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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
4/57

3.


 メモリー州

 ミリアド・シティ

 オーダー通り


 メモリー州の中で最大の交通慮がある。それでも通勤時や休日が突き出ており、平均するとそうなるだけだったりもする。

 人通りで言えば、通勤ラッシュではない限り、のんびりと歩く気もならない通り。


 州内を縦横無尽に走れるこの通りは治安の悪い地区に近い。

 南に下っていくとどん詰まりの行き止まり、と表現するしかないような打ち捨てられた団地跡地。その裏手には森林が広がり、州境地域がある。

 東に足を進ませると湖がある。そこはナッシングとしか呼ばれない。ほんとうの名前があるにはあるんだろうけれど、州住民は誰一人として知らないんじゃないだろうか。


 団地跡地も湖も死体遭遇率が高い。

 ただ、オーダー通りに向かうまでにある横道のナンバー地区は若い人が最近住むようになってきているらしい。モールにも近いし、有機野菜関連の店や日曜市的な催しが多く開かれるようになってきたからだそうだ。

 私も中期滞在型賃貸の契約時にすすめられた。管理会社が州外らしいことと建物のオーナーが人外否定主義者に近い人だとSNSで知って辞めた。


 とにかく普段は、このミリアド・シティには私は近づかない。誰かと一緒でない限り。

 じゃあなぜ、ダイアナに呼ばれてその車中で緊張感あふれさせるその横に同乗しているか。

 複数の事故が同時に起こった被害者がダイアナの会社が委託を受けたセキュリティシステムツールを所持していたからだった。

 その調査だったらダイアナ自らが来なくても良かったのだけれど、隣の州の名家の人間が軽傷を負った。また売り出し中の新人女優の家族だと名乗っている人物も重傷だとしてやって来た。



「今月で何件目? 株価がジェットコースター状態だわ」


 疑問文は私に投げられたわけでも、どこかに電話を繋いでいたわけでもなく、悩みに絡み取られないようにするために口にしたようだった。

 ダイアナは自制心がとても上手い。誰かが見ているかもしれない場所では感情を操る術を心得ている。先ほどまで弁護士だとか警察の上部らしき人物に相対していたときも相応しい態度を見せていた。


 タブレットとノートPCを器用に操作し、電話を掛けて一言、二言会話した。私が乗っていることを忘れているんではないかと思いそうになった時、ノートPCを向けられた。これが連れらて来た意味だ。


 監視カメラは加工されていて、私が視認できるギリギリのスピードで再生されていた。

 たぶん、この辺一体のダイアナたちの嗅覚が反応した場所なのかもしれない。



「操り人形みたい」


 背景情報はぼかされている。映る人々だけに絞っている。だから私にはその場所がどこかはわからない。

 その中で気になる人物が居た。

 ごくごく自然に動いているけれど、個人個人が持つ行動のクセも人外が持っている本能的行動とも言うものもない。

 消去、削除されたあと、再度初期化されてキレイに書き込まれたような違和感と表現するしかないものがあった。

 うまく言葉にできない。

 それを英語で説明するには難しい。

 だから、操り人形みたいだと言った。ダイアナはなんとなくでも理解してくれたようだ。頷いて、どこかにその箇所を送っていた。


「やつらの仕業か、それとも──人の中でも排除したがっている人が見せかけたのか。どちらかね」


 それだけ言うとどこかに電話を掛けて英語とわからない言語で会話をしだした。私に聞かれたくない内容だと察する。


 ダイアナの周囲には人外ハーフと呼べばいいのか、そういう者たちが多い。協力して生き残ってきた歴史と繋がり、絆がある。

 だからこそ、人に紛れて生活を送り、流れる血の定めを隠すことに長けている。

 でも、「アビリティーズ」が掲げる想いの先は、人外の純血種だけの世界。隠れる生活、紛れる生活、順応するという選択肢しかない生活などのすべてを否定している。



「さてと。ここから離れるわよ。関係者であっても部外者は要らぬ火の粉が降って来ても、誰も助けてはくれないのだし」


 カメラのフラッシュまみれになった時のことを苦々しく思い出したようで、車を少しだけ乱暴に発進させる。

 動き出した景色を見て、今月からずっと頭の隅にあった問いを口にしてみる。


「もし、また昔のように人と人外がともに肩を並べて暮らせる世界が可能になったらさ。その、ダイアナはどうしたい?」


 のんびりした街並みになっていたのに、車内は私の言葉のせいで険悪になった。ダイアナは胡散臭い人間を見る時の顔になっていた。


「アビリティーズは人外至上主義よ。わかってる? “人外だけ”の世界を望んでいるの。築き上げたいの。わたしたちみたいなハーフは遣い走りにされるか見せしめよ」


 引用符のジェスチャーを付けて説明し、口元には嘲笑うかのようなものを作っていた。それは彼女なりの優しさだと思う。この三か月間で学んだダイアナの優しさ。

「アビリティーズ」が世界を掌握したら、私も抹殺されるのだから。そのことを言わなかったのだ。仮初の優しさでも。



「言いたいことはわかっているけど。でも、理想や未来の一つを語ってもいいじゃないのかな。私ら人がどんな行いをしたかは消えないからこそ、学んで──」


「会社で会議があるの。ここからはジョンに迎えに来るように頼んだから」


 最後まで口にすることなく、車外に放り出された。普段よりも白くなった顔とブルーの瞳がより濃くなっていることから怒らせた。


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