46 領都
フォーセリアの領都は多数の城壁に囲まれた城塞都市だ。
そしてその中央部にあるのが領主館と主塔だ。
そこから外周部に目をやると多くの露店が立ち並ぶ商業区があり、幾人もの露天商が様々な物を販売していた。
人ゴミの中に響き渡る店主の呼び声、それに負けないような大きな声で店主と価格交渉をしている買い物客も見える。
そんな活気の満ちた区域を潜むように移動する二人がいた。
しかし光学迷彩を使って移動しているその二人に目をやる者は誰もいない。
その不可視化した二人組は他人にぶつからないように注意を払いながらも黙々と進む。
路上をなるべく音を立てない様に移動しながら、そのうちの一人が声の届く位置に人がいない事を確認すると隣を歩く者に話しかけた。
「お姉様、この街は領都だけあって結構活気がありますね」
「そうね……。それよりも、このあたりに目的の建物があるはずなんだけど……」
私……ヨシコは周囲をぐるっと見回す。
そこは商業区域の一角にある倉庫街のような場所で荷物を運びだしてる者がチラホラと見える。
「あ、お姉様、あの建物じゃないですか?」
目的の印……本当は文字のようだが私はまだ文字が読めないので記号でしかないが、教えられた物と同じような印を見つけ足早にその建物へ向かう。
そして裏口へと向かい教えられたとおりの場所をよくよくみると鍵のようなものが見えた。
「これがカギね……」
私はそれを取り出すと扉へを向かい、辺りに人気がない事を確認して鍵を差しこむ。
「ガチャリ」思いのほか大きな音を立てながら錠が外れると私は両手を使って扉を押し開け中に入ると急いで扉を閉めた。
締め切られた室内はかなり暗く、小さな換気用窓からわずかな明かりが差し込むだけだった。
しかし光を何倍も増幅できる光学センサーを持っている私やヤスコからすれば不自由のない明るさだった。
室内は奥の方にわずかな荷物があるもののかなり広い。
人の出入りは長い間無いのだろう、床には埃が堆積していた。
私はおいてある荷物の埃を払ってから腰を下ろすと「ふぅ……」とため息をついた。
「なんとかここまで辿りついたわね……」
「はい、結構時間かかりましたね」
私達はブルメンが治める街から街道沿いを五日ほど歩いてここまで来たのだ。
幸い私達だけなら光学迷彩で不可視化すれば検問も障害にならなかった。
幸い検問こそあるものの街道は封鎖されておらず、ブルメンから貸し出された地図を見ながら領都までは迷うこともなかった。
この場所はエリンの側近であるミーナの知人が所有しているという倉庫だ。
領都で一時的に身を隠す場所として紹介してくれたのだ。
「ここで夜になるまで待機ですね」
ヤスコの言葉に頷きながら、私は日が落ちるまでのしばらくの間、目を瞑りつかの間の休憩を取るのだった。