35 反撃
いまだ喧噪の続く方角へ歩き始める私はわずかな血の匂いを感じ僅かに眉をひそめた。
人が争うような音もどんどん大きくなっていく。
「ヤスコ……、襲ってきた人たちは何人ぐらいだと思う?」
「そうですね……、本当にここの集落を滅ぼそうとすれば100人以上は必要ですね。セオリー通りなら100人以上200人以下という所ではないでしょうか?」
「そんなに……」
足を進めるごとに血の匂いが強まっていく……。
そし視界に敵らしき者を捕らえた瞬間、突然ヤスコが走り出した。
その直後、ヤスコと私の元に十数本の矢が降り注ぐ。
「きゃ!!」
私は思わず両手で顔を覆い矢を防ごうとする。
矢が衣服と外皮に突き刺さろうとするが、突き刺さることなく落下した。
あー、びっくりした、ちょっと怖かったわね……。
私の体のは『フリーダム・ファンタジー・オンライン』では第三世代型と呼ばれるPVP(対人戦)を考慮した多少コストは高いが耐久性に優れたタイプだ。
筋肉部は超強化分子プラスティックで出来ており、矢や通常弾みたいなものでは貫通できない。
そして超鉄といわれる超合金で出来た骨格は仮に筋肉部を破壊されても動き続け、表面を覆う外皮は有機人工皮膚だが傷ついてもナノマシンが自動修復してくれる、というゲーム内設定になっている。
『フリーダム・ファンタジー・オンライン』は詐欺や窃盗、強盗、殺人といった犯罪者プレイが認められているため少なからずPKと言われる行為に会うことは少なくない。
しかしそれらの大半は宇宙で行われるため耐久力はあるがコストが高い合成体を使用している者はそれほど多くなかった。
宇宙船や脱出ポットを撃破されれば、どんな高性能な体を使用していても戦闘不能、オフラインゲームでいうところの残機が減ってしまうからだ。
ただ少数ながら惑星上での銃を使ったPKもあるため私を含めて一部の者は耐久性の高い体を使用していた。
ヤスコの体はNPC専用の汎用型とよばれるプレイヤー専用の体より安価なタイプだが、それでも骨格は超強力鋼で出来ているという設定だ。
「なんだと!?」
敵の声かしら?明らかに動揺した様子ね。
顔を覆っていた手を下ろし声の方角を見るとヤスコが手に持ってる剣で敵を薙ぎ払いながら進んでいた。
剣を振るたびに立ちはだかる敵の体が水平に飛び、体液が飛び散る。
ヤスコが通った跡には二十人近い人数が地面に転がっていた。
それを見た私は――
うわ、グロッ。やだ……何あれ?




