12.3
力の加減を間違えている。
どこかで聞きかじったやり方で、魔女だけのやり方とすべての人外が共通して使う術のやり方が混じり合ってしまっている。
一貫性がなく、そもそも特定の誰かを真似ているわけでもない。そうなると力加減がなく、自分自身の身すらも糧にしてしまい、どうにも収拾つかないことになる。
ロレインの解説がなくてもダイアナですら理解できる結果が待っている。
この混じり妖精は、意識がある死人になる可能性が高い。
やりきれない思いが沸き上がる。
アカデミーの存在意義として、そのような者を生み出さないということがあった。
ダイアナにとってもそれは重要なことだった。
覚醒しても教えてくれない悔しさは酷く虚しい。
アカデミーがなければ、ダイアナもこうなる可能性が充分にあった。家長である祖母が居るから、その可能性は少し低いというだけで。
気が付けば、まぼろしは足下にはなかった。
この建物のいつも通りがそこにはあり、糧にする者の精神力が弱くなっていることが見て取れる。
「ディー、あたしが晴らしていくから」
その先は言わなくてもわかっていた。
資格も聴覚も一旦、放り出す。
行く先はロレインが導いてくれる。
ただ何をするかを言えば、それだけで相手が信頼をしてくれると知っていた。言われれば、自分が何をするかはさっと悟ることができた。
ダイアナは嗅覚を最大限にする。
異国のせっけんの香り。
大量生産かそれともその国でよく使われている手法のものだろう。
高品質ではないだとか、普段手にするもの価値ではないとかではない。異国の街並みが一緒に漂ってくるから、そう思うのだった。
知らない日常と習慣、作法の中で生きる人々が馴染んで使っている香り。
どこかで定期的に鼻にしたような気もする。
記憶の奥底で埋もれてしまって、掘り起こすには時間がかかりそうだった。
そう思うと同時に、ケイの匂いがふわりと空中で存在をアピールしている。
怯えと悩み、苦しみが汗となって強く主張している。
ノマッドの時よりも強烈だった。
あの時、ケイはどうしてここまでの匂いではなかったのだろうか?
今はどうしてこんなにも強烈に、それこそ泣き叫ぶかのように匂いが荒いのだろう?
「“ロリー、ケイが一緒に居る”」
ダイアナはロレインを追い越しながらそれを伝えた。
こんなにも荒いのならば、この惨事の最中に居るのは確実で、手に負えない状況なのだから急いてでも駆け付けるべきなのだ。
それに反して、どうしようもない結果にもなりそうで怖かった。
ノマッドではただ、ケイを助ければ良かった。
選択肢から選ばせて、その結果の通りにすればお互いが納得するものになった。
でも、今日はどうなっているのかもわからない。
そして──積み重なったものがあった。
「ディー! 落ち着いて!」
その言葉に頷きながらも、身体は行動してしまっていた。
いつもお読み頂きまして誠にありがとうございます。
ブクマ登録が増えていて、励みになります。
次話からは主人公視点に戻ります。