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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
36/57

17.5


 テレビではリジー・バンクスがインタビューを受けている。


 着飾ることなく、白のシャツに黒のパンツスタイルで曝け出しているような印象を観ている者に与えるように計算されて座っている。

 彼女は言葉に温度を持たせて、赤裸々に語る。



「──ある意味、アカデミーはカルト集団だと言っても良いわ。

 より良い種族を継いでいくために、血から相性、環境からその他周囲のすべてを精査して出産させているの。

 その環境はなにも安全な場所だけに限らない。劣悪だと言い切れるような場所も含まれる。どんな場所でも、国でも対象になる。たしかにより良い繁栄の道でもあるわ。

 でも──それって理性ある者としてはおかしいことでもあると思わないかしら?」



 対するインタビュアーの男性は、同意するかのような頷きを見せた。

 耳に馴染みのない言葉を発している。たぶん、どこかの学者が書いた論文の内容なのだろう。



「リジー……」


 ロレインは先ほどよりも少しだけ大きなささやきを漏らした。

 しっかりと立っているようにも見えるし、テレビが点いていなければ立っていられないようでもあった。

 表情は何も変わっていない。瞳には哀しみが見て取れた。



「中流以上の人脈がある家の子どもたちは共同生活だってことに胸を躍らせるかもしれない。

 でも、大多数を眺めたときの様子でしかない。一部の子どもの顔やこころの中は見えないの。

 ちょっとした広さがある場所で少し高い場所に立っていると考えてみて──それかそうしてみて。個々の顔をじっくりと見ようとしても、どうにもできないってわかるから。

 必死になって、日々を生きている人たちは自分の血の流れ系統がどうだとか考える余裕なんてないの。突きつけられたときの声なんて聞こうともしないで、取り上げる。

「あら、あなたは相応しいわ!」まるで今日のディナーに並べるかのような具合に」



「率直に言うと下流の者たちはどうして見つけられて、名家だとかの者の後ろ盾をあるのでしょうか?」



「疑問に思うのも無理ないかと思います。私も疑問に感じてきましたし。

 答えを得られたのは、私が血の研究をしていたから。あらゆる血のすべてに目を向けていたとき、系譜学──DNA関連が目につきました。そうしてアカデミーが独自に、ある一族が全幅の信頼を得て引き受けていることがわかったんです」



 リジー・バンクスは喉を潤すタイミングを掴んだようで、一旦カメラ越しには沈黙が流れた。

 インタビュアーの男性は、私たち視聴者が感じていることを目まぐるしく考えて、抜き出して重要度を図っているようだった。

 数秒の間だろうか、見事に口を開く。視聴者が焦れる前に。



「どの企業もしくは、名前とかは教えてくれませんか?」



 リジー・バンクスは小さく笑う。

 春の小風、それとも夏の夕方に吹く風のような笑い方だった。私にはどうしてもそれがリジー・バンクスらしくないように感じられた。



「まだまだやりたいことが多すぎるから。それに真実の意味で伸び伸びと暮らせる世の中を次世代に渡したいから、いまはダメ」



「リジーはアカデミーの支援に助けられたことが短期間だとしてもありますよね? そのときに感じられたことは何かありますか? 印象深いことも含めて」



「ええ、ある一族と言うべきかしらね。

 アカデミー自体に保護──あえてこの言葉を使いますが、されたわけではありません。

 でも、間接的にはアカデミーの支援を受けました。

 そのとき、感じたのは……そうね。いつだって今後、明日もし世界のバランスが変わったとしても自分の立場を失わないで居られるように、守っていくこと。さらに、さらに上を目指してそこに収まることだけだということ。

 だからこそ、血の流れ系統に執着して、その者が突出した才能だとかがあると喜んだの」



 インタビュアーはまるで心底、関心している頷きと表情だった。

 俳優でもおかしくないようなその姿は、視聴者の代弁者に最適だった。


「なるほど。その一族とどう繋がったのでしょうか? 音もなくやって来て、攫われたってわけではないですよね?」


 笑いがふたりから上がった。

 たぶん、このネタはヴァンパイアのイメージから言ったのだろう。


「大学になんとか入って──興味があることとないことで、かなりの成績差があったからなんだけど──、少し経った頃にある女性が近づいてきてからがはじまりだったわ」


「ヘッドハンティングのような感じでした? 僕たちが知りたいのは、まるで機械的なやりとりだったのかってことで、相手や新しい門出を迎えた若者の未熟さを晒そうってわけではないんです。どうかご理解を」


「ええ、もちろん。ブライアンが気になるのも無理がないわ。それに観ている方々も気になるだろうし、子どもたちやもしかして……と感じてらっしゃる方も居ると思う。

 彼女は純粋に、疑いを抱けないほど純粋に、仲良くなりたいと思ってくれていた。そのころの私は、ひねくれていたから邪険にしていたけど」



 ロレインに椅子座るように促さないといけないほど、彼女は哀しみに染まっていた。

 肩が少しだけ震えている。

 それでもテレビを観ることを止めようとしない。

 まだまだインタビューは先に進んでいく。



「──彼女の一族の支援は、先ほど述べたように自分たちの今度を左右する人材確保でしかないようなものでした。

 私は血への可能性を学び、考え、求めていましたから、その支援がどれほど有難かったかは言葉にできないほどです。今でもあの頃、あの一族の支援がなかったらいまの私は無い、と断言できるほどです。

 血は抗えないと言うけれど、下流家庭から脱した歌手や俳優、企業創業者に学者、政治家は世界にたくさんいる。

 本人の努力の問題だろうけれど、因果関係だとかも視野に入れてみたりと様々に考えてみたりもした。それを一番に面白がってくれたのも、その一族でした。没頭するあまりに無知過ぎたのも否定できません。でも、一緒に楽しんだりしてくれたからこそ、ひたむきに可能性を広げていけました」


「その可能性を信じて、会社を立ち上げたんですね」


「ええ。今は私の知識以外はすべてを失いましたけれど」


 画面の中のふたりは笑うことで空気を払っている。

 でも、ロレインは真っ白な顔の中で感情を失っていた。それがどうしても泣いているように見えた。テレビを消すことも、慰めることもできない。他者が行動することが一番、彼女を傷つけるような状況だった。



「這い上がれた。そこがすごいことだと観ている人々も思われていることなんです。

 今日、ここに来てくださったのも応用をしてこられて、今後の進化も予想・予測をされたからこそなんです。ほんとうに心から感嘆してしまいます」



 もう充分だ。

 たとえ私の行動が傷つけることだとしても、粉々に砕かれるのを傍観しているだけなのは胸糞悪い。

 音が聞こえても不思議ではないほど乱暴にテレビを消した。

 それでもロレインは画面を見つめたままだった。

 一滴、瞳から涙を落す以外に変わらないまま、ただ見つめていた。




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