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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
13/57

7.5

主人公視点ではありません。



PM 4:30


 ダイアナは緊急対策室、IT部門、警備部門とそれぞれ移動しつつ、緊急ミーティングをしていた。


 確認できる限りでは先月から起こっている人外否定主義者からの事故などによる人的被害や人外であろう者からのハッカー攻撃、物理的攻撃がクイーンセキュリティ社を壊滅的にしているからだった。


 警備部門もIT部門も、はたまたそのほかの部門もダイアナが取り仕切っているわけではない。

 どちらかというと、社の中で悪さをしようとする者に目を光らせておくのがダイアナの本業だった。

 今回、緊急性もあり一族総出で事に当たる必要性があった。

 でも、ダイアナよりも年長の者は国内外の対外企業や政府と顔を突き合わせている。ダイアナしか社内で動き回れる者が居なかった。


 そうしている間にも、存在を示すように鳴る携帯電話を何度もスルーしたかわからないくらいだった。それくらいに今日は目まぐるしく時間が零れ落ちていく。


 急ぎ足で次に向かう最中に、着信とメールをより分けていく。

 重要度の高いものはすぐに連絡を入れる。留守電の確認もしながら、さらに選別をして、自分以外の者でも当たれるのであれば振り分けていく。


 向かう先は、とても厄介な来客だった。

 子どものころからよく知っている相手。

 向こうもダイアナを知り尽くしていると言ってもいい。

 だから、無いも言えないことの方が多い時間ばかりを過ごすだろう。よりによって、弟も妹もジョンも居ない日に。



 部屋のドアを静かにノックし、まるで自分が来客者の気分になりつつも入室した。

 とても高価でアンティーク家具という言葉が霞むと思わせるように座っている相手。

 顔を少しだけ動かし、ダイアナに頷き静かに向かいのソファを示す。

 十年前から変わらない風貌とくすんだブロンドの髪に、アカデミーに居たころの思い出がよみがえる。


 成長期の不安定さとゆっくりと流れる人外の血ゆえの悩み──同じ年ごろの子よりも成長スピードが遅かったり、止まった時間を過ごしているような時間間隔とその反動を制御するため。

 それにどこかで世間との隔離をすることによって実年齢と見た目が伴わないという奇異な状況をやんわりと躱すことができる。

 アメリカは特にホームスクーリングでも構わないから。

 成人するまでの間がヒトと人外の差を隠すのが神経を使う。

 子どもは敏感に察知してしまうから。




「D、きみにはそろそろ子を継ぐべきだと私たちは考えている」


 カシスソーダをこの世の贅沢を集め、それを味わう栄誉を手にしたかのよう口に含む男──ニコルス教官は言った。

 世界の何たるかを知りつつも優雅でいることが重要だと知っている。


「それは、確かにわたしもそう思っています。今はそのタイミングではないだけで……」


「一番の良いタイミングだと思うが?」


 ダイアナは言葉に詰まった。

 アカデミーのころのままだと実感した。同時にそう思う自分を叱責した。


 アカデミーの主任教官であり、新聞社記者という表の顔から国内を飛び回っている。

 最近では見向きもされなくなりつつある情報の最新を紹介している。

 ネットの出現で、それも個々が手にしているとなる現代では、国内では彼しかその記事専属は居ないだろう。

 ただ需要もあるし、人脈もあってか廃れることなく記事を、日曜日版だけでも書いている。それだけの相手だ。


 ケイがたまに見せる羨望のまなざしを向けるダイアナで対峙しなければ、と思えば思うほどに、子どものままで居る気分にさせられた。

 自分の中の狼の血が唸る。

 その唸り声を聞いて、ニコルス教官を観察して気分を整える。


 ニコルス教官は今も昔も、中性的な容姿をしている。

 必要最低限の筋肉とくすんだブロンドは手入れを怠らなくてもどこかお人よしだと思わせるものがある。

 服装は動きやすさを重視しており、だけれど実は、ハイブランドで揃えている。

 そう思わせないようにしている。靴にしか手が回らなかったかのように。

 ダイアナはケイのような観察力がないことに溜息が漏れた。


「そうやって時間を浪費するのは楽しいかね?」


 心の中まで覗き、侵入してくるような薄いグレーの瞳は昔から変わることはない。

 ケイが「目だけは変わることはないらしいよ。白目が濁ることはあってもね」と言った言葉を思い出す。まさにそうだと頷く。


「ニコルス教官。最適は──タイミングは、自分が一番わかっています。それこそお力添えが必要であればクイーン家からお声がけをさせて」


「ケイ・ササキ」


 囁くような、静かな声が呟かれた。

 言い切る前に口にされたその名前にダイアナは目をすがめた。

 本能が敵だと思ってしまいそうになる。どうしてそうなのか、説明のつかないものだった。


「彼女を救って、利用した。思ってもいない反応が出たから遠ざけている。でも、また利用する際には甘言を囁く。──(たの)しいかね? ヒトを飼うのは」


 急速に血が脳を支配しないように呼吸を整えながら、言葉を選び出す。


「何をどう勘違いなさってらっしゃるのか……わたしの行動が招いたものですから、訂正しなければなりませんね。ただ──対等だと思うから救って、手伝ってもらい、仲違いをしたまでです」


 姿勢を正し、あるじ然とした態度で話のピリオドを打った。それこそ群れの中のリーダーを感じさせる威圧感を瞳にはあった。

 だが、ニコルス教官は気にすることなく口を開いた。面白がる素振りすら顔に浮かべて。


「着信が三件。キミは仕事中だったから仕方あるまい。彼女はアカデミーが今後、責任を持って保護しよう。リジー・バンクスが舞い戻って来た今、何がどうなるのかわからないからね。QもSも因縁がある。気を付けたまえ」


 音もなくドアを通り抜けていくその背中を座ったまま見送るしかなかった。

 茫然としているからだった。

 今、何と言った? リジー・バンクスなど歯牙にもかけないけれど、ケイをどうしたって?

 すぐさま、内線電話をかけて予定の変更を指示していく。片手では携帯電話を操作して問い合わせの電話を掛ける準備をしていた。


誤字がございました前話、修正いたしました。ありがとうございます!

週に一回以上は見直して、訂正していくようにと気が引き締まりました。言うだけにならないようにここに書いておきます(笑)

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