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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
30/57

15.


 テレビからはあの日、同時に起こったテロとされている集団行動の一部映像や各国の今後の対策、アメリカ政府が策を講じていたにも関わらず、起こってしまったことの声が垂れ流されていた。


 それによって流された血の主たちのことも。

 その持ち主は、私が閉じ込められていた場所の人々だけだった。

 そのことは幸いだったのだろうか。

 問いをかき消すかのように違う局を選択する。


 不可解な投稿映像──動画を主に発信するSNSでリツイートが多数にされ、有名人ですらも注目したその投稿が流れてきた。


 テロップには、投稿主に関してさまざまな憶測が流れていると付け加えられていた。



 ただ人気を自分だけに集めたい人物によるもの。


“アビリティーズ”に潜入していたジャーナリストが近々、発表するノンフィクションの宣伝を狙って作られたもの。


 実は某国がバックアップしている、ドキュメンタリー形式の映画プロモーションが流失してしまっただけのこと。


 また、噴飯ものでしかないけれど、ある国の政府高官が対立陣営への誹謗中傷目的で仕掛けた戦略なのだとか。



「どれもちがう。なんでわからないんだろう。どうして見ようとしないんだろう。わかろうとも見ようともしないなんて」


 勝手に言葉が出てくる。


「何か飲みたいものでもある?」


 近くに誰かが居たことに驚くけれど、首を振って会話を避けた。まだ何かを言って、何らかの意思表示を引き出そうとしてくる。


「何かあったら、ささいなことでも良いからこのボタンを押してね」


 そのボタンを押さなくてもカメラで見ているくせに。心の中で言葉にして、頷くと誰かは立ち去ってくれた。



 見ていた局では、投稿映像の内容からゲストへと移り変わっていた。だから違う局でやっていないかとチェックしていく。


「やあ。これを観ている人たちは人外に対していろいろな意見や思いがあると思う。

 実は自分も……と思う人も居るだろうし、それによって──いま世界でテロだったりで騒がしくなっていることに迷惑しているんだって人も。

 そんな難しい話は気分じゃないからしないんだけど。じゃあ、切り出し方を考えろって? ごめんごめん。よくあることなんだ、考えが口を出ちゃうタイプでさ。えーと、何から話そうか。どうでも良い話を聞いて欲しいんだ。ただ、それだけかもしれない」



 そこに映っているのは、懐かしいタロウだった。

 車内で撮られているせいか、カメラと前を交互に見ながら映る顔は、血の気が引いている。目立った外傷はあまり見受けられない。

 言葉を探すときに、横を向いたことでそれは真正面からは、という前置きが必要になる。



「──それでさ、オレは……気楽に、なんでもかんでも捉えることも取ることもできなかったけれど。

 ただ、むずかしく考えなくても、ただ──誰かが誰かの傍でリラックスできる空間を、誰かが踏みにじることなく、踏みにじっても毅然と間違ってる! って言える道を歩けてたらって想像するようになった。

 さて、着いてしまった。ここが“アビリティーズ”の一応の隠れ家だ。映像は切るけど、電源は切らないでおくよ。じゃあ」




『一部の情報筋によりますと、一連の教育機関を襲撃した集団の主犯格とみられている ヤアル・ウー・タウス・プリモ容疑者が投稿したものと』



 違う!!!

 

 タウスはそんな瞳をしていない。

 暗い、人への拒絶を宿して虚ろな顔をしているわけがない。

 目に映るすべて、映らないものはしっかりと見極めて、常にキラキラとした瞳をもっていた。



「ケイたん。漢字でどうやってその名前を書くの?」


 そう聞いてきたタロウ。

 嬉しくなって私は大きく書いた。



 恵



 その字が表すことを乏しい英語を使って、聞かれてもいないのに話した。


「めぐむ。恵みがあるのは受動、与えてもらうイメージ。ええと、どう言えばいいのかな? 施しとかじゃなくて、いつかどこか何かのときに、あの出来事があったから今があると思ってもらえるような人になりなさいって、おじいちゃんが付けてくれたんだ」



「すげえ! ケイたんそのものの名前だよ! オレ、ケイたんのおじいちゃんに会いたかった! ケイたんを育ててくれてありがとうって」



 言葉は次から次からと出てきた。義務的ではなく、感嘆した表情をしきりだったタロウは、そう涙をこぼす寸前の顔になっていた。


 あの瞳──堪えようとしていた涙が偽りだと思いたくない。




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