49 帰還
春の訪れは皆、待ち遠しいものだというが実際に季節が移り変わらなくてもそれに同じような出来事があるものだ。
最近のフォーセリアではまるで季節が目まぐるしく移り変わるように大きな変化が連続して起こっている。
そして最も直近に起こった出来事はまるで雪深い冬が、一気に穏やかな春になるような変化だ。
軍権を握るフルトの領主殺害による権力奪取も領民を驚かせたが、今回の出来事もまさに青天の霹靂だった。
フルトの死亡とそれに合わせる様に姿を見せたエリンの生存。噂ではブルメンが何処かへ保護していたという。
領主一族とはいえ権力も無く僻地に居を構えていたその男の名前は一挙に領民に広まっていった。
懸念してたフルトの部下は全員が恭順の意を示した。フルトの意とはいえ自分達の領主に手を掛けた事は彼らの心に影を落としていたのだろう。
恭順すれば罪には問わない、という声明もそれを後押ししたのは明白だった。
そして……
§ § §
エリン・フォン・フォーセリアが領都に帰って来た日。
一番外側の城門が開き、それに合わせて鐘の音が鳴り響く。
そして大通りにはいつも以上の人影がエリンの帰還を今か今かと待ちわびていた。
大通りにすら入りきれないのか、大通りに面した家屋の窓には人影が見えない場所がない。
噂では大金を払ってわざわざ大通りに面した家を借り切ったという富豪もいるそうだ。
室内だけでなく屋根の上から見学してる人々も見受けられえる。
その人々の興奮はまるでお祭り、いやそれ以上の熱気を見せている。
皆エリン達を一目見ようと集まってきた領民だ。
そして馬車に乗ったエリン・フォン・フォーセリアの一行が大通りに姿を現すとその興奮は最高潮を迎えた。
一行の中で一番豪華な馬車に乗る者は二名だ。
一人は見慣れない男性。男性としてはやややせ型で体はお世辞にも鍛え上げられているとは言えない。
しかしその整った顔立ちは女性の好感を得るには十分だと思えた。
彼はブルメン・フォン・フォーセリア、エリンの父親やフルトの歳の離れた末弟であり、その漂わせる雰囲気は貴公子ぜんとしている。
しかし、大通りに集まった人々のお目当ては彼ではない。
その隣の人物だ。
純白なドレスに身を包み、時折恥ずかしそうに片手を振りながら微笑んでいるその人物は領民の視線を一身に受け、その輝くような笑顔は男性のみならず女性をも魅了しているだろう。
それはエリン・フォン・フォーセリアだった。
領主である父が叔父であるフルトに討たれていらい姿を消していた彼女が久しぶりに領都に帰って来たのだ。