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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
17/57

9.5


 ノマッドで襲い掛かってきた生物は、純血種になり損ねた者の末路だった。


 純血種に近づけば近づくほど、想像が形になりやすい術を使うことができる。

 魔女・魔術師、吸血鬼、狼人間などを問わずに、惑わすことができる。もちろん、根絶を前に姿をくらませた妖精たちも、複数の術を使える条件になるそうだ。


 吸血鬼は痛みをなくし、味わいを堪能するために──痛みがあればそれだけよりよい栄養が摂れなくなる。それをおやつとしている者も居たらしいけれど、褒められた行為ではないようだ。


 魔女は人との境を薄くするために、人に夢錯覚をほどこす。お互いの安全をはかるためにそれをしなければ、錯乱状態になってしまうから。麻酔処置と考えればよいのだろう。また、人は夢と希望を抱かねば無気力な種でしかない。そこに彩りを添えてきた。まあ、悪いことを唆す存在は人でも魔女や魔術師も同じだったようだけれど。


 狼人間にいたっては、ヒト型に変化する際に、説明のつかない段階を見せるわけにはいかないという点があった。それはヒト型から狼に変化する時も同様で、術を使うことが自然と浸透したようだった。どの個体が習得し、それを皆に伝えていったのかは、口承でしかなく、狼人間の血を引く一族がこぞって主張しているから疑問視されてもいるらしい。



 “アビリティーズ”は、純血種をつくろうとしていた。

 よりよい未来と世界のために。

 でも、どうしても片隅に放置された存在が目に余る。どこかで解き放たねば、内から食い散らかされる未来が待っていることは想像しなくてもわかっていた。

 だから──フランスに放した。

 育てられないからとペットを捨てる人と同じだとロレインは口を挟んだ。吐き捨てるように言った言葉とは裏腹に、静かな顔だった。怒りが達しているとどこまでも澄んだままの人がいる。ロレインは正にそうだった。


 フランスのみならず、世界各地にそれぞれが放たれた。

 異形だけでなく、“アビリティーズ”が成功したと信じる存在が。

 

イギリスでは、まるで若者が暴れているかのような行為を国内各地でただただ、主義主張もなくやっているだけのものだった。


 ドイツでは、国の骨幹を揺るがせようと言葉で煽ってのものだった。音楽フェスやお祭り会場で、まるで友好の絆を築く会話を囁いていたようだ。甘言を弄し、現実と夢の境目を行ったり来たりする物語のように。


 ロシアでは一部の政治家しか知らない場所を攻撃されたようだった。もちろん、ニュースにはならなかった。


 ただ、カナダとアフリカの一部と南米では未然に阻止され、受容された。カナダは真っ先に法律を整え、迎え入れた。どこかに傷を受けると流れる血は、人外も動物も人も同じ痛みを伴うのだと。


 他にもいろいろな事案の影にはその存在があった。

 それは戦争という隠れ蓑を使って、根絶させられた種たちの復讐。今後、忘れさせることを許さないという目的のためだけに、記憶に刻み込ませる。

 それをやってのけたのだ──“アビリティーズ”は。


 異形になった者も、成功したと信じられた存在も鎮圧されたけれど、それは第一段階だけでの活躍を期待された先陣部隊とでも言うのか、そのようなものだった。


 次になにが起こるのか、どこが狙われ、ただの人をどうしようとしているのかはまだわからない。


 語っていくダイアナの表情は、真っ白だった。


「あの……だから、あなたはあんなに素早かったんですね」


 喉が貼りついてしまったような引きつれを感じながら聞いた。もっときちんと尋ねたかった。「アメルの店」で、入口に移動していたはずのダイアナがなぜ、私が落としそうになったグラスをキャッチしたのかと。

 案の定、ダイアナは不審そうな顔をしていた。


「フランスの、「アメルの店」で……グラスを」


 それだけで、ぼんやりと思い出したかのような顔をしてくれた。


「あんた、そんなこと覚えてるの?」


 ダイアナはくだけた口調に変わっていた。


「記憶とか、観察したりとか好き、なんで」


 頭がぼんやりして上手く話せない。頑張って英語で考えて話すけれどギブアップだった。ロレインとダイアナが何かを小声で話しているようだったけれど、私の瞼は静かに閉じていった。



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