56 ゴブリン
エリンに様々な質問を浴びせかけるがエリンは嫌な顔もせず質問に答えてくれた。
魔法の事はもちろん、周辺地理のこと、歴史や伝説等、会話は多岐にわたる。
エリンが話す内容はとても分かりやすく為になることばかりであり私はもちろんの事、ヤスコの知的好奇心も十分に満たしたようだった。
質問に対する返答が更なる質問を呼び、エリンの声がややかすれ気味になったのに気が付きようやく質問を止める。
でもなんというか『フリーダム・ファンタジー・オンライン』とも現実ともまったく違うわね……。
でも魔法などといった秘術が存在するならそれも仕方がないことなのかもね。
魔法なんて便利なものがあれば科学技術の発展が抑えられるのは当然のように感じられる。
もし仮に私達が科学知識を与えようとしても見向きもされないか、魔法に応用できる所だけ取り入れられるだろう。
それから暫くは今までとはうって変わったように静寂が続いたがその静寂もヤスコの声によって破られた。
「お姉様、レーダーに反応があるようです」
ヤスコの指摘で私もレーダーを確認すると、確かに大型の生物が存在する事を示す光点が複数表示されている。
「あっちの方角に何かがいます」
不安そうな表情を見せるエリンに説明する為か、ヤスコがレーダーで反応があった方角を指さす。
木々が多いため見通しが極めて悪く、視界には特になにも映らないが、たしかにレーダーはその方角に何かが存在する反応を示していた。
「お姉様どうましょうか?」
「そうね……。敵対する生物とは限らないし、注意だけはしておいて姿を見せるまでは取り合えず無視しましょうか」
このまま何も姿を現さなければいいのだけれど……
しかし、私のそんな願いも空しく、木々の隙間から奇妙な生き物が姿を見せる。
人に比べると小柄で二本足歩行をする生き物だ。数は十数匹だろうか?
小さな顔に釣り合わない大きな鼻と大きな耳を持ち、革鎧のような物を身に着け、手には刃物をもち、空いた手に小型の盾を持っている者もいる。
見た目は邪悪そうな生き物ね……
「あの生き物は知ってますか?」
「あれはゴブリンという種族です。都市部に住んでいる者は人と共存していると聞きますが……。そういえば国境近くの森林地帯にはゴブリンの盗賊たちがいると聞いたことがあります」
ゴブリンたちは私達の馬車を見渡すと徐々に距離を詰めてきているようだ。その邪悪そうな顔には明確な敵意が浮かんでいるように見えた。
「どうやらやり過ごすのは無理そうですね……」