54 旅路
ガタゴトと音を立てながら街道を馬車が進む。
朝に領都から出立し、恒星の光が高くなるぐらい時がたち、あたりを見回せば緑のジャングルを思わせるような森林が姿を現した。
木々がうっそうと生い茂るその様子はまるで古の森を連想させる。
しかしこの森は古の森のような闇に吸い込まれていくような不安な感じはうけない。
むしろ木々の枝からこぼれおちる恒星の光は、まるでカーテンの隙間から光が差し込むような穏やかな感じだ。
時折茂みや木々の間から小動物が顔を見せる程度で危険な生物が姿を見せる気配はなかった。
穏やかな枷が吹き、時折差し込む恒星の光も心地よい。
時折段差を踏み、馬車が大きく揺れる。街道は舗装されているわけではないのでこの程度の揺れは仕方ないのだろう。
「エリン様、ヨシコ殿、ヤスコ殿、もう少し進むとあまり安全な地域ではなくなります。たぶん問題ないとは思いますが、念のためご注意ください」
御者をしているのはミーナだ。エリンは「フルト叔父がなくなりもう貴方達は安全なのだから、新しい領主であるブルメン叔父に仕えなさいと」いう事をいったようだが、それでも何人かは強く懇願してそのままエリンに仕えている。
「わかりました」
頷きながら、私は考える。
私達が向かっているのはハイエルフの国キュエルラスよね。ヤスコが言うにはそっちの国のほうが大国だから求める鉱物資源の情報があるかもってことだけど、たしか戦乱中よね。そううまくいくのかしら……。
だまって考え事をする私をみてエリンは何かを誤解したらしく微笑みながら話かけてきた。
「大丈夫ですよ。この辺りは父上が生きていたころはフルト叔父の指令の元、頻繁に街道警備などをしていましたし、ミーナのいうとおり国境近くになるまでは特に危険は無いはずです」
「古の森にいたフェラルオークみたいな生き物はいないということですか?」
「もともとオークという種族はそれほど好戦的な種族ではなかったと言われています。しかし暗黒時代といわれているはるか昔に、古の森に住まうという悪しき王の手によって力と引き換えに極めて好戦的で残忍な種族へと変貌したと言われています。」
エリンはそこで一旦言葉を区切りさらに続ける。
「しかし少数ながら悪しき王の手を逃れたオーク一派が存在します。彼らは極めて理知的であり教養があると言われています。その彼らと区別するために悪しき王によって変えられたオークをフェラルオークと呼ぶようになったという事です」
へー、そんな逸話があったのね。じゃ古の森以外はフェラルオークにあう可能性は低そうね。