08 離脱
「Tフォーメーションを取れ。敵が陣形を整える前に片を付けるぞ」
アドルの指示が飛ぶ。私達と同じように今が先制攻撃の契機と見たのだろう。
「聞いた通りTフォーメーションよ。移動後、前面の艦隊の援護を行って頂戴」
私がヤスコに指示を飛ばしてしばらくすると味方の艦隊が「T」の形になる様子がスクリーンに映し出された。
そして攻撃力に優れた艦艇からなる打撃部隊がMSややLG(レーザー砲)を撃ちながら敵の陣に突入する。
味方艦隊の攻撃で敵の陣形に穴が開くと船速の速い艦はその穴に突入して行った。
「側面から敵艦の防御が薄い所を狙って頂戴」
私の船は他の船速の速い艦と供に敵艦の側面に回り込みMSやRK(ロケット魚雷)を打ち込んで正面から突入する味方艦隊を補助する。
私達の艦隊を迎え撃つ敵の動きは鈍いが戦意は高いように見えた。
しかし初動で遅れた動きは挽回できず個々の艦が自主的に動いているようだった
そんな艦を私達は難なく撃破していく。
しばらくそんな戦いが続いていたが、敵も劣勢に気が付いたのであろうか?徐々に後退を始める。
離れて態勢や陣形と整えようというのだろう。
そこに再度アドルからの指示が飛んだ。
「今のうちにこの宙域を抜けるぞ。10時方向に全速で離脱だ」
この指示を受け、私達は敵陣を突っ切る様に離脱した。
敵艦隊は態勢を立て直すのを優先しているのだろうか?追ってくることはなかった。
「どうやら何とか切り抜けたようね……」
私はほっとしたように呟く。
「はい、やっぱりお姉様は運を引き寄せる能力があるんですね」
いや……私にはそんな物ないし……
しかし傍らでニコニコしているヤスコの機嫌を損ねる必要もないだろう。
私はその言葉を否定も肯定もせず微笑み返すにとどめた。
「それにしても……本当に敵ばかりですね。味方と合流なんて出来るんでしょうか?」
「今の所、接触したのは敵ばかりね……友軍の影も形もないわ」
「味方はどのくらい撃破されずギルドに戻れるのでしょうか……?もっとも……」
そこで一旦言葉を止めると、微笑みながらヤスコは言葉を紡ぐ。
「お姉様がいる限りこの船は無事にギルドへ戻れますけどね」
……いつも思うのだけれどヤスコの私に対する信頼は過剰に思えるわね……
もちろん性格付けをしたのは私だけど……他のプレイヤーのNPCもこんな感じなのかしら?
NPCはソロ用のお供というゲームないの位置づけなので私は他のプレイヤーのNPCと会話したことなどなかった。
私はその言葉に苦笑しつつ、索敵や運航の指示をヤスコに続けるのだった。