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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
38/57

18.


 さだめ──という単語の綴りもほんとうの意味も知らない。


 トーアの人生がはじまった時から、闘いは生活の一部だった。知識は生きるために必要なことを身につけるものでしかなかった。


 それでも、魂のどこかで知っていると訴えている。叫んでいる。さだめが喉を潰すほどの声量で。


 対する彼らも彼女らもただ、生きるために、生きたいがために、そして守りたい者が居て次に繋いでいきたいと望むから行動を起こしたのだ。

 トーアとてそれは同じだった。

 トーアの一族が最後の生き残りになった。さまざまな種族に助けられ、支えられ、ここまでやって来られたのだ。


 失くしたものは両肩に乗りきらないほどだった。

 旅のはじめに助けてくれた、燃えるような美しい赤い髪のネリーも死んでしまった。

 彼女がどんな立場の人だったかなど、もうどうでも良いくらいにこころを預けていた。ほんとうは騙し、唆そうとしていたと今際の際で語った言葉も。


 だが、その死からすぐは衝撃から他者の笑顔すら怖かった。それが自分に向けていなくても、ネリーがよく見せていた顔が笑みだったから。遠回りをしてようやくここまでたどり着くことができた。


 知らない内に増えた、糸がここまで導いてきた。

 どうやら遅すぎた気配が立ち込めている。

 それでも、


─ ─ ─ 



 次の言葉を打ち込めとせっつく点滅を見つめながら、この展開から続く結末で良いのかと悩む。


 私が書く小説はバッドエンドばかりだと誰かが言っていた。

 ドキドキ、ハラハラさせて、それでも手にするものが必ずあるのが物語なのだと、その人は言っていた。


 その批評を読んで沈み込んでしまった。


 それからしばらくして、一人の読者がこれでもかってくらいの感想をブログに上げてくれていた。

 肯定の言葉はストレートにはなかったけれど、自分が紡ぐ物語で良いのだと胸を張ることができた。


 リジー・バンクスがロレインの家族に支えられて突き進むことができたと言っていることに頷きはできる。

 だって、私も経験したことだから。

 さんざん否定され続けて、筆を折った方が世界のためではなかろうか、となっていたところに件の読者に肯定されたのだから。

 

 誰かに肯定されてやってきたことが、あらゆる世界のすべて──歴史、ルーツ、ことわりなどを含むすべてを否定という刃に変えてもいいのかというと違う。

 私がバッドエンド作家だとしても。

 裏切りの顔を見せずに、背中から刺すことを認めるわけにはいかない。

 まるで“アビリティーズ”こそがほんとうの世界に戻すことができるという風潮を醸し出しつつあるこれが良いわけがない。

 それこそ歴史は繰り返す。

 だからって、私の本でそれが指摘できるのだろうか?



『窓口先生が今作を紡ぐ経緯は僕自身、一番知っていると胸を張って言えます。どうか自信を持って執筆なさってください。微々たるものだと仰るかもしれませんが、手にした日本の読者が揺り動かされた心を発信するかもしれない。しないとしても、いつかどこかで「あの作品が語ったのはこのことだったのか」と実感するかもしれません。物語のちからよりも、窓口先生が紡ぎたいとなった物語に協力したいんです』


 編集者の笹木さんがそう言って頷いてくれている。

 堂々巡りは止そう。

 とにかくピリオドまで走ろう。

 考えるのはそれからでいい。




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