61 古都キュエルシティー
私達の旅はそのまま数日の間旅を続けた。その間兵士の駐屯地や小規模の集落をいくつか通り過ぎたが特筆すべき事項はなかった。
そして行く先々でキュエルラスの首都キュエルシティーの噂を聞くもひどい物だった。
曰く、昼間からアンデッドが昼間から跳梁跋扈している。
曰く、住民の姿は昼間でもほとんど見ない。
曰く、街中だけではなく街を囲む城壁にもデスナイトと呼ばれるアンデッドの兵士がうろついている。
等々。
とてもとても不安になるような話を聞かせてくれた。
そして最後の集落を出発してからどれほど立ったのか、私達は特徴のある大河へとたどり着いた。
聞けばこの大河を渡ってしばらく進むとキュエルシティーへたどり着くらしい。
近くまで来た証拠に大河の向うを眺めると遠くに高い塔のような建物が見えた。
「この河はどうやってわたるのですか?見た所橋のようなものは見当たらないのですが」
「たしか渡し場があったはずですが……。あ、あそこですね」
エリンが指さす方向に向かい、私達は土手を降りてゆく。
そして私達が大河を渡り終えたのはちょうど恒星が大地に沈み始めるころだった。
そのまま河原にて不安な夜を明かし、翌朝日の出とともに出発する。
古都キュエルシティー、それは独自の美しさを持った街で知られていた。
彼らは何百年もかけて自然を矯正し、自分たちの理想の状態になるようにしてきたという。
そうして彼らは自然を自分達にとっての理想に合わせ、人工物と組み合わせて美しい幻想的な都市に仕上げていた。
その美しさに旅人が立ちさりかねて生涯そこにとどまった、などという物語まで語られる始末である。
しかしその面影は今はない。
城壁は所々崩れおち、かつて行われた戦いがいかに激しかったのかを物語っていた。
そして今だ残っている城壁にあるのは異形の……デスナイトと呼ばれるアンデットモンスターである。
そしてそれ以上に目を引くのは城門に吊るされている死体だ。
もはや人としての原型を留めていない数々の死体が半ば白骨化した状態でブラブラと風に吹かれている。
うわぁ……。ちょっと何これ?
「あれは……、見せしめでしょうかね?城門に吊るすなんてなかなか良い趣味をしています」
エリン達は顔をそむけたまま碌に見ようともしていない。おそらくはあの吊るされている死体はハイエルフなのだろう。エリンは何度かこの都市に来たことがあるという話なのでもしかしたらあの中に知り合いが混じっているのかもしれない。
この都市にたどり着くまでの集落で聞いた話では現状でも極少数の商人等が出入りしており、問題さえ起こさなければ特に拘束されたり、危害を食らわされたりと言った事は無い様だ。
ただこの城門のありさまを見ると何もされないとはいっても、ごく少数の者しか出入りをしない理由がわかる。
「さぁ、私達もそろそろ都市に入りましょうか」
ヤスコのその一言で私達は城門に向けてノロノロと足を進めた。
……城門でこれなら内部は一体どうなっているのかしらね……。不安だわ……。