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ハウル・アンセスター  作者: ありき かい
第一章  真実
12/57

⒎15


PM 4:00


 どこかで暮れ時を告げる動物たちの声が聞こえる。


 これは三軒向こうの家で飼われている犬の鳴き声で、それにつられて他の犬が呼応しているな、とか。

 もっと言えば、先にカラスが鳴いてからその犬が鳴きだす。

 さらに言えば、鳩とスズメが別々に、昼の居場所から離れる際に声かけがあるということから夕暮れ時を感じさせる。

 風が植物を揺らして、一日という世界の風景に変化があることを知らせる。だからこそ、動物たちが知覚する。


 そんな風に毛がある動物が終わると、今度は爬虫類や虫たちの出番になる。

 草花の影や物陰に姿を見せたり、仲間内での合図を送り合える距離に近づく。信号を発するよりも挨拶の重要性を見出しているというなんとも人間味溢れるものだ。


 そういった声なき声を聞いて、「ああ、今日も一日の締めくくりの時間なんだな」と感じた。

 学生というカテゴライズを抜けると、そう感じることのない日々になってしまったけれど。



 ここは日本ではないから、日本で夕餉の匂いを鼻に感じることができない。

 だから、タイミングはすべて体内時計に頼っている。

 外の景色や時計を見て決めても、必要ではないような気分になる。その気分のまま食べれば、言い訳や体形の悩みを重ねつつ、空いてしまったお腹をなだめるために再度食べて自己嫌悪が待っている。


 まあ、アメリカのみならず北欧でもフランスでもそれをやってしまって自己嫌悪と旅だからと言い訳を繰り返したからなんだけれど。



 今日は何を食べようか。それとも食材とデリでちょっと凝ったものでも作ろうか。

 そう思案して通りを宛てなく歩いている。


 ダイアナからの折り返し連絡はない。食べてからどうするか考えよう。

 どこかで済ますならば、直接ダイアナのところに行く選択肢もある。そうなったら入店前後に訪問連絡を入れておこう。家で食べるなら、メールを入れておこう。


 そう考えて、フロント通りに行くかミリアド・シティ方面に向かうかを信号待ちの短時間でしていた。



「申し訳ないんだが……セシル記念病院へのバス停を教えて頂けないだろうか」


 どこからともなく現れたかのような、品の良い程よく年齢を感じさせないけれど白髪の老紳士とまだ少女の憂いを残した女性の二人組が聞いてきた。


 驚きから声が出せないままで、視線が踊ってしまう。

 二人はどこか有無を言わせない空気を纏い、ただ立っているだけで威厳のようなものを感じさせる。それは女性も同様で、どこかしら嗜虐性を持て余しているおかげで少女の憂いが残っているのではないかと思ってしまう。


 それに──雰囲気にブレがある。


 ダイアナやロレイン、私の存在を知るジョンなどの周囲のように、私がその秘めたる顔を知っているから──隠さないでいるかのよう。


 そこまで頭をなんとか回転させて、道順を指で指し示し、目印になるような店を何度か強調させて伝える。

 早く離れたくて、地面を蹴るようにして立ち退こうとした時、首の後ろに風がさわさわと当たる時のむず痒さを覚える。

 でも、そこまでだった。


「おやすみ。何も知らなくていい」


 その声がすると私は瞼を落としていたから。



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