32 交渉
「それはいくつかの条件がやや厳しいので止めておきましょう。2つ目はこの地を拠点にゲリラ戦……いわば盗賊のようなものですね。この地を拠点にし敵の物資や武器を奪い再興の資金にします」
「私達が盗賊になれと?」
周りにいる一人が立ち上がり声を荒げる。
「現状貴方達の戦力では真正面から領地の奪還など無理ではないのですか?で、それならば味方の戦力を蓄えつつ敵の戦力を削っていくしかありません。見た所物資もかなり不足しているようですね」
「……それで?具体的にはどのようにするのですか?」
「まずは恰好からはいりましょう。貴方達の格好は大分くたびれてますがそれでも盗賊としたらきれいすぎます。そのままではすぐに落ち延びた正規兵とバレでしまうでしょう。それから言葉遣ですね、盗賊らしい言葉遣いに、無理なら喋らない事ですね」
盗賊って西部劇の悪党?みたいな感じかしら……
そんな事を領主の娘のエリン達にやらせていいの?
「あとは決して民衆から奪ってはなりません。あくまで奪うのは敵軍からです。それを忘れてはいけませんよ」
「無論です。私達が領民から物を奪うなど……あってはならない事です。それと……」
と、エリンはそこで言葉を区切り、私とヤスコの顔を交互に見つめたあと言葉を続けた。
「さきほどヤスコ殿が仰ったことですが、貴方達なら叔父上に勝てると言うのは本当ですか?」
「えぇ、本当ですよ。ただし、その場合は私達の出す要求を全て飲んでいただきます」
「……要求とは?」
「エリン殿が与えられるものを全て……。地位を含めた貴方の全てをいただきます」
「なんだと……!?」
その言葉を聞きエリンが大きく目を見開き、遅れて周りの者が立ち上がると、怒鳴り声をあげた。
それは……ちょっと大丈夫なのかしら、襲い掛かって来たりしないわよね?
「あなた方は……。全てというのは単純にお金などではありませんね?まるでお話に出てくる悪魔のようなものいいですね」
「さて……過分な願いに対する正当な要求だと思っていますが。仮に私達が悪魔だとしてなにか問題があるのでしょうか?」
エリンは何も言わずに俯き、そしてしばらくしてからやっという感じでで口を開いた。
「それは私一人では決められない事です……、周りの者と相談させてください」
エリンは傍にいた女性に二言三言呟くと
「あなた方は暫くこの集落にとどまっていただけませんか?天幕を用意させます」
と言う言葉と共にエリンの天幕から追い出されるように退出した。