると身体に毒だからとロレインに連れ出された。ロレインだって忙しいのに。

 もちろん、ティナは早々に帰って行った。

 彼女には彼女のスケジュールがあるからだ。評価された本は、幾重にもなり、その中のひとつとしていくのだろう。


 割り切れたらいいのに。

 書評という斧を振るう者を無視できたらいいのに。

 湧いては漂う、それらが目の前の南部料理を色褪せさせていく。


「今日は忙しいのにありがとう。カウンセリングだとかが立て込んでいるんでしょう?」


「いいのよ。活き活きとしたケイを見たいんだから、リフレッシュになりそうなものは積極的に連れ出したいから」


 ロレインは人外や人とのトラブルで傷ついた人たちを診るようになった。

 医療機関のみならず、行政や法執行機関などとも連携を取っているらしい。今までは裏稼業でしかなかったことがきちんと公にされているから、論文も出すらしい。


 その話がいつしかダイアナの話に変わっていく。めっきりと会うことも、本で使う資料の受け渡しにあったきりの連絡もない現在。


「まあ、元気ではやっているんだよね?」


 私よりもロレインは連絡がつきやすいだろうから聞いた。どこか張り付いた表情をしているロレインは、短く答えただけだった。


「ええ、元気みたいよ」


 好みではない菓子パンを口にしたような、後味の悪さが漂う。

 素知らぬふりをしてロレインは、“アビリティーズ”以外の団体・集団の話にすり替えていく。コメディカルな団体チックな人たちが出てきて、今は皆から注目されているらしい。

 ひとしきり笑うと、デザートが運ばれてきた。

 たっぷり甘味を主張しているのに、さらにバニラシェイクを注文されていたようで、噴笑そのものになる。


「ストレートに言うわ。そう切り出された方がケイもいいだろうし」


 そう言いつつも間をあける。頷いて先を促さす。


「あなたのすべて──出生から家族構成や親族、先祖代々に至るまで嗅ぎまわっている誰かの痕跡があるの」


 デザートプレートに向けられていた視線が、ついと向き合う。

 探るような瞳が、私が混乱していないかと気遣っていた。暗記していたであろうセリフにアドリブを少しだけ加えたままの状態は、ロレインが一番混乱している証拠だった。


「シャインは昔から日本とは交流をしてきた。深いところになるとどうしてもいろいろとややこしい手続きが必要なのよ。だから、誰かを探るのは難しくて」



 正体不明。

 できる限り探ったけれど、国が絡むとどうしても、長い深いつながりには融通が利かないこともある。特にそのつながりに至った経緯が薄れていくと、出世欲だとかに絡まった者たちの政治が入り込んでしまう。

 物語の中では簡単に、名家や財閥であればあるほど政治のしがらみを越えていくだろう。でもできないのが、現実なのだ。



「あれだよね、なんていうか……」


 私がようやく喋ったことで、ロレインはひたすらに見つめる。


「祭りが誰かの花火で台無しになるかもしれないってことだよね」


 ロレインは言葉を発さずに、瞳がそうだと答えていた。

 溜息がもれてしまう。あの日に感じた何かは正しかったかもしれない。


「ダイアナはそれを狙っているのかもしれないね」


「そんなのありえないわ!」


 ビリビリとしたものが店内を駆け巡っていった。

 それだけロレインは憤慨している。私に向けなかったのは、認めてくれているからだろうか。


 店内にどれだけ人外がいるのかが、それによってわかる。

 またこんな時に人はどんな顔をしているのかがわかった。感受性の強い子どもは当てられてしまったようだった。


 にらみ合うように座ったまま、私はロレインではなく、ダイアナのことを考えた。

 なぜ、私にタロウの本を出させたのか。

 その疑問が答えを求めている。

 もしかしたら……と感じていた、あぶり出しによる罠作戦の仕掛け装置だという思いが心の中で大きな顔をするようになった。




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