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七草粥

作者: ミクマリ

「これは何?」


「あ、これ? これは七草粥」


1月7日、月曜日の夜

今日から本格的に年始仕事が始まった日

ようやく日常が戻ってきた感じがする

俺は仕事で疲れた身体を熱いお風呂で癒し

今から至福の時間に浸る


風呂上りのビールを飲みながら晩酌

なのに目の前にはいつものおかずの横に

ご飯の代わりにお粥が置いてあった

(なんだこれ、、)


俺の好みはご飯は固く炊いて欲しい

固めのご飯があればおかずなしで食べれる

ご飯にはこだわりがある

亭主の当然の権利として

いつもの妻の絶妙な固いご飯の代わりに

お粥が夕食に出てきたことに対して異議を申し立てた


「なにこれ?」


「えー、あなた何も知らないのね、今日はね、七草粥を食べる日なのよ」


妻は驚きと

何を聞かれているのか困惑したような目をしていた

今日の夕食にお粥を出す事の正当性は

妻の中では揺らぎないものとして自信があった


「普通のご飯くれよ」


「ないわよ」


即答で返ってきた


「俺はお粥じゃなくて普通のご飯が欲しいんだよ」


俺は亭主の当然の権利として主張した


「だめよ、今日はね、

お正月で疲れた胃を休ませる為に

縁起物の七草を入れた消化のいいお粥を食べる日なのよ」


妻のイライラが伝わってきたが

だけど俺もここで妥協する訳にはいかない

俺は固いご飯が食べたいんだと主張する事が

これから先の夫婦生活において

とても大切なことのように思えてきた


「だからなんで俺がお粥食べなきゃいけないの?」


「だからさっきから言ってんじゃん、今日は七草粥を食べる日なのよ!」


「だから俺は食べたくないって言ってるでしょ」


「だめよ、今日は疲れた胃を労わる為に

七草粥を食べる日なんだから、

それにもうご飯はないの!」



なんか変な押し問答になってきた

普段は良き妻なんだけど、たまに我が強い時がある

無ければ炊き直すか

コンビニで飯買ってきたらいいじゃんかよと思った

だいたい正月で疲れるほど胃は酷使していない

吐くほど飲んでない

それに、そもそもおかずがこれじゃん


「これはなんだ?」


「見ればわかるでしょ、これはトンカツじゃないのよ!」


妻のイライラがマックスになってきたことは容易に伝わってきた

なんで俺が怒る前にお前が先にキレるの?

俺は理解できないぞ

妻は元々頭のいい女だ

ここは論理的に説明をして

俺の主張を理解して貰う戦法に切り替えた


俺は微笑しながら穏やかに妻に聞いた

意識的に詰問口調にならないように注意しながら


「これはなにかな?」


妻の怒りが爆発した


「あなたバカ!これはさっきから言ってるでしょ!な・な・く・さ・粥よ!」


いやいや、いくら愛する妻がキレようとも

ここは説得しなければいけない

妻の行動が矛盾していることを理解してもらわなければならない


「なんで七草粥があるんですか?」


「あなたほんとに頭大丈夫?

今日は疲れた胃を休める為に七草粥を食べる日だと何度も説明したでしょ!!!」


怒気を隠そうともしないあきらかな怒り

顔が紅潮して涙も浮かべている


こうなったら俺も、もう降参

しょうがないな、俺がコンビニで飯買ってくるよ

のそのそ立ち上げって

外出着に着替えようとした瞬間



「胃を労わる日なのに

なんでトンカツをアテに俺はビール飲んでんの?

お前バカなんじゃねえの 笑」


ヘラヘラした口調で、あからさまな嘲笑を含ませた声が聞こえてきた

それが我が妻の地雷スイッチを押したのだ



(俺じゃない、俺は言ってない)


妻が烈火の如く怒りだした

立て板に水の如く俺を責め、まくしたてた


「あなたが昨日言ったじゃん!

今日の夜のおかずはトンカツ食べたいと言ったから買ってきたんじゃないの!

あなた本当に頭大丈夫?

だから今日は七草粥を食べる日なのって言ってんのに!

もうこれ以上あなたとは話したくないわ!」



妻は凄い勢いでドアを閉めて

大きな音を立てながら自分の部屋に戻っていった

きっと怒りのあまり泣いてるのだろう




しまった

声に出てたんだ

やっぱり言ってしまったんだ

て、言うか

いつもの癖で呟いてしまった


俺のTwitter依存症

重症だな


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