05 撃破
メインスクリーンには複数の方角から山なりの軌道を描く動きで私達の艦隊の左右へ回り込む敵部隊が映し出されていた。
スクリーンに映っている限りは敵の主力はジュピターは見られないようだ。比較的船速の早い戦闘艦で構成されており機動力と地の利を利用して私達を左右から挟撃しようとしている。
敵の指揮官は誰なのかしら……ずいぶんと船速の早い艦ばかり集めているわね。
「ダブルウィングフォーメーション、3時方向に進路を取るぞ」
別のスクリーンに映るアドルからの指示が私を現実に引き戻させる。
ギルドに所属している戦闘艦には基本的なフォーメーションが登録してありダブルウィングフォーメーションもその一つだ。
「敵は勢いこそあるもの左右のタイミングが若干ずれているように見える。挟撃体制を完成させる前に片方ずつ撃破するぞ」
アドルからの指示が飛ぶ。
さすが末席とはいえ大手ギルドの幹部のことはあるわね。
ベストではなくても現状ではベターな指示に思える。
「ヤスコ、聞いたわね。ダブルウィングフォーメーションを実行して速やかに3時方向に進路を取って頂戴」
「はい、お姉様」
ダブルウィングフォーメーションは左右にもっとも防御の高いジュビターを中心とした部隊を展開しつつ、攻撃力に優れた弩級戦艦を中心とする部隊を先陣にして他の部隊はその援護に当たるという攻撃的なフォーメーションだ。
私の船は援護に当たる役割だった。
スクリーンに映し出される味方艦隊が秩序正しく動き出し、陣形を整えて3時方向に移動を開始すると同時に先頭の艦隊は広範囲に火力をばらまき敵の動きを抑制し始める。
味方の弩級戦艦を中心とした部隊は巡洋艦以下の援護を受けながらそのまま直進しLGやMSを敵の艦艇に打ち込むと防御力の弱い駆逐艦を中心に撃破されていく。
その様子に私は一瞬微笑みかけるが、すぐに気持ちを引き締めた。
敵は一向にひるむ様子が無く、そのままこっちに向かってくるからだ。
「敵はずいぶんと戦意が高いように見えるわね。この場所ではともかく全体では勝っているからかしら?」
「どうなんでしょう?ただ大規模戦闘になれていないだけ……という可能性もあると思います。隙をついて挟撃するはずがこちらが先にフォーメーションを実行した以上、船速(足)の早いメリットは生かせません。このような場合は防御態勢を取るのがセオリーのはずです」
ヤスコの冷静な分析が指令室に響く。
「そうね、であればそれを利用しましょう。ヤスコ、援護を牽制から撃破中心に変更して。火力の密度は下がるけど撃破率は上がるはずよ」
「はい、了解しました」
私の船……巡洋戦艦は戦艦に比べ防御力は低いが火力は肉薄し、そして船速は速い。
つまり正面からの殴り合いよりも素早く動いて側面から敵を攻撃するのを得意としている。
敵の正面には火力に秀でる弩級戦艦を中心とした部隊、そして上下左右には巡洋艦を中心とした部隊が展開し、船速を停められた敵部隊は次から次へと撃破されていった。
「11時方向へ分かれた敵が来る前に一旦この宙域を離脱するぞ、そのまま3時方向へ進め」
アドルからの指示が届き、私達はそのまま敵を置き去りにするように前進すると、撃破した3時方向の敵はもちろんの事、11時方向に分かれた敵部隊が追ってくることはなかった。