19.
フロリダ州 州境にある寂れた町
ここは静かだけれど、こころが落ち着かない。
どこもかしこももぬけの殻なのに、ついさっきまで家族や親子、老夫婦や近所の騒がしいやんちゃたちが生活していた雰囲気がある。
ある家を調べ終わったときに、ジョンは思った。停止の姿勢から動きを再開させ、神経も一層引き締めた。
部下が一組ずつ顔を出して、ジェスチャーを示す。
ここから撤退して、次の場所に向かうように指示を出す。
“アビリティーズ”かそれとも違う集団かが集落を形成させているという情報が上がっていた。
アメリカ各地で、見捨てられた場所は数えきれないほどある。
土地が広大すぎて、拡大鏡を使うしか見えないだけでひとつの州地図を広げたら間違い探しをするくらいに簡単に見つかるだろう。
そこを隈なく調査し、実際に足を運んで調べて、不穏な気配や空気がないかを肌で確かめる。
地味な仕事だ。
だが、誰かがそれをしないと“アビリティーズ”のようにどこかでボタンを掛け違えたものたちが増えていく。
実際、変な宗教まがいの集団やさながらヒッピーたちが寝どころにしていたこともあった。
それだけならまだしも、国家としても見て見ぬふりができないような目的を掲げていたこともあった。
ほんとうに地味な仕事だ。
でも、ジョンはこれが嫌だとは思わなかった。
幼い日に交わした、ダイアナとの約束を大切にしているからでもあった。
なによりも、子どもが泣いている姿が一番嫌いでもあった。
数え上げればキリがないほどの理由があった。
「ジョナサン・ウィンドウだな?」
背後から鈍い音とサイレンサーによる気の抜けた音がドラムのように響き渡った。
神経を研ぎ澄ませていても、こうして謀れることはあるのだと悔しくなった。
祖先がヒトを諦めた理由と同じではないか、とジョンは歯を食いしばって意識を保とうと努力した。
「なに、そんなに力を強張らせていたら安らかな眠りにつけないぞ」
自分が言ったことが面白かったのか大笑いして、一発、二発とジョンの両目に打ち込んでいく者の顔はぼやけていた。
ジョンの目が機能を放棄したからではなく、その者自身が意識的にそうやっているのだと貫通していく瞬間に悟った。
まるで、これは祖先が裏切られたことを自分たちがなぞるようにしているかのようで、哀しくなった。
ダイアナに伝えないと──ジョンが思うと同時にすべては黒くなった。




