45 提案
「やっと普段の美しい君らしくなったね、エリン」
ブルメンの館。その食堂でニコニコしながらそう声を掛けたのはこの館の主ブルメン・フォン・フォーセリアだ。
エリンは今までと違う、如何にもな高級そうなドレスを身に纏い、高貴な立場である雰囲気を醸し出していた。
私とヤスコもゆっくりとお風呂に入って身を清め、エリンの物程でないがそれでも高価そうな衣服に身を包んでいた。
「ところでエリンが私に期待する役割はなんだい?私に出来る事などほんのわずかしかないと思うが……。正直エリンを長期間かくまう事すら難しいよ?」
「まだ詳細は言えませんが、フルト叔父を排除する計画は出来ています……。しかし排除した後のなりゆきは今だ未知数です」
そこで言葉をきりエリンは私とヤスコの顔を交互にみると言葉を続ける。
「ブルメン叔父上はもし仮にたった今フルト叔父が亡くなったとしたらどうなると思いますか?」
「……そうだね、すでに君の父上、母上、兄君は亡くなっているうえに、君とニムは行方知れずだ。フルト兄上の娘はまだ二歳だったか?それを形式的に領主にする?すると実権は誰がもつかな?フルト兄上の側近のだれかかな?」
それを聞いたエリンは口に手をあててフフフッと笑みを浮かべる。
「ブルメン叔父上は意図的にご自分の事を話題に出さない様にしていますね。女が領主になれないということはありませんが、一段階低くみられるのは確かです。もしフルト叔父になにかあった場合は、叔父上がもっとも領主の座に近いのですよ?」
先ほどまで違いブルメンは冷え冷えとした視線をエリンに向けている。
これ以上この話を続けたくないという感じだろうか?
「……それで?私に何を期待しているんだい?」
「今は完全に軍権を握っているのはフルト叔父ですが、もしフルト叔父が亡くなればどうなるでしょう?もちろんフルト叔父の娘を押す者もいるでしょうが、元々フルト叔父は簒奪者ということもありあまり印象はよくありません。おそらく少なくない者がブルメン叔父上の方が正当な後継者とみなすでしょう」
「……それで?」
「そのタイミングで私の存在を公にし、叔父上こそ正当な後継者であると発言すればさらに多く有力者が叔父上に付くと思います。……私の婚約者候補だったという事実もありますし」
「それが君の狙いか……」
「はい、その上で私についてきた者やニムを叔父上の下で保護していただきたいとおもっています」
「私がそれを断ったら?君をフルト兄上に売るかもしれない……」
エリンは己の立場を深く理解していない叔父をため息交じりで見つめた。
「その場合は叔父上にとってもあまり良くない未来がまってますね。フルト叔父の子はまだ幼くしかも娘です。自分になにかあればブルメン叔父上が取って代わるかもしれないという疑念は持っているはずです。今は私が生きているから私を最優先で捕えようとしていますが私とニムの問題が片付いたら次は叔父上の番ですよ?」
その言葉を聞くとブルメンは、「はぁー」と、とても嫌そうな溜息をついたのだった。




