3.5
メモリー州
サイドファブル
自宅
結局、目的を持ったように歩いているとジョンが拾ってくれて部屋に帰り着くことがあできた。
人が好きではないジョン。人というか私が好きではないのだと思う。フランスからアメリカに来るときも敵意のようなものをむき出しにしていた。
ダイアナとジョンは同じ一族だという。
クイーン一族は、狼人間とみなしごだった人間との子どもを祖としている。
人外の中でも獣人と称する種族が一人の狼人間を逃がし続け、戦争によって孤児になった人間を引き合わせた。
未来を守るために──いつか来る狼煙へ向かうために。
そうしてアメリカで着実に名家とも認識されるようになって、吸血鬼や魔女・魔術師などの他種族と交流を持つようになっていく。
好ましい者も好ましくない者でもネットワークを密にしておかないと、人ではないという理由で悲劇が再び幕を開けるから。
おなじ苦しみを味わったものの、生き残り方はさまざまだったようだ。
ダイアナたちクイーン一族は先に述べたような形だった。
シャイン一族──ダイアナの親友なのか悪友のようなロレインの一族は、吸血鬼と魔女が手を組んだ。そしてメモリー州でも名前がちびっこから犬や猫でも知っているくらいの名家になっている。
医者、学者、法律家を多く輩出しているのも理由だけれど、変わり者と言えばシャイン家の話が真っ先に上がるからだろう。
ロレインのエピソードを話したいけれど、フランスでもお世話になった手前、こそっと話せる時があればしようかな、と思う。
ひとつだけ今、言いたい。
シャイン一族の祖になったふたりは、生き残るというだけだったけれど、口実に愛を交わした異種族も居るんじゃないかと考えるのか私が小説家だからだろうか。
題材未満をあれこれと考えていると、先日メールで送った企画書の返事があるレーベル担当編集者から電話であった。
「はい、もしもし」
「窓口せんせ! お世話になっております! 笹木です! 今までの中でイイ感じじゃないですか! 会議でぜったい通すんで、書いてくださいよ! むしろ読みたいんで!」
耳元から離しておかないと声量に驚かされる。それをいつも忘れてしまい、今日も何を喜べばよいのかわからなくなる。
「ありがとうございます。たとえ笹木さんだけでも読みたいって言ってくれるだけで励まされています。何か気になる点ってありますか?」
「いやいやぁ、ニッチな作家と言えば窓口せんせっていうのはありますから! 気になるというか、着地点が弱いというか……ロマンスをぶち込んできた錯覚をさせときながら宙ぶらりんになるかもなんで、そこだけいろいろと──」
笹木さん──字は違うけれど同じ苗字だという話で盛り上がって仲だったりもする──の話をメモして時計に目をやると日本時間では深夜とも言えそうな時間だった。愛妻家の笹木さんを長々と引き留める権限などない。電話を切ろうと挨拶に移ろうとした。
「ところで、窓口せんせ? アメリカは州ごとの法律になったようですけど、最近多発してるじゃないですか? 大丈夫なんですか? ヨーロッパも主義・主張で入り乱れちゃってるし。日本は受容と保護、共存を選んだんで帰国された方が……」
「お気遣い、ありがとうございます。今はまだ資料集めが完了していないので難しいで」
そう言って電話を切った。心配そうな笹木さんには悪いけれど、私と関わった他者が心配だから。