44 ブルメン・フォン・フォーセリアという人物
「それでも、表には出さないだけで不満を持ってる人はいるだろうね。なんだかんだいっても君の父上は人望があったから。それで……エリンはなぜ今頃私のもとに?私には何の力もないのは知っているだろう?」
「……私はこの方々の協力を元にフルト叔父を排除します。その時にブルメン叔父上に協力をしていただきたいのです」
するとブルメンはいかにも嫌なことを聞かされたような苦み走った顔になった。対するエリンはにっこりとほほ笑んでいる。
「排除?本気かい?先ほどから言っているように私には何も力がないんだよ?フルト兄上に掛かれば私なぞ簡単に滅ぼされてしまう……。エリンがそれを知らないとも思えないがね」
「ブルメン叔父上は何もしなくてもいいんです……。正確に言うとフルト叔父が排除されるまでは何もしなくてかまいません。動いていただくのは排除された後になります」
「それはそれは……。あのフルト兄上を排除ねぇ……。よほど自信があるのかな?」
「これは一種の賭けです、ただし分の良い賭けになると思っています」
「分の良い賭けねぇ……。私としてはエリンの賭け事に一緒に付き合うよりも君をフルト兄上に売って好感度を得た方がいい……と、そう考えているとしたらどうする?」
そういってブルメンはタバコに火をつけ、そして大きく吐き出した。
「それも一応考えましたが……、現状手立ては浮かびませんでした。つまり成功のいかんにかかわらずブルメン叔父上を信用するのは前提になります」
ほぅ、とブルメンは呟く。
「そこまで私を信用してくれているのはうれしいね」
「えぇ、何と言ってもブルメン叔父上は私の婚約者候補でしたからね」
と、言ってエリンは可愛らしく微笑みを浮かべ、それを聞いたブルメンは対象的に苦笑する。
「まぁいいか。勝ち馬に乗れるなら乗っておくべきだね。フルト兄上になにかがおこるまで、エリンを客人として迎えようじゃないか」
「ありがとうございます、ブルメン叔父上」
「さて、客人として迎える事がきまったからにはそれなりのお持て成しをしなければならないね。まず着替えかな?婚約者候補としては君のそんな恰好を見ているのは忍びないからね」
それを聞いたエリンの顔は、真っ赤に染まったようにみえた。
私達の服装は確かに古着も同然で所々ほつれが目立つものだ。さらに密航する為荷馬車の藁の中に潜んでいたため藁も付いている。
「あとは風呂にも入ったほうがいいね。一緒に入って洗ってあげようか?」
「なっ!何を言って!」
その様子をみたブルメンは笑いながらメイドを呼ぶと、部屋と着替えと風呂を準備するように指示し、新しく取り出したタバコに火をつけるのだった。